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 2022年も上半期が終わり、新車ではノア/ヴォクシーやステップワゴンといった人気のミニバン系の発表・発売が目立った。その一方、かつてのクルマの代名詞のセダン界ではクラウンが早々にオーダーストップ。フーガやシーマやインサイトも生産中止と明るい話題がない。

 世界では根強い人気のセダンがなぜ日本では凋落するのか? そのナゾに迫ってみると、日本の意外なクルマ文化が見えてくる……かもしれない。

文/渡辺陽一郎写真/トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、スバル

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■SDGsにピッタリ!?  セダンという存在について

 セダンはかつて一番の売れ筋カテゴリーだったが、今は品揃えが大幅に減った。日産はシーマとフーガを廃止するから、同社のセダンはスカイラインのみになる。ホンダもシビックe:HEVの投入と併せてインサイトを終了するから、セダンはアコードのみだ。マツダもマツダ3とマツダ6にかぎられる。

日本のセダンの代名詞と言えばカローラだろう。そのカローラも今はワゴンのツーリングやSUVのクロスが売れ筋。しかし、その陰でセダンも目立たないながら意外にも堅調に売れているという

 その点でトヨタは、小型/普通車の新車登録台数が国内市場全体の半数に達するメーカーだから、セダンもクラウン、カムリ、カローラ、カローラアクシオ(継続生産車)、センチュリー、MIRAI(燃料電池車)と豊富にそろえる。

 それでもセダンは伸び悩み、直近になる2022年3月の登録台数を見ると、クラウンは2504台でロッキーやデリカD:5と同程度だ。1990年には、クラウンは1カ月平均で1万7000台も登録されたが、今は大幅に少ない。

 同様にカローラ(カローラアクシオを除く)も1650台だから、カローラシリーズ全体の10%に留まる。カローラシリーズで最も多く登録されたのは、カローラクロスの7060台で、今はシリーズ全体の41%を占める。トヨタのセダンも低調だ。

 海外でもセダンの売れゆきは伸び悩み、フォードはセダン市場からの撤退を表明した。それが北米トヨタの場合は、2021年に最も多く売られた車種はRAV4で、2位にカムリが入った。ピックアップトラックのタコマ、SUVのRAV4やハイランダーに混ざってセダンのカムリも堅調だ。カムリの価格帯は、2万5000ドル少々から始まるので、北米で売られるトヨタ車のなかでは比較的低めになる。

■セダンは低重心・高剛性が快適性と走行安定性を両立!!

 そこで改めて、セダンの価値を考えてみたい。

 セダンは大半の車種が全高を1500mm以下に抑え、SUVやミニバンに比べると重心が低い。

ボディ剛性の高さは走りの安定感にもつながる。トランクを独立させることで室内の遮音性も高い。いいことづくめのはずだが日本では絶滅の危機に。SUVのような華がないのがいけないのか??

 また、ボディの後部に居住空間から独立したトランクスペース(荷室)を備えるため、後席の後ろ側にはボディ骨格や隔壁が設置される。そうなるとセダンは、SUVやミニバンに比べてボディ剛性を高めやすい。

 そして、低重心でボディ剛性が高ければ、走行安定性を向上させやすい。高速道路やカーブの多い峠道、あるいは走行中に危険を避ける時も、セダンであればSUVやミニバンよりも安心して運転できる。

 セダンボディは、乗り心地にも優れた効果をもたらす。剛性が高く低重心で、乗員の着座位置も低いからカーブを曲がったり、路面のウネリを通過したりする時もボディが左右に振られにくい。セダンではクルマ酔いが生じにくい人もいる。

 さらにセダンには居住空間から隔離されたトランクスペースがあり、そのなかに後輪が位置するから、タイヤが路上を転がる時に発するノイズも伝わりにくい。

■今も高級車としての要件を実現させやすいパッケージも実はセダンなのだ

 このようにセダンは走行安定性と乗り心地が優れたカテゴリーで、いい換えれば安心と快適性を向上させやすい。究極の快適性を追求するセンチュリーは、今でもセダンボディを採用する。セダンが伝統あるカテゴリーで、センチュリーのようなフォーマルなイメージを備える理由も、セダンボディの特徴とされる快適性に基づく。

 また、セダンは低重心かつ高剛性のボディによって走行安定性を向上させやすいから、WRXのような高性能なスポーツモデルを開発する時も有利だ。高性能車は、2ドア/3ドアボディのスポーツクーペやHBとも親和性が高いが、後席を装着しない車種もあって実用性は低い。

 その点でセダンは、高性能を発揮させやすく、なおかつ後席の居住性や乗降性もいい。ファミリーカーとして使える実用性も確保できる。

 このほか、中高年齢層のドライバーにとってSUVやミニバンは着座位置が高めに感じるが、セダンであれば視線の位置もなじみやすいから運転しやすい。立体駐車場の利用性が優れていることもセダンの特徴だ。

■日本車では淘汰されるが海外勢は依然としてセダンが数多くラインナップされる

SUV全盛と言われるなかでも写真のベンツなどはセダンのラインナップを堅持。やはり、ファッション感覚のSUVでは得られない快適性や走行性をセダンに求める文化があるのだろう

 セダンは走行安定性と乗り心地が優れているから、日常的に高速走行の機会が多い地域に適する。特にメルセデスベンツ、BMW、アウディなど欧州のプレミアムブランドでは、走りの質、安心と快適が重視され、今でもセダンのラインナップが豊富だ。

 それなのに国内で売られる日本車では、レクサスブランドを除くとセダンが激減した。その結果、日本のセダン市場が、輸入車に浸食されている。クラウンは今後、前輪駆動になって多彩な発展をするというが、セダンボディは廃止できない。クラウンの価値は、日本のユーザーが共感できる日本車ならではの安心と快適にあり、その実現にはセダンボディが不可欠であるからだ。

 本来ならクラウンは、前後輪の重量配分が優れ、操舵感覚がアクセル操作の影響をほとんど受けない従来と同じ後輪駆動が好ましいが、セダンであれば前輪駆動に変わってもクラウンの持ち味は継承できるだろう。

 従ってセダンの人気が下がっても、その魅力は色褪せない。特に今は衝突被害軽減ブレーキを始めとする安全装備への関心が高く、快適性を向上させる運転支援機能も人気の装備となった。もともと安心と快適性が優れたセダンは今のニーズに適しているから、改めてその価値を市場に訴求すべきだ。

 加えてトランクスペースを備えたセダンは、空力特性も優れ、燃料消費量を抑えやすい。エコロジーの期待にも応えられるから、セダンを衰退させるのは惜しい。

■実はミニバンも復活!? ミニバンに流麗なボディをかぶせたのがセダンだった

 ただし、セダンが昔のように販売の中心に復活することはない。なぜならミニバンが復活したからだ。

 過去を振り返ると、1930年頃までの乗用車の外観は、独立したトランクスペースを備えないミニバン風のスタイルだった。その後、居住空間の後部に荷台を取り付けて荷物を積むようになり、この荷台が流線形のトレンドに沿ってボディに取り込まれ、今に通じるセダンボディが確立された。

 この流れは、かつてクライスラーが用意したPTクルーザーを見るとよくわかる。昔のクルマのボディスタイルが、ミニバンだったことを示しているからだ。

 空間効率を考えると、天井の低いボディの後部に、さらに背の低いトランクスペースを繋げるのは合理的ではない。つまり、セダンはクルマの外観を流線形でカッコよく仕上げ、これを付加価値として普及を図る段階のボディ形状であった。

■ミニバン復活を横目に見つつ、セダンの安心・快適を極めることで生き残りを図れるか!?

 今のようにクルマが付加価値の普及段階を過ぎて、日常生活のツールに変わるとトランクスペースを装着しない背の高いボディが合理的で売れゆきも延びる。ミニバンスタイルの復活だ。

 この典型がN-BOX、スペーシア、タントといった全高が1700mmを上回る軽自動車だ。軽自動車は全長が3395mm、全幅は1475mmの小さなボディだが、車内は驚くほど広い。ミニバンの発想に基づいたクルマ作りは、燃費や車両価格のわりに広くて実用性も高いから、カテゴリー自体がエコロジーにも沿っている。

この事情もあり、日本では新車として売られるクルマの40%近くを軽自動車が占める。

 以上のように考えると、クルマが日常生活のツールになった今、セダンが昔のように大量に売られることはない。しかし、セダンの価値は今でも健在で、特に安心と快適という時代のニーズに応えている。少数派になっても、セダンは存続させるべき商品だ。

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