飲料メーカー大手・UCC上島珈琲(兵庫県神戸市、朝田文彦社長)は22日、今年9月1日出荷分からレギュラーコーヒー製品の一部、10月1日出荷分からコーヒーを中心とした飲料製品の一部を値上げすることを発表した。発表によると、店頭価格で約7~20%値上がりするという。
コーヒーの値上げをするのは、UCCだけではない。セブン-イレブンは、7月から「セブンカフェ」で販売する「アイスコーヒー」「ホットコーヒー」を値上げする。アイスコーヒー、ホットコーヒーともに、「Rサイズ」は100円から110円に、「Lサイズ」は150円から180円に値上げする。
値上げ理由はコーヒー豆価格の高騰
コーヒーに限らず、このところあらゆる商品が値上げされているが、その理由はほぼ共通している。多くの商品は、原油価格の高騰による資材やエネルギー、物流費の高騰に加えて、このところの円安を受けて値上げしている。もちろん、コーヒーの値上げもこういった理由が大きいのだが、それに加えてコーヒーならではの理由もある。それは、コーヒー豆価格の高騰だ。
現在、コーヒー豆は世界60カ国で生産されているが、その中で最も生産量が多いのがブラジルだ。世界全体のコーヒー豆生産量の約3割をブラジルが占めている。次いで、ベトナム、コロンビアの順で生産量が多い。
日本では、沖縄県や東京・小笠原諸島でコーヒー豆の生産が行われているものの生産量は少なく、ほぼすべてを海外からの輸入に頼っていると言っても良い。日本の輸入量はブラジル、ベトナム、コロンビアの順で多く、この3カ国で全体輸入量の7割ほどを占める。財務省の「貿易統計」によると、2020年はブラジルから約11万7000トン、ベトナムから約10万トン、コロンビアからは約6万トンのコーヒー豆を輸入している。
実はこの3カ国が、それぞれ別の理由でコーヒー豆を通常通り輸出できない状況に陥っており、それがコーヒー豆価格の高騰、さらにコーヒー商品の値上げにつながっている。
コーヒー豆価格、高騰の理由
ブラジルは、昨年発生した寒波によりコーヒー豆をはじめとした農作物の記録的な不作が理由だ。南半球にあるブラジルは、北半球の日本とは季節が真逆になる。昨年7月、冬のブラジルを寒波と大規模な霜害が襲った。
コーヒー豆には、収穫量が多い「表作」と収穫量が少ない「裏作」があるのだが、昨年はブラジルでは「裏作」にあたる年。もともと収穫量は少なかったところに加えて、寒波と霜害によって収穫量が激減した。ロイターによれば、被害は最大20万ヘクタール(東京都の面積は21万8867ヘクタール)に及んだ。UCCが昨年、ブラジル全土を調査したところ、ブラジルのコーヒー豆の生産量は、約30%の減少が見込まれたという。
コーヒー豆の生産量世界第2位のベトナムの場合は、新型コロナでの主要都市のロックダウンによる、輸送状況の悪化に原因がある。ベトナムでは、寄港地や経由地で、混雑や荷役時間の長期化による到着遅延が常態化しているという。さらに、港湾での労働力不足も深刻化。労働力不足によりベトナムでは、港湾荷役の停滞、貨物滞留も深刻化している。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、この状態は2023年まで続くと見られている。
コロンビアの原因は、政情不安だ。コロンビアでは昨年、新型コロナによって拡大した格差の是正を求めて、長期間に渡って大規模な反政府デモが行われた。デモは1カ月以上に渡って続き、数十人の死者も出ている。コロンビア国内では約3000もの道路や、港湾が封鎖された。その結果、コロンビアでは昨年5月に本来であれば110万トンのコーヒー豆を輸出しなければならなかったが、実際に輸出できたのは40万トンにとどまったという。
いつまで続くのか…
主要生産国が三者三様の原因で、コーヒー豆を通常通り輸出できないことになり、その結果、コーヒー豆市場は高騰を続けている。全コーヒー生産量の7割から8割を占めるアラビカ種の価格は、2019年1月時点では、1キロあたり2.83ドル(約380円)だった。ところが、今年2月には1キロあたり6.17ドル(約830円)にまで上がっている。原材料がここまで上がってしまえば、企業も値上げしなくてはやっていけないだろう。
コーヒー豆の価格がいつ落ち着くのかは、原因が一つではないため、まだ誰にも分からない。今年に入ってからピークは越えたとはいえ、5月の時点ではまだ1キロあたり5.74ドル(772円)の値を付けている。2019年1月と比べると2倍以上だ。
1日2杯コーヒーを飲んでいた人は、1日1杯にするなど、しばらくは地道な節約をしていくほかないのかもしれない。