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このところ、食料品を中心にモノの値上げが続いています。今年は食品だけで1万品目以上が値上がりしており、下半期には年初予想以上の値上げも見込まれるとのまとめもあります(参照:帝国データバンク「企業の今後1年の値上げに関する動向アンケート(2022年6月)。育ち盛りの子どものいる家庭では、食費の出費増にいっそう頭を抱えることになりそうですが、問題は食費だけではありません。

目下の値上げラッシュは、子育て世帯の重大な支出である教育費にも影響を与えかねないからです。なにより、教育費の値上げはずっと前から続いており、年々深刻度を増しているのです。

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大学学費は30年以上も値上げ続き

特に高くなってきているのが、大学の学費です。平成以降の大学の年間授業料の推移を見ると、国立・私立ともに大幅に上昇したことがわかります。国立は2005年以降据え置かれていますが、私立は現在に至るまで上昇が続いており、平均額は年間100万円に迫る勢いです。子ども全体の大学進学率が高くなってきていることもあり、共働き世帯の中には、子どもの教育費のためにダブルインカムで働いているという人も少なくないはずです。

0〜18歳、毎月4万円貯められる?

大学進学に必要なのは、授業料だけではありません。受験料や通学費用、教科書代なども合わせると、さらに高額なお金が必要です。日本政策金融公庫の調査をもとに計算すると、国公立でも4年間合計で約480万円、私立なら文系で約700万円、理系なら800万円超もの費用がかかることがわかります。

これを親が準備するとなると、どれほどの負担なのかを考えてみましょう。かりに子どもが生まれてからすぐに、進学時期の18歳まで貯蓄をするとしたら、単純計算で国公立でも毎月2.2万円を貯めなければなりません。私立理系を想定するなら、月に4万円近くが必要です。

これは、子どもが高校生までにかかる教育費とは別です。生活費は言うまでもなく、習い事や塾などの月謝とも別に、大学のためにこの金額を貯め続けるのは、一般家庭には決して楽ではないと思います。子どもが2人ならその2倍、3人なら3倍必要です。今のようなインフレ局面が今後も続けば、家計から大学のための貯蓄を捻出するのはもっときつくなるはずです。

しかも、これは現在の学費水準をもとにした試算です。子どもが大学進学するまでの間に、学費がさらに高くなれば、貯めるべき金額の方程式も変わってしまいます。いまの日本では、自力で子どもを大学に行かせるには相当な経済力が無いと難しいのが現実なのです。

家計負担が重すぎる日本の高等教育

かねてから、大学など高等教育に対する家計の負担は、諸外国と比べてたいへん重いことが指摘されてきました。高等教育全体への公的財源の割合は3割ほどにすぎず、それはOECD諸国のなかでイギリスに次いでワースト2です(参照:Education at a Glance 2021: OECD Indicators)。その背景には、進学するなら家庭の責任で資金を準備するものだという価値観が、日本の教育政策の中心だったことが関与しているともいわれます。

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しかしながら、日本の賃金水準は学費の高騰に反してほとんど上がっていません。当然ながら家計だけで進学資金をまかなうのは難しくなってきており、近年は奨学金を頼る大学生が増えてきています。奨学金の利用率は49.6%と、この20年で20ポイント近く増加しました(参照:日本学生支援機構「令和2年度学生生活調査」)。

大学生の懐事情も、かつてに比べて実家からの仕送りの割合が減り、奨学金やアルバイト収入が増えています。筆者がファイナンシャルプランナーとして教育費の相談に応じる際にも、奨学金を前提に子どもの教育費の計画を立てる家庭が増えてきていると感じます。

ただ、日本の奨学金のほとんどは貸与型です。返還をしなくてもよい給付型の奨学金は、国の制度では低所得世帯向けのものに限られています。貸与型は卒業後に子どもがお金を返さなければなりませんし、有利子タイプなら利息も払わなければなりません。

社会に出る時点でいわば借金を抱えたマイナスのスタートになることが、本人のキャリアやライフプランに差し支えることはないのか、あるいはそれを乗り越える経済力が付くように教育していくのか。親も子も、進学に際してはこうしたお金の面も十分に考えておく必要がありますが、受験勉強に忙しいなかでは、とても現実的とは言えないでしょう。

参院選が転換点になるか?教育支援策の拡充

奨学金制度はじめ高等教育への支援は、今後拡充される期待はあります。折しも7月の参院選では、各党が教育に関わる公約を掲げています。現状では低所得層に限られている給付型奨学金や授業料減免の対象を中間所得層まで広げることや、貸与型奨学金の返還を出世払いとする制度の導入、高校の授業料無償化の所得制限撤廃などです。

選挙がどんな結果であれ、公約が実行されれば多少なりとも教育費の負担軽減につながると期待できます。一方でひとりの有権者として思うのは、政策に関わるすべての人に、子育て世代の負担を他人事にせずに政策を進めてほしいということです。

一票の裏には、長らく低迷が続く日本経済において、給料が上がる希望を持てないまま、数百万円もの子どもの教育費と増え続ける高齢者の社会保障のために働き、昨今は値上げと奮闘しながら地道に節約や貯蓄に勤しむ市井の親たちの労苦があることを、どうか忘れないでほしいと思います。