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自工会に直撃!! 「東京モーターショー」の名が消える!!? 豊田章男会長が打ちだした変革の狙いとは

 日本自動車工業会の会長職を2024年5月まで3期6年続投することになった豊田章男会長(トヨタ自動車社長)が、2022年5月19日、新副会長に正式に就任した日産の内田誠社長とスズキの鈴木俊宏社長とともにオンライン会見を行った。

 そのなかで、2023年に開催する予定の「東京モーターショー」を「JAPANオールインダストリーショー」に改称する考えを明らかにした。その狙いは、モーターショーというクルマに限られた催しではなく、日本の工業全体を巻き込んだ催しに変革するというものだ。

 若者のクルマ離れと言われ、減少する来場者数を改善するための方策となるが、往年のクルマ好きからすれば「東京モーターショー」という名前が失われるのは寂しいのではないか。そんな思い入れのある名前を改称して狙う自工会の変革について、直撃取材の回答などを踏まえつつ考察していきたい。

文/高根英幸
写真/TOYOTA、HONDA、NISSAN、MITSUBISHI、MAZDA、ISUZU

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■2021年から動き出していた変革への模索

 コロナ禍により中止となった2021年から2年、2023年に東京モーターショーの開催を目指すことが日本自動車工業会から発表されている。

 だが、先頃行なわれた役員のオンライン会見で、豊田章男会長は次回の東京モーターショーの名称を「JAPANオールインダストリーショー」に改称する考えであることを発表した。これに衝撃を受けた方は少なくないだろう。

 筆者もそのひとりで、東京モーターショーといえば1970年代のスーパーカーブームの頃、新車で販売されていたロータス・ヨーロッパの写真を撮りに父親に連れて行ってもらった思い出から、ほぼ毎回のように訪れてきた。

 出版業界に入ってからは、プレスデイに空いた会場を自由に歩き回り、充実した資料であるプレスキットを集めて回り、会期中に何度も会場に足を運んで来場者が楽しむ様子をレポートしたりもした。

 近年はモータージャーナリストと巡るガイドツアーにも関わらせてもらい、クルマ好きの参加者とこれまでのクルマ遍歴やショーの見どころなどで盛り上がるのも楽しい出来事だ。

 そんな東京モーターショーが、モーターショーでなくなる……。なんだか喪失感を覚えてしまうのは大げさだろうか。

 前回(2019年)からクルマ以外の産業分野も巻き込んで、幅広く日本の工業技術の魅力を伝えるものとし、会場も青海展示楝やヴィーナスフォート、さらには屋外の遊歩道まで展示スペースを拡大していた。

 そのおかげで過去最高の来場者となる130万人を記録したが、海外の自動車メーカーからの参加はアルピナだけという状態では国際的なモーターショーという印象は薄らいでしまったのは否めなかった。

東京モーターショー2019で熱弁をふるう豊田章男会長(トヨタ自動車社長)。この年から、クルマ以外の産業分野も巻き込んでの開催となっていた

 もちろん「東京」と名が付くだけに、日本が誇る自動車産業の博覧会という目的も大きいのだが、それをさらに拡大して日本の工業すべてを対象にするとなると、それはクルマやモビリティという枠を超えて、なんだかぼやけたモノになってしまわないだろうか。クルマの最先端ショーだからクルマ好きが期待して来場してきたのが、従来の東京モーターショーの求心力だったハズで、それを失ってしまうことに危機感は感じている。

■モーターショーを主催する自工会を直撃!

 数々の疑問を日本自動車工業会(以下自工会)に直接、質問してみた。まずは「JAPANオールインダストリーショー」という名称への変更の実現性はどれくらいなのか。正式に名称が決定されるのはいつ頃になるのか。

「2021年6月の記者会見で日本の全産業がまとまる「オールインダストリーショー」を目指すことが発表されており、そのことを踏まえて先般5月の記者会見にて、会長の考えとして名称変更についてお話をされました。

 これをもとに、ショーの骨子やコンセプト、開催概要と合わせて自工会モーターショー委員会で今後議論・検討を始めるところです」(自工会広報部)

 2021年の記者会見では名称の変更まで言及していなかったから、それほど注目を浴びなかったのだろう。急に方針を変えたわけでもなければ、単なる思い付きでもなかった。豊田会長は、より変革を分かりやすくアピールするために改称する考えを明らかにしたのだ。確かに、これはインパクトがあった。

 ただ、これからモーターショー委員会で議論して決めていくとのことだから、正式に名称が決定するのはまだ先のことで、具体的な決定時期への回答は得られなかった。ところで改称提案への反響はあったのだろうか。

「5月の会見直後から、多くの方から同様のお問い合わせいただいており、ご関心の高さを改めて認識しております」

 やはり相当なインパクトがあったようだ。それだけで次回の東京モーターショーに対する関心度が高まったのだから、先日の記者会見での発表は大成功だったと言える。

 そのいっぽうで、名称だけでなく開催内容についても気になる。自動車業界以外の産業の参加について、具体的にはどのような産業を対象にし、対象外とする産業は想定しているのだろうか。

「こちらについても、ショーの骨子やコンセプト、開催概要と合わせてモーターショー委員会で今後議論・検討を始めるところです」

「全産業」と銘打っても、クルマとはまったく関連性のない産業を含めてしまうとイベントとしての統一感、コンセプトやテーマが感じられなくなって、ただの大規模な催しになってしまう恐れもある。このあたりはしっかりと内容を固めて開催してほしい。

■海外からの参加は見込めなくなる?

 もっともクルマには工業技術のあらゆる分野が導入されている上に、たとえ農業であっても電子制御が導入され、AIの利用も研究されているのだから、技術面の展示であれば第一次産業でも違和感のない展示が可能になるかもしれない。

 ただそうなると、海外の自動車メーカーはより参加しにくい環境になってしまわないだろうか。自工会としては海外の自動車メーカーの参加はもう見込んでいないのだろうか。つまり、「国際的なモーターショーとしての役割」は終えるということなのか。

「これまでも、これからも海外の自動車メーカーの皆様には、ぜひ参加いただきたいと考えております。また、引き続き国内のみならず海外へ向けても発信をしていくショーを目指してまいります。なお、東京モーターショーは、国際モーターショーとして国際自動車工業連合会(OICA)に認定されているショーです」

 自工会からの回答は上のとおりで、現時点では予想どおりではあった。自工会の姿勢と海外の自動車メーカーの思惑はまったく関係がないから、JAPANオールインダストリーショーという名称にしたことで、さらに敬遠されてしまう可能性はあることは意識しておくべきだろう。

2019年はメガウェブ(現在は閉館)なども会場として活用された

 もっともそんな新名称に対して、自国の技術をアピールする場として新興国の自動車メーカーが参加する姿勢を見せるかもしれない。

 それはそれで歓迎したいが、来場者が見たいのは日本はもちろん、欧州や米国の先進的な近未来のクルマやその技術であり、これから日本参入を狙う新興国のクルマや技術が見たいかと問われれば微妙なところではないか。

 行って、見て、予想以上の賑やかさや楽しさを感じることもあるだろうが、そもそも期待しなければ来場してくれない人も増えてしまうだろう。

 日本自動車工業会の会長職を2024年5月まで、3期6年も続投することになった豊田章男会長は、日本の自動車産業に従事する550万人の生活を守る重責を感じていることは、これまでの発言の端端から伝わっている。

 それ故の東京モーターショー大変革案なのだろうし、これから開幕までの約1年半、議論や熟考を重ねて素晴らしいショーにしてくれるはずだ。

 筆者個人としては規模感は前回よりもあまり広げないで(すべて見て回るのは大変!)、クルマやモビリティの魅力の広がりを感じさせる、内容が濃いショーに仕立ててもらいたいと願うばかりだ。

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