<p>あなたはなぜ「参戦」するのか?ウクライナ侵攻でサイバー攻撃に手を染める市民たち|NHK</p><p>日本政府はウクライナの避難民を受け入れている。寄付を行う人もいる。しかし中には、サイバー空間の「戦場」に足を踏み入れ、攻撃に参加する人もいる。 「間違った戦争だと。許せなかった」攻撃に参加する男性は、そう語った。 世界に飛び火する”サイバー戦争”の実像とは。</p><p>ウクライナ侵攻で、サイバー空間では、世界中の市民ハッカーたちが、敵と見なした国を次々と攻撃する異例の事態となっている。彼らは、違法行為にもかかわらず、なぜ攻撃に参加するのか。NHKは「IT軍</p><p>「IT軍」の指示に従って、男性が行っているのは「DDoS攻撃」と呼ばれるものだ。ウェブサイトやサーバーに対して大量のデータを送りつけることで大きな負荷をかけ、機能停止に追い込むサイバー攻撃の一つだ。 攻撃先は「IT軍」が毎日のようにSNSでリスト化して指示してくる。参加者はそれに従い、世界中から次々と攻撃を仕掛けていく。 さらに「IT軍」は、スキルのない人向けに、さまざまな攻撃ツールを提供している。たとえば「千の針による死」と名付けられたソフトウエアは、ダウンロードして、起動するだけで攻撃を行うことができる仕組みになっていた。 「IT軍」の公式サイト 赤は機能停止しているページ 現在、「IT軍」が攻撃対象としているのは、ロシアの金融機関や交通機関、メディアなど900余りに上っている。(6月22日時点)。「IT軍」の公式サイトには、攻撃対象としたサイトが、実際に機能停止しているかどうか、リアルタイムで状況を把握するページもあり、攻撃がどれほど効果を上げているのか、わかるようになっている。 市民に及ぶサイバー攻撃 こうした中、先月(5月)プーチン大統領は、ロシアへのサイバー攻撃で、市民生活への影響が深刻化していると、コメントを発表した。 ロシアに対する明白な侵略行為、情報空間の戦争が起きている。著しい増加だ。重要な情報基盤のインターネット資源を無効にしようとする試みが行われている こうした「IT軍」が行うDDoS攻撃。目的は、ウェブサイトやサーバーの機能停止だが、長期間にわたって多くの攻撃を世界中の参加者から断続的に受け続ければ、防御する側の対応は難しい。しかも、その被害は小さくないと、専門家は指摘する。 NTTデータ エグゼクティブセキュリティアナリスト 新井悠さん たとえばショッピングサイトに攻撃を行えば、販売そのものができなくなり、収益を上げられなくなってしまう。じわじわ効いてくる攻撃のタイプで、経済的なダメージを与えたり、一般の市民に不便を強いたりすることによってロシア政府当局に対して、市民に不満を持たせようとしているという意図もあると見られる 最初は葛藤も…サイバー攻撃が日常化 私たちは、「IT軍」に参加する日本人の男性に、攻撃の影響は、ロシア政府だけでなく、一般市民にも及ぶ可能性があること。そして、法律に触れる可能性があることを指摘した。 「IT軍」に参加する男性 犯罪だという自覚はもちろんあります。ですから葛藤がありました。でもこれはもう、やらなければいけないことだと言い聞かせて続けています。攻撃した先のサイトの関係者、利用者がどれだけ困っているかイメージできますから、当初は、相当精神的に不安定になりました。手が冷たくなったり、体に震えが来たり、そんな状態が1週間くらい続きました。やっている行為自体は、キーボードを打っている、普段の仕事と変わりませんが、“戦争に参加している”という精神的なプレッシャーが大きかったです 男性は、毎日午後、「IT軍」がSNS上に投稿する攻撃先リストを確認し、それに基づき、10ほどのウェブサイトなどに攻撃を行うよう、自身で組んだプログラムを動かすことを繰り返している。そして、男性は、今、当初抱えていた葛藤は薄れてしまっていると話した。 IT軍」に参加する男性 今はIT軍は、組織的に動いていて、命令が来る時間もだいたい決まっているので、それを淡々と毎日繰り返しています。ルーティンワーク化して、ごはんを食べるのと一緒です。戦争がなじんでしまっている、生活の一部になってしまっている。これを麻痺していると言わないで、なんて言うんでしょうか もしかしたら、実際の戦場で戦争に参加している人と一緒なのかもしれません。最初の1人を銃で撃つまでは、すごく怖いけど、10人撃ってからは、すごく機械的にこなせるようになってしまうんじゃないか…。そんな感覚と一緒なんじゃないかなと。そういう人間が、世界中に今25万人以上いるんです 犯罪行為は推奨できず 世界中の“普通の市民”が参加しているウクライナ「IT軍」。関連するサイトなどを詳しく調べると、攻撃手法が詳しく解説されたマニュアルが見つかった。そこには、こんなただし書きがあった。 攻撃手法マニュアルのただし書き サイバー攻撃は、日本を含む多くの国で法的に禁止されている。多くの参加者たちが、サイバー攻撃が犯罪行為になるとリスクを理解したうえで、参加しているのかどうかはわからないが、そのリスクを認識し、さらに何らかの報復にあう危険性もあると、専門家は指摘する。 慶應義塾大学 土屋大洋教授 ウクライナを助けたいと参加している人も多いかもしれませんが、IPアドレスで身元が特定されれば、不正アクセス禁止法違反などで検挙される可能性もありますし、相手から報復を受ける可能性も懸念されます。サイバー攻撃の影響力が甚大になるにつれて、実際に戦争に参加し、攻撃していると同じ、と判断される可能性も出ています ロシア側を支持するグループも 市民が参加する、サイバー攻撃。取材を進めると、ロシアを支持するグループも複数現れていることがわかった。そのうちの一つ、ハッカー集団「KILLNET」=キルネット。ロシアに敵対的だとみなせば、ウクライナ以外の国であっても報復すると宣言。アメリカの空港やイタリア政府のウェブサイトなどを攻撃したと、主張している。 アメリカの国土安全保障省は、「世界中の重要なインフラに脅威をもたらす」などとして、名指しで危険性を指摘している。</p>