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世界水泳では2001年福岡大会の女子3mシンクロナイズドで銅メダルを獲得したが、その後は目立つ成績を上げられていなかった日本の女子飛び込み。

しかし、東京五輪へ向けた強化の中で選手たちの意識も変わり、2019年世界水泳韓国では2名が上位に食い込み東京五輪出場枠獲得という快挙を果たした。

その一番手が、3m飛び板飛び込みの三上紗也可(21歳、日体大/米子DC)。

予選を8位通過すると準決勝で7位と順位を上げ、決勝では準決勝より15点も伸ばす323・05点で、同種目日本人最高の5位入賞を果たして東京五輪出場内定。

さらに10m高飛び込みでも、2016年リオデジャネイロ五輪8位の板橋美波(JSS宝塚/滋賀県スポーツ協会)がケガで出場できなかったなか、チームメイトでもある荒井祭里(JSS宝塚/武庫川女子大)が得意の入水の美しさを武器に入賞は逃したが9位になって東京五輪出場に内定した。

2019年世界水泳で日本女子18年ぶりの入賞を果たした三上紗也可

三上は、「あの世界水泳で自分の目標ががらりと変わりました。あの時は決勝へ行けば五輪内定だったのでそれが最優先でしたが、今はもう決勝へ行くのは絶対に当たり前で、決勝ではもっと素晴らしい演技をしてメダルを獲るという目標になった」と話す。

しかし、東京五輪は悔しい結果になった。予選は5位通過と素晴らしい滑り出しをしたが、準決勝では3本目の305B(前踏切後ろ宙返り3回半エビ型)の大失敗で16位になって敗退。「305Bはどうなっても真っ直ぐ入水出来るだろうと自信過剰になっていた」と反省する。

「世界水泳の後、メダルを狙えると周りからも期待されて自分でも自信を持っていたので、メダルしか見えていない状態だった。先日セミナーでスピードスケートの小平奈緒さんの話を聞いた時、2回目の五輪は結果を求めすぎて失敗したと話していたので、メダルは意識しても『自分らしい演技が出来れば満足かな』と気持ちを切り替えています」(三上)

意識も高くなって次のステップへと踏み出している三上は、代表選考会だった2月の翼ダイビングカップでは東京五輪3位相当の345・20点を獲得。東京五輪で失敗した2本はともに助走からの飛び出す種目だったが、「今は助走で少し失敗しても、真っ直ぐ入水出来る力が付いてきている」と自信も持つまでになった。

東京五輪では緊張もあり悔しい結果となった荒井祭里

東京五輪では予選敗退と悔しい結果だった荒井祭里(21歳)も、「陸上練習をたくさんするようになって安定感も出てきた」という状態。2月の翼カップは3位だったが、予選では東京五輪6位相当の336・60点を出している。

そして今回、さらに心強いのは、17年の世界水泳ブタペスト大会を経験している板橋美波(22歳)が、2018年からの網膜剥離や疲労骨折というアクシデントが続いた窮地から復活し、シンクロだけではなく個人戦にも出場することだ。

「久しぶりに世界大会の個人戦に出られるので調子も上がってきて、トレーニング量も増やしているので筋力も戻ってきて、以前のような演技に少しずつ近づいていると思う」

こう話す板橋の最大の武器は、男子でも少ない109C(前宙返り4回半抱え型)だが、今はまだ温存し、356・60点を出して8位になったリオデジャネイロ五輪の時の種目構成で挑戦。翼カップの予選では330・70点を出すまでに戻し、荒井とともに入賞圏内に付けている。

その板橋は、荒井と東京五輪にも出場した10mシンクロナイズドではメダルを狙う位置にいる。五輪では4本目終了時には3位に付けていたが、最後の5253B(後ろ宙返り2回半1回半ひねりエビ型)でミスをして6位に落ちる悔しい結果だった。

「どれだけ調子が良くても、最後の1本でつかみかけていたものを逃してしまったので、最後まで気を抜かないことと、練習でも一本ずつ集中して飛ばなければいけないことを思い知らされた」

このように話す板橋は、荒井とも陸上練習から合わせることを意識し、翼カップでは東京五輪3位相当の299・70点で優勝。「目標にするのは300点超え。他の国の選手と比べたら難易率は低いので、息の合った演技をしてきれいな飛び込みを目指している。そこに注目してほしい」と話す。

ケガを乗り越え世界水泳でのメダル獲得を狙う板橋美波

そのシンクロ飛び込みでは、3m板飛び込みの三上と金戸凜(18歳、セントラルスポーツ)もメダル獲得に挑戦する。

金戸は2019年世界選手権10m高飛び込みに出場した選手。昨年11月からシンクロを組むと、翼カップでは東京五輪2位相当の304・50点を出して優勝した。

金戸は父の恵太さんと母の幸さん(旧姓・元渕)だけではなく、祖父の俊介さんと祖母の久美子さんも五輪に出場している飛び込み界のサラブレット。

「小学生の時は、『お父さんお母さんや家族が五輪へ行けてたから凜も行けるよ』みたいにすごく言われて、それがあんまり好きじゃなかった。親が行けたから私が行けると決まっていないのに言わないでほしいと思っていて。

でもちょっと大人になってからは、お父さんお母さん、祖父や祖母のおかげで飛び込みというマイナースポーツの中で自分が注目されているのを、プレッシャーもあるけど、『自分が頑張ればそれでいいのかな』と思うようになりました」(金戸)

2019年世界選手権高飛び込みは予選5位通過と好調だったが、準決勝の1本目で右肩を負傷して敗退。そのケガの影響もあって東京五輪出場を逃す悔しさを味わった。

代表選考会だった2月の翼カップも、高飛び込み2位、3m飛び板飛び込み3位で代表を逃しているだけに、シンクロ飛び込みでメダルを獲得して次のステップへという気持ちも強い。

三上と金戸。2024年のパリ五輪に向け期待のシンクロペア

三上は「(金戸の)きれいな入水やきれいな姿勢を見習いたい」と話し、金戸は「(三上の)ジャンプ力とか高さを見習いたい」という仲。

「私はまだずっと紗也可ちゃんを追いかけていて、彼女みたいに力強く飛びたいし、安定性のある演技がしたいなって思います。シンクロでは去年初めて合わせてバラバラだったけど、今は以前と比べたら本当に合ってきていると思います。

3本目の405B(後ろ宙返り2回半エビ型)が大事な種目になると思いますが、5本中4本やるエビ型は抱え込みより難易度が高いぶん、揃ったらすごくきれいなので、ふたりできれいな蝦型をしたいです」(金戸)

翼カップでは高得点を出したふたりだが、「世界水泳は自己ベスト更新が目標。315点を出したい」と意識は高い。

来年の世界水泳福岡大会や、2024年パリ五輪へ向けた大躍進も予想される女子飛び込み。今大会の注目度は高くなってきている。<ライター:折山淑美>