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三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)と三井住友フィナンシャルグループ、国内金融機関の“ツートップ”ともいえる両グループが、6月29日に株主総会を予定している。両グループの22年3月期の決算は、コロナ禍やウクライナ戦争をものともしない好業績だった。

三菱UFJの純利益は、前期比45.5%増の1兆1308億4000万円と過去最高益。主な要因としては国内外の貸出利ざや改善や手数料収益が増加したことに加え、保有株売却に伴う株式関係損益の拡大や与信費用の改善、モルガン・スタンレーの貢献利益などが挙げられる。一方、三井住友は同38%増の7066億円だった。法人向け融資など本業が好調だったほか、政策保有株の売却も利益を押し上げた。

ともに業績絶好調であるだけに、意気揚々と株主総会に臨む経営陣の姿が目に浮かびそうだが、両グループとも好調さの中にも危機感や課題がにじむ。そして、それは好業績にもかかわらず、メガバンクが相変わらず厳しい環境に置かれているからだ。

三菱UFJ銀行と三井住友銀行、共通する課題は?(winhorse /iStock)

DXへのサバイバル“構造改革”

メガバンクにとって急務となっているのが、デジタルトランスフォーメーション(DX)による業務の効率化だ。メガバンク各行ではDXを駆使して、人員や店舗の削減に取り組んでいる。三菱UFJは24年3月までに1万人相当の業務量を減らし、180店舗を削減する計画を実施中。一方、三井住友では19年度末に10万3000人だった従業員を3年間で6000人削減する計画だったが、思った以上に効率化が進んでいることから22年度末の従業員数を9万6000人と見込んでおり、減少幅を7000人に修正した。

このように各行がこぞってDXに取り組む背景には、金融の世界でもインターネットの利用が進んでいるため、リアルな店舗や人員が重荷になっていることがある。キャッシュレスでの決済が増えているので、実店舗を訪れる人やATMを利用する人は年々減る一方。さらにIT化に伴い、新たなビジネスが登場するなど事業環境も変化している。

例えば、IT技術を駆使した、これまでにない金融サービスを提供するフィンテック企業が台頭。メガバンクと競合するライバルも、従来の金融業界だけに留まらなくなってきた。さらには中国のデジタル人民元のように、海外では中央銀行がデジタル通貨を開発する動きもある。そうなってくれば国民は中央銀行に口座を持つことも可能で、民間銀行の存在意義が脅かされる事態だってこの先あり得るのだ。そう考えるとメガバンクとってDXへの取り組みは、生き残りを懸けた“構造改革”であることがわかるだろう。

DXへの対応が急務である中、悩ましいのはデジタルに精通する人材の確保がままならないこと。いきおい中途採用に頼ることになるのだが、日進月歩で変化する業界で働いてきたデジタル人材は、保守的でスピード感に欠ける金融業界とは極めて相性が悪く、採用できても定着率がよくない。面倒でも自前で育成したほうが、結局は効率的だということになる。

Mikko Lemola /iStock

もちろん手をこまねいていたわけではない。三井住友では16年から「デジタルユニバーシティ」を設置し、5万人の従業員を対象にDXに関する教育を始めている。ワークショップを通して企業が抱える課題を炙り出し、DXによる業務改革の提案などを疑似体験する。また、三菱UFJでは中堅行員を対象にした研修で、模擬ビジネスでDXを企画したり、システムを設計したりするという。ただ、三菱UFJと三井住友を比較した場合、前述したようにグループ全体で見ると純利益は圧倒的に前者が勝っているが、銀行部門で見ると実は三菱UFJの純利益は三井住友の半分しかない。三菱UFJのDXへの取り組みは思いのほか進んでいないのではないか。

海外戦略はアジアシフトへ

また、メガバンクの海外戦略にも変化の兆しが現れている。三菱UFJと三井住友の昨今の動きから窺えるのは、これまでの拡大路線が岐路に立っているということだ。より正確にいえば、海外戦略の重心がアメリカからアジアに移りつつある。

昨年9月、三菱UFJは米地方銀行のユニオンバンクの売却方針を発表した。ユニオンバンクは、旧東京銀行と旧三菱銀行がそれぞれ買収した米カリフォルニア州を地盤とする地銀2行が東京銀と三菱銀が合併に伴い、こちらも1996年に合併したもの。2008年に三菱UFJが完全子会社化し、アメリカにおける成長戦略の重要な布石とまで位置づけていた銀行だ。そんなユニオンバンクを売却に至ったのは、経営環境の悪化にある。アメリカでも金利低下が進み、キャッシュレス化の進展に伴うデジタル投資が経営を圧迫。当局からはマネーロンダリング対策の強化なども求められ、システム開発や人員確保のコストが膨らんだ。保有するメリットがなくなったのだ。一方で10年代以降、タイのアユタヤ銀行やインドネシアのバンクダナモンなどの銀行を買収。ベトナムやフィリピンの銀行にも出資した。

一方の三井住友は今年3月、ベトナムの大手民間銀行エグジムバンクとの業務提携を解消した。ベトナム事業の足がかりとして、08年にエグジムバンク株の15%を取得。ひと頃は3兆ベトナムドン(当時のレートで120憶円)を稼ぎ出すほどだったが、法人向け融資で大口先の業績が悪化し、与信コストも膨らんだ。加えて役員人事をめぐり、株主間の対立も先鋭化。経営刷新を図ろうとするも、叶わず断念することとなった。だが、今度は同じベトナムの銀行VPバンクに49%を出資。これまでの法人相手ではなく、成長著しいリテール需要を取り込むべく、ベトナム事業を仕切り直したのだ。

これらの動きから、メガバンクがアジア市場を成長の原動力として見なしていることが窺える。成熟し切ったアメリカ市場よりも発展途上にあるアジア市場をいち早く押さえようという戦略なのだろう。ただ、アジアにおける銀行間の競争が過熱することによって、買収や出資が“高値づかみ”になる可能性もある。さらに貸し倒れや審査の難しさなど先進国よりもハイリスクであるだけに、あまり前のめりの姿勢だと足元をすくわれかねない。

いずれにせよ、昨今のようなビジネス環境の激変を生き抜くべく、メガバンクには好業績に満足することなく、これまで以上に変革が求められそうだ。