2022年シーズンで7年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。F1第8戦アゼルバイジャンGPは、前戦モナコに続く市街地コースが舞台となる。モナコで大きなクラッシュを喫したミック・シューマッハーには早く自信を取り戻してもらいたいと小松エンジニアは語るが、FP1でトラブルに見舞われ走行時間を失ってしまった。またケビン・マグヌッセンにはトラブルが発生し、獲れるはずのポイントを逃すレースが続いている。
コラム第8回は、前編・後編の2本立てでお届け。前編となる今回は、アゼルバイジャンGPの現場の事情を小松エンジニアが振り返ります。
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2022年F1第8戦アゼルバイジャンGP
#47 ミック・シューマッハー 予選20番手/決勝14位
#20 ケビン・マグヌッセン 予選16番手/決勝DNF
大クラッシュのあったモナコを終えて、アゼルバイジャンGPを迎える前にミックと話し合いをしました。アゼルバイジャンでのミックは明らかに意気消沈している感じでしたね。とにかくたくさん走らせて早く自信を取り戻してもらいたかったのですが、FP1でクルマが壊れてまったく走れなかったのは痛かったです(激しい振動が原因でエンジン冷却パイプが外れてしまい、コース上でクルマを止めざるをえませんでしたが、エンジン自体は大丈夫でした)。
FP2でも特にブレーキングにまったく自信を持てないまま、ケビンとのタイム差も大きかったです。土曜の朝、FP3前にもう一度話しましたが、週末中に軌道修正をすることは結果的にはできませんでした。
予選ではQ1終盤に赤旗が出て、セッション再開後は渋滞の影響もあり思うようなアタックはできませんでした。その前のランス・ストロール(アストンマーティン)の黄旗でアタックを中止せざるを得なかったランでケビンはターン7手前でコンマ5秒ほどタイムを更新していたので、タラレバですが、もし普通にこのアタックを終えることができていれば1分43秒台半ばのタイムで、11番手辺りにはいけたのではないかと予測しています。ミックはそのケビンのコンマ5秒落ちくらいだったので、1分44秒0で16番手あたりかなと。Q2に行けたどうかは疑問です。
さて決勝レースを振り返っていこうと思います。ケビンはいいレースをしていたのですが、突然ターボ関連の部品が壊れてしまいました。シャルル・ルクレール(フェラーリ)もエンジン関連のトラブルでリタイアしてしまいましたし、フェラーリPU勢としては散々な結果となりました。残念ながらPU関連の問題点はなかなか言えることが少ないのですが、ケビンの場合、レース中は温度も圧力もまったく問題なく走っていました。ですから予期していない状況で突然壊れてしまったということです。
特にバクーのコース特性や気象状況がPUの問題に繋がったとは今の段階では考えていません。まだ部品はマラネロで分析しているところで、念のため次のカナダGPではケビンに3基目のPU(ターボとMGU-Hを含め)を投入しますが、今のところその使い方を変える予定はありません。
ケビンは予選で速さを発揮できずQ1敗退となってしまいましたが、決勝では前のクルマ何台かよりは速いと予測していました。また数台はハードタイヤでスタートするだろうと予測できたので、ケビンはミディアムタイヤでのスタートを選択しました。最後尾のミックはハードでいった方が選択肢が広がりますし、2台で戦略を分ければセーフティカーや赤旗により幅広く対処することもできます。
ケビンはスタートで順位を落としたものの、その後のペースはよくてストロール、バルテリ・ボッタス(アルファロメオ)やアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)を抜くことができました。その後、周冠宇(アルファロメオ)にも追いつき、タイヤの具合もよかったので序盤は狙い通りの展開になりました。
カルロス・サインツ(フェラーリ)が油圧系の問題で止まった際にVSCが出て、迷わずピットインしてハードタイヤに交換し、ここから最後まで行く予定でした。VSC解除後もペースはよくて、ハードタイヤでスタートし、VSC中にピットインしなかったストロールとボッタスを再び抜くことに成功。その後は、タイヤを労りながら走っていました。18周目にピットインしたフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)には抜かれてしまったものの、まだピットインしていないエステバン・オコン(アルピーヌ)にはすぐに追いつけました。
しかし、問題は最高速不足でオコンを抜けなかったことです。ウチはバクーに向けて新しいリヤウイングを投入していなかったので、どうしても最高速が伸びなかったんです。それでもアロンソの後ろで完走すれば少なくとも10位は見えていました。ランド・ノリス(マクラーレン)には勝てていたと思いますし、ダニエル・リカルド(マクラーレン)もケビンのリタイアによって出たVSCがなければノリスの前にいることはありませんでした。ですからアロンソが7位でレースを終えたことを考えると、ケビンは8位フィニッシュが可能でした。
マイアミ、スペイン、モナコから4戦続けて獲れるポイントを獲り逃がしているので非常に消化不良なレースが続いています。ミックはレースでもまったく速さがなくポイント圏内でのフィニッシュは見えていませんでした。モントリオールでは立て直します。
ちなみに、イギリスより東のアゼルバイジャンから西のカナダまでは、直行のチャーター便で12時間ほどかかります。ですから月曜はほぼ1日移動となりました。火曜日はガレージやオフィス設営などのセットアップクルーだけサーキットに入り、メカニックはお休み、エンジニアはホテルで仕事です。クルマやエンジンなどメインの貨物は水曜の午前中にサーキットに着いたので、僕たちはお昼ごろサーキットに入り、結局カーフューぎりぎりの夜8時まで作業をしました。それでもすべての準備は順調に進み、木曜日も無事カーフューまでに予定したいた作業を終えることができました。連戦で常に時間との戦いですが、今のところ上手く対応できています。
(第8回後編・カナダGPに続く)