月面には大気がほとんどないため、その地表は日なたで約127℃、日陰ではマイナス173℃という極端な温度環境となっている。そのため月面に基地を作ることを考えた場合、この極端な温度から機械やコンピューター、そして人間を守る必要がある。
NASAの科学者らは、月探査機Lunar Reconnaissance Orbiter(LRO)が11年以上にわたり観測したデータから、月面には約200のピット、つまり穴があり、その内部が約17℃という、快適とも言える温度に保たれていることを発見した。
月の表面にピットが初めて発見されたのは2009年のことで、JAXAの月周回衛星「かぐや」による成果だった。かぐやが発見した穴は直径約65m、深さは80~90mもあり、内部には非常に大きな溶岩トンネルもあるとみられている。それらは将来の有人月探査における基地の建設候補地になっている。
NASAは約200あるというピットのうち、約16か所は溶岩洞窟が崩壊してできたものだと考えている。NASAゴダード宇宙飛行センターのLROプロジェクトサイエンティスト、ノア・ペトロ氏は「月の穴は、月面における非常に魅力的な特徴のひとつだ」としている。
溶岩トンネルは地球上でも火山地域で見られる。溶けた溶岩が冷えた溶岩の地下に流れ込んで形成された洞窟だ。科学者はLROが備える、Divinerと呼ばれる赤外線放射計を用い、月の「静かの海」にある深さ100m、サッカーのピッチほどの広さの円筒形ピット内の温度を調べた。
その結果、ピット内の日陰になる部分の温度は1日中ほとんど温度変化がなく、約17℃に保たれる事がわかったという。そして、このピットの中で横方向に洞窟が拡がるのであれば、そこもやはり同じように快適な温度を保っていると考えられる。
今回NASAが発表した論文の共著者のひとりで、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)教授のデヴィッド・ペイジ氏は「月の長期的な植民地化および探査にとって、穴は望ましい生息環境を提供するかもしれない」とコメント。将来の有人月探査に向けて、「人類は洞窟で地球上での生活を進化させたが、月での生活でも望ましい生息環境になるかもしれない」と述べている。
- Source:ScienceDaily
- Source:The Register