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 2022年F1第12戦フランスGPで各チームが走らせたマシンを、F1i.comの技術分野を担当するニコラス・カルペンティエルが観察し、印象に残った点などについて解説。第1回「フェラーリのルクレールはなぜミスを犯したのか」 に続く今回は、アルピーヌA522に搭載されたパワーユニット、ルノー製RE22の詳細画像とともに、今年採用されたスプリットターボ・コンセプトのメリットを説明する。

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 昨年、純粋なスピードで6番目のマシン(+1.44%)だったアルピーヌは、現在4番目に速いマシン(+1.36%)となっている。その進歩は、シャシーとパワーユニット(PU/エンジン)の両方によるものだ。

 現行F1パワーユニットは、バッテリーとエネルギー回収システムにかなりの冷却が必要だ。一方で車体の空力性能も、できるだけ犠牲にしたくない。ルノー製RE22の開発コンセプトは、この考えが基本になっている。

 ルノーは今年初めて、メルセデスやホンダと同様に、ターボとコンプレッサーを分割して配置するスプリットターボ・コンセプトを採用した。RE22のコンプレッサーはエンジンブロックの前部に、タービンは後部に設置されている。この分離配置は非常に長いシャフトを必要とするものの、エンジンとシャシーの両方の要求を満たすソリューションになっている。

ルノー製パワーユニットRE22
ルノー製パワーユニットRE22

 今年からアルピーヌのエンジン担当となったブルーノ・ファマンは、「これがベストのパッケージだ」と主張する。

「英国エンストン(シャシー部門)と仏ヴィリー(エンジン部門)の緊密なコラボレーションが示されている。それによってより良い空力、より低い重心、そして最終的にはより良いマシンが提供され、そのマシンが好成績を収めているわけだ」

「我々は絶対的なパワーには興味がない。重要なのは、マシン全体の性能だ。テストベンチで、より大きな出力値を出すことは十分に可能だった。しかしそれをやっていたら、マシンパッケージがここまでの性能を発揮できなかっただろう」

ルノー製パワーユニットRE22
ルノー製パワーユニットRE22

 ルノー製PUの構造には、3つの利点がある。一つは、アルミニウム製のコンプレッサーとダクトを、1000℃に達するタービンや高温の排気管から離れたV6エンジンブロックの前部に設置することで、冷却管理を向上させたことだ。理論的にはインタークーラーを小さくしても、コンプレッサーの性能は落ちない(圧縮空気の冷却が少なくてすむため)。

 2つ目のメリットは、コンプレッサーとインタークーラーをつなぐパイプが従来の構造に比べてはるかに短く、ターボの応答速度を短縮できることだ。タイムラグを小さくすることで、ERSで回収したエネルギーのうち、アクセルペダルを踏んでいないときにMGU-Hがタービン昇圧に充てる割合を減らすことができる。

 3つ目のメリットは、この配置により、エンジン前方(メルセデスより少し高い位置)に搭載されるエア・ウォーター式インタークーラーの開発が可能になったことだ。この場所に小さなラジエーターを設置することで、サイドポンツーンのラジエーターを小さくし、車体をスリムにして空力性能を向上させることができた。

 ただしこのPUアーキテクチャは、万能というわけではない。フェラーリの2022型パワーユニットはクラシックなレイアウト(ターボの隣にコンプレッサー、ブロックの後方にユニット全体を配置)にもかかわらず、現時点で最高のパワートレインと言われている。おそらくまだ秘密の革新的な技術があり、PUのレイアウトだけで競争力が決まるものではないということだろう。

アルピーヌA522フロア比較
アルピーヌA522フロア比較

 フランスGPで、アルピーヌは、フロアエッジに再び手を加えた(上の写真参照)。これは驚くことではない。今季のF1マシンのダウンフォースは、前後ウイングよりもマシン下部でより多く発生する。なので最も費用対効果が高いのはフロアの変更であり、しかも他の領域のアップデートより、比較的安価にできるのだ。

「去年まではフロントウイングのアップデートは、それなりに効果的だった」と、アルピーヌの技術責任者パット・フライは言う。

「ところが今は、そうでもない。フロントウイングはフロアと同じくらい高価な部品なんだ。一方で新しいフロアはフロントウイングの10倍以上の性能を出せている。予算枠を考えれば、選ぶべき選択肢は明らかだよ」