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スマホ、テレビ、GPS。そして現在進められている10m級のワイヤレス給電技術など、私たちの生活の中で様々な用途に利用されている「マイクロ波(前編参照)」。後編では、マイクロ波を使った壮大な研究についてお話します。

※画像はイメージです(3DSculptor /iStock)

日本人博士が挑む壮大な研究とは

わたしたちが抱えている大きな問題の一つ「エネルギー問題」。人類が地球上で何万年先まで生き延びていくための、無限でクリーンなエネルギーは存在するのか…。世界中で研究が進められる中、ある壮大な研究開発に挑んでいる日本人博士がいます。

その研究開発とは「宇宙に太陽光発電衛星を打ち上げ、宇宙空間で太陽光発電をおこない、その電力をワイヤレスで地球に送電する」というもの。「宇宙から地球にワイヤレスで送電?そんなの無理じゃない?」って思ったあなた。決して、夢物語ではありません。経産省やJAXAは2045年〜50年頃の実用化に向け着々と動いているのです。

しかしなぜ、宇宙で太陽光発電をおこなうのでしょうか。また、どうやって実現するのでしょうか。

なぜ、宇宙なのか?

クリーンで無限なエネルギーである太陽光エネルギー(第12回参照)。この太陽光エネルギーによる発電を地球上ではなく宇宙空間でおこなう大きなメリットは、「より効率的な電力供給が可能になる」ということです。地球上での太陽光発電は、時間(昼夜)や天候に左右されてしまいます。

例えば日本だと、年間で平均して太陽光発電できる時間は一日のうち3〜4時間ほどしかありません。しかし、宇宙空間では、春分秋分の夜間(最大70分程度)を除き24時間直射日光を浴びることが可能。かつ大気の影響もないことから、地上に比べて約10倍の太陽光エネルギーを利用できるといわれています。

また、地上での太陽光発電は、太陽光パネルの表面に空気中の埃などが付着し発電効率が落ちていきます。しかし、宇宙では空気がなく汚れません。放射線や宇宙ゴミが当たることで劣化はしますが、それでも地上の倍近く稼働できると考えられているのです。

どうやって実現する?

では、経済産業省から発表されている宇宙太陽光発電システムをイメージしてみましょう。

まず。地上から36,000km上空に太陽光発電衛星を打ち上げます。太陽光パネルの大きさは約2km四方(衛星1基あたり100万kWを想定)。巨大ですね。そのパネルにより太陽光発電をおこない、得られた電気エネルギーをマイクロ波に変えて地上に送電します。

※画像をクリックすると拡大(出典:資源エネルギー庁「脱炭素化に向けた次世代技術・イノベーションについて」2018年2月)

このマイクロ波を受電するのは直径約4kmの受電アンテナ(日本は土地が少ないため海上に建設される想定)。このとき、パイロット信号を発する受電システムのみに送電される仕組みになっています。こうして受電したマイクロ波は、再び電気エネルギーに変換され、電力会社につながれていくのです。

克服すべき課題は何か

もちろん、克服しなくてはいけない課題はあります。まず1つ目は、原子力発電などに対抗できる発電コストを実現するため、現状よりも低価格で大量輸送が可能な宇宙輸送システムの確立です。

JAXAによると、輸送費を現在の数十分の一程度まで下げ、1日100t級の大量・高頻度の輸送が必要とのこと。この課題を克服するため、再使用型の大型宇宙輸送機の実現に関する議論が進められています。

そしてもう1つは、長距離のワイヤレス電力伝送の技術の確立です。36,000kmの距離、かつ巨大なエネルギーをマイクロ波で伝送しなくてはいけません。そのための研究開発が、今まさに進められているのです。

※クリックすると画像拡大=出典:経済産業省製造産業局宇宙産業室、一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構「宇宙太陽光発電における無線送受電技術の高効率化に向けた研究開発事業委託費の概要(中間評価)」2022年1月14日

人類存続のため、夢を現実に。

この宇宙太陽光発電技術。1960年代〜70年代までは米国を中心に研究が進められてきました。しかし、コストや技術の課題が障壁となり、各国が研究開発を取りやめます。そんな中、日本だけが手放さず地道に研究開発を進め、世界をリードする立場となったのです。(近年、再び宇宙太陽光発電技術が注目され、米国、中国が積極的に研究開発を進めています。)

マイクロ波電力伝送技術の研究開発における第一人者で京都大学教授の篠原真毅博士はMugendaiのインタビューの中で次のように述べています。

日本では、私の教官だった松本綋・京大教授が日本で最初にマイクロ波による電力伝送技術に取り組みました。私は、人類存続のために夢を現実に変えていこうとする先生の壮大なプロジェクトに惹かれて、松本研究室への入室を志願しました。

人類存続のために夢を現実に、という強い思いが、大きな課題を抱えながらも途中で投げ出すことなく研究を続けていく原動力となったのでしょう。いつの日か、日本の博士たちの思いが実り、夢が実現に変わる瞬間がやってくると私は信じています。