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ジャパニーズSUVの新しい傾向、「クーペSUV」という潮流

 SUVは実際、戦時中の軍用車両をルーツに持つ。一方、民用車としての「ジャパニースSUV」は初代スズキ エスクードあたりから人気が持ち上がり、今では一大カテゴリーに成長した。

 もともと軍用が源流であるから、SUVはどちらかといえば、武骨な外観デザインがほとんどであった。が、最近は流麗さを求めた「クーペSUV」が段々と増えてきているという。本企画ではそんなSUVの変遷について、筆者に解説してもらった。

文/石川真禧照
写真/マツダ、ベストカーweb編集部

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■乗用4WDとクロカン4WDのいいとこ取りをしたSUV

 日本でSUVというジャンルが確立したのは2000年代に入ってからだった。それまでは、RV(レクレーショナルビークル)というカテゴリーだった。さらに時代をさかのぼると、クロスカントリー4WD、オフロード4WDという名称で認識されていた。

 SUVという名称が出はじめたのはトヨタが1990年代半ばにRAV4を発売してから。同じ頃にホンダも初代CR-Vを発売している。ホンダはこのCR-VをクロスオーバーSUVと称していた。両モデルに共通しているのは、乗用4WDのコンポーネンツを用いて、車高の高いワゴン形状のボディを架装していたことだ。

初代RAV4は1994年発売だが、1996年にはEV仕様も登場している。なお、2012年にトヨタとテスラで共同開発したEVもRAV4だった

 乗用4WDとクロスカントリー4WDのいいとこどりをしたのがSUV(スポーツユーティリティビークル=多目的スポーツ車)として新しいジャンルを確立したのだ。

 日本にSUVが登場してから20年が経過した。この間に国産車のSUVは各メーカーから発売された。もちろん、わが国独自の軽自動車にもSUVは登場している。

■2010年代から増えるクーペSUV

 そのSUVに最近になり、新しい動きが出始めている。それがクーペタイプのSUVだ。これまでのSUVはルーフがリアエンドまで伸び、テールゲートは垂直とまではいかないが直立していた。

 ワンボックスカーやミニバンに近い室内高と空間を持ちながら、乗用セダンに近いドライビングポジションを実現したことから、ファミリーカーとしての人気を集め、今やファミリーカーの中心はミニバンではなく、SUVに移ってしまった。そのSUVにこれまでとは異なる形状のクルマが登場しているのだ。

 その兆候は、実は2010年あたりから感じられた。その年に日産がジュークを発売したのを覚えているだろうか。コンパクトSUVだったが、ボディ後半のデザインはクーペ的で、スポーティな走りを実現していた。

 リアシートを多少犠牲にしても、スタイリング重視のスポーツクーペのようなSUVを作る。このアイデアを国産メーカーでいち早く実現したのが日産だったのだ。

■無骨になりがちなSUVをエレガントに

 一方、世界に目を向けると、BMWがこの分野に目をつけ、実用化していた。

 2007年にデビューしたSUV、2代目X5をベースに、ボディ後半をクーペ化したX6を2008年に発表、発売したのだ。BMWはXシリーズを発売した時に、SUVという名称を使わずに、SAV(スポーツアクティビティビークル)という造語を考え出し、使用していた。X6はその延長線上で、SAC(スポーツアクティビティクーペ)を名乗った。

 この新SUVクーペは販売戦略において成功した。この成功に気をよくしたBMWは、2014年に2代目X3をベースにしたSUVクーペのX4を発売した。さらに2018年には2代目X1をベースにしたX2をデビューさせている。

 SUVクーペを開発した目的をBMWに取材してみると、「もともとSUVというのはスタイリングが武骨になりがち。SUVにエレガントさを求めるユーザーもいるので、スタイル優先のクーペを開発した」と言っている。

■BMWに続け!?

 確かに初めてSUVクーペとしてデビューしたX6に試乗してみると、X5に比べてリアシートは低めになった頭上スペースを確保するために着座位置を低くしていた。

 目の前はフロントシートの背もたれが拡がっており、閉所感があったのはいなめなかった。スタイリング重視のSUVを作ったのだ。しかし、モデルチェンジを繰り返し、その閉所感も巧みに処理するようになった。デザインもそれまでのSUVにはない、スポーティで、スマートなスタイリングだった。

 ちなみにBMWのライバル、メルセデスベンツは2015年に発売した初代GLEクラスをベースに翌年の2016年にクーペを発表している。これがメルセデスとしては初のSUVクーペだった。レンジローバーイヴォークは2011年デビューの初代モデルからクーペを設計している。これもBMWの成功を見ての動きだ。

 国産車では日産ジュークなどが発売されたものの、ベースにSUVがあり、それをクーペ化したクルマは市場に出てこなかった。ファミリーカーとして位置付けていたので、遊び的要素の多いクーペは、販売台数が望めないと考えたのだろう。

 例によって、売れる売れないで生産を決定する日本メーカーらしい判断だ。

■SUVは現代のセダン

 その流れに逆らうように登場したのがマツダのMX-30だ。MX-30はCX-30をベースにクーペ化したモデル。

 ホンダヴェゼルやレクサスUX、三菱エクリプスクロスといったクーペ系モデルと異なるのは、ノーマルSUVがあり、そこから派生する形でクーペを作ったことだ。

 MX-30を開発した理由はどこにあるのか。BMWと同じような理由なのかを取材してみると、「マツダとしては、SUVが今の時代のスタンダードカーだと考えています。セダンがスタンダードカーの時代には、多様化としてセダンをベースにしたクーペやコンバーチブルがありました。それと同じで、SUVのなかでユーザーニーズの多様化に合わせてボディ形状を揃えたのです」との答え。

「心がととのえられる」空間を提供することを目指したCX-30。狭いイメージのあるクーペスタイルでありながら、観音開きドア採用で開放感があるという相反する感覚を演出

 マツダとしてはファミリーカーの中心がSUVになったのだから、派生車種として遊び心やパーソナル化としてSUVクーペをラインナップした、ということなのだ。

 マツダは今後、CXシリーズやMXシリーズを拡大していく予定だが、このなかにもSUVクーペが用意されているはず。

■国産SUVは生まれるのか

 そこで期待したいのが、SUVスポーツカーだ。

 実はBMWがSAC(スポーツアクティビティクーペ)を作った理由のなかに、「走り」の要素がある。これもBMWからの答えに「BMWといえば走りのイメージがある。それをSUVの世界で展開しようとした時に荷室は制限されるが、重心を下げて、しっかりとした走りを実現できるクーペを考えた」

 確かにX5とX6を比較すると全長、全幅は変わらないが、全高はクーペのX6のほうが75mmも低いのだ。当然、重心は低い。

 マツダのCX-30とMX-30を比べてみると全高はCX-30が1540mm、クーペのMX-30は1550mmで、クーペのほうが10mm、全高が高くなっている。マツダは派生車としてクーペを発売したが、単にリアスタイルのスポーティさ、パーソナルさを追求しただけなのだ。

 これは第1段階としてはしかたがないのかもしれないが、せっかくSUVクーペを発売したのだから、もう一歩踏みこんで重心の低い、本当の意味でのスポーツSUVクーペを作ってほしい。走りの味付けをわかっているマツダなら、きっと楽しいSUVクーペを作ってくれるに違いない。


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