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Image:CGTN/YouTube

中国は先週、大型ロケットの「長征5B」を使用して宇宙ステーション「天宮」のモジュールを打ち上げたが、この長征5Bのコアステージ(大型ブースター)がその後軌道上に放置されており、7月30日ごろに大気圏に再突入する可能性が高まっている。

大半のロケットは大気圏に再突入すると燃え尽きてしまう。しかし、こと長征5Bのコアステージは質量が25トンもあり、予想では約5.5~9.9トンほどの塊がそのまま地上に落下してくる可能性があるとのことだ。

地球の表面の大半は海や人口密度の低い土地であるため、落下してきた残骸に当たり、誰かが死傷する可能性はかなり低い。The Aerospace CorporationのTed Muelhaupt氏はTwitterのライブ配信で「個人的にはこれが私の頭上に落ちてきたら、またとない機会なのでカメラを持って撮影しようと思うだろう」と述べた。

とはいえ、中国のロケットが打上げのあと放置され、制御不能の状態で大気圏に再突入するのはこれが初めてではない。2020年にやはり長征5Bの残骸が落下したときも、長さ12mもあるパイプのようなものが、コートジボワールのある村に落下した。それは大気圏再突入の位置から約2,100kmも離れた場所だった。

今回も安全にほぼ問題がないとしても、可能性がゼロでないのなら、軌道上のデブリを追跡している人たちにとっては大ごとだ。世界的なルールとして、宇宙事業者はスペースデブリが地球の大気圏に制御不能状態で再突入する場合、問題を引き起こす可能性を1/10,000に収めるように規定されている。そのため欧米の宇宙機関は打ち上げの役目を終えたロケットの向きを変え、仮に燃え尽きずに落下する残骸があったときのために、人がいないであろう海上に落下するように制御する。

中国はこの国際規範に従っていない。ハーバード天体物理学センターの天文学者Jonathan McDowell氏によると、そもそも長征5Bにはペイロードを軌道に投入した後でエンジンに再点火する機能がないと説明している。

The Aerospace Corporationによると、長征5Bの落下による死傷者のリスクは1/1,000から1/230の間だという。これは国際的な規定の10倍以上の確率だ。当然ながら、NASAはこのことに対して不満であり、2021年にもあった長征5Bの落下問題の際には「中国がスペースデブリに関する責任ある基準を満たしていないことは明らかだ」とし、「宇宙飛行を行う国は、オブジェクトの再突入による地球上の人と財産へのリスクを最小限に抑え、それらの操作に関する透明性を最大化する必要がある」と抗議していた。

一方、中国の宇宙当局はこの件に対して一応の対処をしたのか、打ち上げのライブ配信時には、中国国家航天局の元国際協力局長であるXu Yansong氏が「打ち上げ後にブースターを処分するために改善を行った」「最後のセグメント、つまりコアセグメントは、軌道に入った後に宇宙船としても機能する」と発言していた。

しかしその言葉は、事実に反しているようだ。欧州連合の宇宙監視および追跡ネットワークは、打上げ後の長征5Bが回転状態になっていることを確認している。これはそのオブジェクトがまったく制御されていないことを示している。

記事執筆時点では、中国の巨大なデブリの予想される落下日時は7月30~31日の間とされ、その範囲は北緯41.5度から南緯41.5度の間になるという。Aerospace Corporationいわく、人口の88%がその範囲内に住んでいるとのこと。

おそらく今回も、何らかの被害が出る可能性を気にするほどではないと思われるが、可能性はゼロではない。中国は10月にも新たな長征5Bロケットを用いた打上げを計画している。この打上げでは天宮宇宙ステーションの3つめのモジュールを軌道へ運ぶ予定だ。