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クルマを運転するにもドレスコードあり!?

 「クルマの中は自分のプライベートエリア! だから裸で運転しても大丈夫!」なんて考えている人もいるかもしれない。果たして車中は「私的エリア」なのか? それとも「公的エリア」なのか? 今回は車中の定義と、運転時の服装に関して検証したい。

文/鈴木喜生 写真/写真AC

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クルマは公的エリアと思うのが無難

クルマを運転するにもドレスコードあり!?
公的エリアである公道にクルマを停めれば当然、車内も公的エリアに使い位置づけとなる。そのため、車内だからといって裸になったり、周囲の人を不快にさせるような行為はNG

 まず、車中が「公的エリア」なのか、「私的エリア」なのか、という問いについて考えてみよう。車中は法的に定義されているだろうか?

 道路交通法を読んでもその定義は書かれていない。では、刑法に照らし合わせてみてはどうだろう? 少し特殊なケースかもしれないが、もし他人が勝手に自分のクルマの中に侵入した場合、その人間はどんな罪に問われることになるのか。

 その場合の犯罪名としては「窃盗」「住居侵入」「不動産侵奪」などが思い浮かぶ。しかし、クルマは移動できるので不動産ではない。そのため「住居侵入」や「不動産侵奪」などの罪に問うことはできない。

 ただし、クルマに勝手に乗り込んだ人間は、クルマという他人の財産を窃盗しようとしたのだと考えれば、「窃盗未遂」(刑法第243条)に問うことができる。

 窃盗未遂とは、窃盗行為に着手した時点で成立する。酔っぱらった人物が、他人のクルマの中で寝ていた場合でも、窃盗行為に着手したと考えれば、その罪が成立する可能性はある。  

 クルマというものが上記のような性格のものだということから考えると、車中は他人が侵すことは許されない私的エリアと言えるものの、家屋とは明らかに異なる。クルマは家屋などの不動産とは異なり、公道上や駐車場など、存在する場所の制約を常に受けるからだ。そういった意味では、クルマが公的なエリアにあれば、当然ながらその車中も公的なエリアにある空間だと考えられるだろう。

「裸」で運転が「公然わいせつ」に問われることも……

クルマを運転するにもドレスコードあり!?
海水浴場などにクルマを停めて、車中で水着に着替える時にも注意が必要。場合によっては公然わいせつになることもあり得る

 「クルマが公道上や一般施設の駐車場などの公共の場にあれば、その車中も公的なエリアにある」と考えられるのであれば、「裸」で運転することが罪つながることは容易に想像できるだろう。

 車中で裸になった場合、道路交通法ではなく、別の法律で罪が問われる可能性がある。そのひとつは刑法による「公然わいせつ」の罪だ。

 公然とは、「不特定または多数人が認識しうる状態を指す」(最決昭和32年5月22日刑集11巻5号1526頁)とある。つまり、みんなが見ることができる状態で、わいせつな行為をしたら罪になりますという意味だ。もし裸で運転する行為がこれに該当すれば、6カ月以下の懲役、もしくは30万円以下の罰金を支払うことになる(刑法第174条)。

 また、軽犯罪法に抵触する可能性もある。その第1条の20号には、「公衆の目に触れるような場所で公衆にけん悪の情を催させるような仕方でしり、ももその他身体の一部をみだりに露出した者」(条文ママ)と記載されている。

 つまり、公衆の面前で尻やモモを露出して、嫌悪感を抱かせたら罪になるわけだ。この場合、1日以上30日未満、刑事施設に収容されるか、1000円以上1万円未満の罰金を支払うことになる。ただし、オートバイならまだしも、クルマを運転しながら尻やモモを公衆に見せることは難しいと思うが。

ドレスコードは存在する

クルマを運転するにもドレスコードあり!?
カカトが固定されていないサンダルなどは検挙される可能性が高いので注意。運転に適した履物の着用を心がけたい

 では、クルマを運転する時、裸でなければどんな格好をしていても罪には問われないのか? 服装に対する制約や規定はあるだろうか?

 この点に関しても道路交通法では明確に規定していない。ただし、道路交通法の第70条では「安全運転の義務」として以下のように規定している。

 「車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない」

 つまり、「ハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作」できないような服装と判断された場合には、処罰を受ける可能性がある。足元の動きが制限される着物や、足からすぐに脱落する恐れのある草履やサンダル、アクセルとブレーキ操作の支障になるようなハイヒール、左右や後方の確認ができない不自然な被りモノなどは、これに該当する可能性があるので注意が必要だ。

 ちなみに2019年、僧侶が檀家回りの際、僧衣を身に着けた状態で運転をしていて、福井県警に青色キップを切られたというニュースが大々的に報道された。

 警察は、白衣(はくえ)の裾が両足の太もも、膝、足元に密着すると同時に、布袍(ふほう)と呼ばれる上着の両袖が垂れ下がっていたと指摘したのだ。こうした服装ではシフトレバーに袖が引っ掛かる恐れがあり、事故回避のための俊敏なブレーキ操作が行えないと判断したという(朝日新聞)。

 しかし、この僧侶は反則金6000円の支払いを拒否。後日、福井県警も「証拠の確保が不十分で違反事実が確認できなかった」として、この件に関して送致しないことを決定している。

 運転中の服装は一律で規制されるものではない。しかし、発生した事故の原因が明らかに着衣に起因するものであれば、事後的にその罪が問われることになる可能性は高いだろう。

 いずれにせよ移動手段であるクルマは、基本的には公の場にあってはじめてその目的を果たす。であればルールとマナーが伴うことは明らか。ドライバーには常に安全と節度が求められることは皆さんすでにご承知の通りだ。

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