新車を買う上で、大事な指標のひとつがハイブリッド(HEV)設定の有無だろう。プリウスのようなHEV専用車やそもそもHEVの設定のないクルマがあるが、コンパクトカーやミニバン、SUVなどの人気車種にはHEVとガソリン車の両グレードが設定されている。
世界的な電動化の流れの中で各メーカーもそちらに舵を切っているが、現時点で購入価格や維持費、リセールバリューまで加味すると、HEVとガソリン車のどちらが買い得なのだろうか?
文/小林敦志、写真/ベストカー編集部
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■HEVを用意するのはもはや当然?
“本格量販HEV(ハイブリッド車)”の先駆車といえばトヨタ プリウスともいえ、プリウスは言わずと知れた“HEV専用モデル”となっている。
トヨタ アクアやホンダ インサイトなど、しばらくHEVは専用モデルが目立っていたのだが、いまではトヨタやホンダの売れ筋モデルでは、同じモデルでもガソリン車とHEVの両方をラインナップするのが半ば当たり前となっている。
HEVが出始めたころから、同クラスガソリン車に比べて価格が割高な分は、ガソリン代を節約することで「元が取れるのか?」という議論が行われてきた。さまざまな試算方法があるものの、販売現場においては「長距離利用を頻繁に行うような利用方法がない限りは元を取るのは難しい」と説明を受けるのが一般的。
一般乗用車よりコストが厳しく求められるのが商用車だが、ライトバンのトヨタ プロボックスにもHEVの設定があるが、街なかではプロボックスのHEVを意外なほど目にするので、商用車並みに日々酷使するならば、メリットが大きいといえるのかもしれない。
さらにHEVに関しては下取り査定が難しいともいわれてきた。
「ガソリン車ならば、走行距離が少なければ、それなりにポイントは高くなります。HEVの場合は“使いすぎる(過走行)”のはガソリン車同様マイナスポイントとなりますが、走行距離が少なすぎるのも、それはそれで“ハイブリッドシステムやバッテリーのコンディションが心配”との声もあります。
しかし、それを客観的に査定時に探る術がないので、ガソリン車ほど査定額の“伸びしろ”が期待できないケースも目立ってきました」とは事情通。
しかし、現状の新車販売においてはガソリン車とHEVの両方がラインナップされていれば、HEVが選ばれることが圧倒的に多い。
現状人気車でガソリン車が積極的に選ばれるのは、トヨタ アルファードぐらいである(ただし2.5L直4)。これはアルファードならではの問題もある、HEVは4WD(E-Four)しかラインナップされていないのである。つまり、2.5L 2WDガソリン車に比べると価格がかなりアップしてしまうのである。
そのため、例えば特別仕様車の[S“TYPE GOLD III”]でみると、2.5L 2WD 直4搭載車に対し、HEV仕様は84.8万円も高くなってしまうのである。ここまで顕著な価格差はないものの、やはり同一車種でガソリン車とHEVの価格差というものは目立っていたが、最近ではそうでもなくなってきてい。
■価格や燃費でも勝負できるようになったHEV
2022年1月13日に正式発売となったトヨタ ノア&ヴォクシーについて店頭で話を聞くと、「先代比でガソリン車とHEVの価格差が狭くなっております」とセールスマンがアピールしてくる。
例えば、先代ヴォクシーのあるグレードをサンプルにすると、ガソリン車よりHEVのほうが約50万円高かった。しかし、新型ヴォクシーで同じように計算すると、HEVはガソリン車に比べ35万円高に抑えられていた。
先代ではデビュー当初はHEVの人気が高かった。だがHEVが約50万円高だっただけでなく、実用燃費面でガソリン車がHEVと遜色がなかった(際立ってHEVは燃費がよくなかった)ということもあり、その後はガソリン車の需要が増えてきた。
それでも、そもそもHEVのほうが生産比率が高かったこともあり、HEVのほうが納車が早くなるといったこともあったと聞いている。
「それ以前(先代ノア&ヴォクシーより前)の5ナンバークラスのミニバンは2L直4エンジンを搭載するのが一般的であり、実用燃費では“km/L”で一桁台というのが当たり前でした。
先代ノアのガソリン車の2WDで一般的なグレードのJC08モード燃費のカタログ数値は16.0km/Lであり、実用燃費でもだいたいこのレベル、つまり二けたの燃費数値は出していたそうです。
このクラスを乗り継いできたユーザーから見ればそれだけでも大きな燃費改善ともいえるので、『HEVと目立った差もないしガソリンでいいか』ということになっていたそうです」(事情通)。
新型ノア&ヴォクシーのハイブリッドユニットは大幅刷新が行われ、燃費性能も大幅に改善されているといわれている。ガソリン車との価格差が縮まっていることもあり、新型ではHEVの販売比率が大きく高まっていきそうである。
現状納期遅延でも、あくまで予定レベルとなるがHEVがガソリン車より数カ月納期が遅くなる程度なので、納期を意識してガソリン車を選ぶ必要もないといえよう(ただし現状の社会情勢をみると、今後はHEVのほうが納期の混乱傾向が目立つのではないかともいわれている)。
■各社で目立つ「HEV推し」
このような傾向はノア&ヴォクシーだけでなく、ライバル各車でも同様の様子がうかがえる。
ホンダ ステップワゴンでは、正式発売前に販売現場を訪れると、販売比率はHEVが多いとの話が聞けたし、日産セレナでは「セレナといえばe-POWER」とセールストークを展開するほど、まるでガソリンエンジン仕様がないかのように、e-POWERに特化している様子がうかがえた。
もちろん、今回はミニバンクラスをサンプルとして紹介しているが、ほかのクラスでも傾向は同じ。
極端な例ともなるが、トヨタ カローラクロスでは、どちらがより需要があるかという話以外(生産体制や部品の供給体制など)も当然影響しているが、納期でみるとガソリン車が2023年2月以降であるのに対し、HEVが2023年11月以降となっていたり、HEVのほうが納期はかかる車種が目立っている。
さらにHEVの需要を押し上げようとする動きもある。残価設定ローンにおける設定残価率で同一車種でもガソリン車とHEVで差をつけようとする動きが目立ってきている(当然HEVのほうが設定残価率は高い)。
これは、政府が2050年までのカーボンニュートラル社会の実現を発表し、2030年代半ばまでにガソリン車の販売禁止を進めようとする動きが影響している。
「政府がクルマだけを見ても、電動車普及へ舵を切っており、消費者の間でも電動車というものが俄然注目されています。
そもそも国民性として“お上のお達し”というものの浸透力は早く、そして強いものがあり、いまは混乱している中古車市場ですが中長期的に見れば、中古車でも電動車のほうがより流通スピードは加速していくとの判断によるもののようです」(事情通)。
今後新車購入を検討する時は、「政府も言っているしなあ」とHEV(あるいはPHEV[プラグインハイブリッド車]やBEV[バッテリー電気自動車]、FCEV[燃料電池車])の購入を前提に商談を進めるという流れがはさらに目立ってくるだろう。
下取り査定額も中古車としてのニーズがさらに高まれば、相場自体の底上げにもなっていくだろう。
■軽自動車の場合は事情がちがう?
課題としては、このような傾向がすべての車種にまだあてはまっていないということになっていること。
例えば、2021年12月にフルモデルチェンジを行った新型アルトを見てみよう。新型アルトはフルハイブリッドではないものの、エネチャージ仕様に加えてマイルドハイブリッド仕様をラインナップしているが、量販グレードをエネチャージ仕様となるLと位置付けている。
その証拠といってもいいのが“アップグレードパッケージ”の設定である。これはLの装備に加えLEDヘッドランプやフルオートエアコンなどを装備した、いわば“お買い得仕様”となっている。
このバリエーション展開から見てもLが販売中核グレードとなっているのがわかる。販売現場でも「どちらがおすすめですか?」と聞くと、「マイルドハイブリッドを選ばなくてもそんなに燃費性能変わらないですから」とLを積極的にすすめられた。
軽自動車はスペースやコストの問題もあり、フルハイブリッドやそれ以上の電動化が難しいとされている。
先ごろ軽規格BEVが日産と三菱からデビューしたが、販売現場では「いままでの軽自動車ユーザーというよりは、登録コンパクトカーやそれ以上のクラスにお乗りのお客様でご興味のあるひとへアピールしたい」との話が多かった。
現状マイルドとはいえ、ハイブリッドユニットを搭載する軽自動車はアルト以外、スズキ スペーシア、同ハスラー、同ワゴンRほかごく一部しかない。アルト以外は“高額軽自動車”と呼んでもいい、下手すれば支払総額で250万円も珍しくない仕様が含まれるモデルとなっている。
そのクラスになると、「ハイブリッドなんだ」とダイハツ同クラス車ではなく、スズキ車が選ばれるケースも目立ってくるが、軽自動車本来のコストを重視したクラスでは“ハイブリッド”は馴染みにくいと判断し、当面は中古車市場でもメリットが薄いと見ているようである。
今後は、純粋な内燃機関車に乗っていれば、自動車関係諸税の税額アップなど、電動車がより優遇されることも十分考えられるので、わかりやすくいえば、まずは“最低でもHEV”という視線で新車選びをしていかなければならなくなるように、多方面から“誘導”されることになっていきそうである。
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