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「知ってるつもり」が一番危ない!! ハンドルの正しい握り方と間違った握り方のリスク

 交通事故の調査研究を行う、公益財団法人 交通事故総合分析センターの統計によると、2021年に発生したクルマが第一当事者(主として過失の重い方)となった事故のうち、「ハンドル操作不適」が要因とされたものは、3353件。この数値は、ニュースなどで頻繁に取り上げられる「ペダルの踏み間違い(3180件)」と同程度であり、死亡事故はペダル踏み間違い(55件)よりも、ハンドル操作不適(253件)のほうが多くなっている。

 現時点で多く普及している先進運転支援では、アクセルとブレーキは多くのシーンでシステムに操作を委ねることも可能となっているが、ハンドル操作は、アシストこそしてくれるものの、一部のモデルの限られたシーンを除いては、まだドライバーが「離していい」とはなっていない。それだけ、重要な操作であるにもかかわらず、片手で操作するなど、甘く見ているドライバーがとても多いと感じる。

 ハンドルの正しい握り方を改めてご紹介するとともに、間違った握り方が引き起こすリスクについても、ご紹介しよう。

文:吉川賢一
写真:Adobe Stock、写真AC、エムスリープロダクション

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おススメは「9時15分」

 ハンドルを握る位置に関しては、以前は「10時10分(アナログ時計の「10」の位置に左手、「2」の位置に右手)がいいとされていた。しかし、パワーステアリングが普及した現在では、ハンドル操作にそれほど力は必要なく(10時10分の位置で握ると力が入れやすかった)、また、ステアリングギア比が以前よりもクイック(少ない操舵角でクルマの向きを変えることができる)になっているため、微妙な調整のしやすい9時15分が適切、とされている。

 (安全運転講習を担当する自動車ジャーナリストのなかでは「10時10分の握り位置だとエアバッグが展開した際に腕を負傷するリスクがあるため」という理由で9時3時を推奨している方もいらっしゃるそうです)

 また、この9時15分の位置は、両手でハンドルを持ったまま、もっとも大きく操作できる位置でもある。ハンドルを持ち替える際は、一瞬でも片手運転の状態になる。それをもっとも避けられるのが、9時15分の位置、というわけだ。

 ちなみに、自動車教習所では現在、(教習所によって多少異なるようであるが)「9時15分から10時10 分のあいだ」として教えているようだ。「おおよそその範囲ならOK」ということなのだろう。

握り方は「親指を巻き込まない」

 ハンドルは、握る位置以外にも、握り方も大切。親指を巻き込まずに、ハンドルの内側に軽く添える程度にするのがポイントだ。こうすることで、ハンドルと手のひらの接触面積が大きくなり、路面からのインフォメーションを拾いやすくなる。親指を巻き込んで「ギュッ」とハンドルを握りしめてしまうと、力んでしまうためにハンドル操作がぎこちなくなったり、大きく回す際に邪魔になったり(スポークに指が引っかかる)、キックバックで親指を痛めたりと、いいことがない。

 ただし、ステアリングホイールの表皮や、ステアリングアシスト特性が重めにセッティングされているクルマ(昔のクルマに多い)によっては、親指を添えるだけでは滑ってしまって回しにくい、といった場合もある(だから親指を握りこんでいる、という方が実際いた)。その場合は、面倒でもドライブ用のグローブなど、滑り止めの対策をして、やはり親指は巻き込まずに握るようにしてほしい。

親指を巻き込んでハンドルを握ると、力みによってハンドル操作がぎこちなくなったり、大きく回す際、指がスポークに引っかかったり、キックバックで親指を痛めたりと、いいことがない(PHOTO:Adobe Stock_yu_photo)

正しく握らないことで、緊急回避が遅れる

 まっすぐ走行するぶんには、9時15分で握ろうが、10時10分であろうが、8時20分であろうが、難なく運転することはできる。なんなら両手使う必要もなく、ウインカーも含めて片手で運転することだってできなくはないだろう。それでも、両手で9時15分の位置を握らなければならない理由は、万が一の際に、もっとも確実に素早く対応できるのが、9時15分だからだ。

 例えば道路の凹凸や轍、横風など、ハンドルが取られる要因はたくさんある。突然、突風に襲われた際も、9時15分でしっかりと握っていれば支えられたのに、ハンドルの下のほうを軽く持っていた程度だったために、支えることができず、風に流されてしまうかもしれない。

 また、道路上の落下物など、とっさの回避が必要となるシーンはよくあるもの。もしも、片手で運転していて、緊急回避をしなければならない状況になったとき、とっさに両手に持ち替えているようでは、間に合わないかもしれない。ほんの一瞬の違いだが、その一瞬で、事故は避けられるかもしれないし、事故となってしまってもその程度は大きく変わる。

 このような緊急事態ではなくても、想定よりもカーブがきつかった(もしくは自車の車速が速かった)ために、ハンドルを切り増さなければならないシーンで、切り増しが遅れて逸脱してしまうなど、正しい位置で握っていなかったために起こる危険はたくさんある。

 「しっかり握っているなんて疲れるしかっこ悪い」と思うかもしれないが、事故となってしまった後にも、同じことを思うだろうか。冒頭で触れたように、ハンドル操作不適による事故は、死亡事故となる確率が高い。それはほんの一瞬の出来事であるため、ブレーキなど全然間に合わないからであろう。

◆      ◆     ◆

 もちろん、冒頭でふれた「ハンドル操作不適」のすべてが、ハンドルを握る位置に問題があるわけではないが、ハンドルを握る位置で、とっさの際の回避が間に合うか間に合わなくなるか変わってくる、というのは頭に入れておいてほしい。

 運転は、慣れと油断がもっとも危険。毎日乗る人こそ、気を引き締めたうえで、運転を楽しんでほしい。

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