2022年も折り返しの1戦を迎えたBTCCイギリス・ツーリングカー選手権第5戦が6月25~26日の週末にクロフトで争われ、前戦の大クラッシュで肺へのダメージを負い、今季参戦継続が危ぶまれていたダン・ロイド(ブリストル・ストリート・モータース・ウィズ・エクセラー8・トレードプライスカーズ.com/ヒョンデi30ファストバック Nパフォーマンス)が奇跡の復活劇を演じることに。
同じくアクシデントの当事者として、全開加速中に突然の“正面衝突”に遭遇しながらも、復活のポールポジションを獲得した4冠王者コリン・ターキントン(チームBMW/BMW 330e Mスポーツ)を退け、オープニングレースでロイドが4年ぶりBTCCでの勝利を飾ると、勢いそのままにレース2も制する連勝劇を達成。
最終ヒートのレース3は、初戦のサスペンショントラブルから這い上がったゴードン・シェドン(ハルフォーズ・レーシング・ウィズ・カタクリーン/FK8型ホンダ・シビック・タイプR)が復調の今季2勝目を飾っている。
前戦オールトンパークのレース3において、高速直線区間で発生した多重クラッシュにより救急搬送される事態となったロイドとターキントンは、後者こそ当日中に自宅へと帰れたものの、前者はメディカルセンターから地元の病院へと送られたのち、精密なX線検査とCTスキャンを経て肺にわずかな損傷が発見される事態となった。
しかしその後、医療班とロイドが所属するエクセラー8モータースポーツが慎重な経過観察を実施し、晴れて2週間後のレースに出場する許可が得られた。しかしチームはターキントンのBMWから「43Gもの衝撃を受けた」ヒョンデを修復するべく、24時間体制での過酷なリペア作業を強いられてきた。
「アクシデント以来のサポートに心から感謝しなければならない。チームがクロフトに向けクルマを準備するため、どれほど懸命に努力したかについて言葉を見つけるのは難しいよ」と、自身も万全とは言えない状態ながらクルーを気遣う言葉を残したロイド。
「ダメージは僕らの想定よりヒドく、彼らは週末に間に合うよう修復するだけでなく、すべてが問題ないことを確認するべく事前シェイクダウンを可能にするスケジュールで作業を終えたんだ。この過去2週間に起こったことは、今週末のクロフトで戦うという僕らの決意を高めただけだ。今週末に良い結果を得ることができれば、ここまで努力を重ねたすべての人々の助けになるだろう」と、ここクロフトでBTCCキャリア唯一の勝利を挙げているロイド。
一方でBMW 330e Mスポーツが大破した名門ウエスト・サリー・レーシング(WSR)も、タイトルを獲得した2019年仕様の個体をガレージから引っ張り出し、今季より採用されるBTCC共通ハイブリッド機構を組み込みアップデートした車両をスタンバイした。
「ここにたどり着くのは大きな前進だった。理想を言えばもう少し首の回復期間を取りたかったけどね。ショーは続けなければならず、僕自身は準備ができているのを確認してワクワクしている。クロフトは大好きなサーキットのひとつであり、ドライバーにとって真の技術的挑戦でもあるからね」と続けたターキントン。
そうして幕を開けた2回の公式練習こそ、ロイドの僚友トム・イングラム(ブリストル・ストリート・モータース・ウィズ・エクセラー8・トレードプライスカーズ.com/ヒョンデi30ファストバック Nパフォーマンス)や、シェドンのチームメイトを務めるダニエル・ロウボトム(ハルフォーズ・レーシング・ウィズ・カタクリーン/FK8型ホンダ・シビック・タイプR)がトップに立ったものの、予選に入ると4冠王者の言葉どおりターキントン自身と、なんと事故の当事者だったロイドが主役を演じる展開に。長らくセッション首位を維持した療養明けのロイドに対し、最後の最後で逆転に成功したターキントンが予選最前列をさらってみせた。
「FPではその付近に居ることができなかったから、ポールポジション獲得がまた格別な1日にしてくれたね。路面が大きく変化して難しいセッションだったが、2回目のFPでセットを大きく変え、その時が来た。ここはオーバードライブで簡単にタイムを失うし、このクルマを準備するためオールトンパーク以来、多大な努力を払ってきたチームに報いることができて安心したよ」と、旧車でポール獲得の4冠王者。
最終的にラップレコードでフロントロウ2番手に飛び込んだロウボトムにも先行され、2列目3番手となったロイドも、復活のターキントンを祝福するコメントを残した。
「ある意味では、しばらくの間P1にいたから、このP3というのは残念ではあるけれど、コリンと同じくチームのすべての努力に対して報いるのは素晴らしいことだ」と語ったロイド。「コリンがポールを獲得するのを見るのは素晴らしいことだが、彼が僕の後ろにいたらもっと良かったんだけどね!」
そう語ったふたりは日曜レース1でも主役を演じ、スタート直後にクレルボーのイン側からロウボトムをパスしたロイドが2番手に浮上。すると続くジム・クラーク・エッセではターキントンのBMWも捉え、大幅リペアを経たヒョンデが早くも首位に浮上する。
その背後ではシェドンが王者アシュリー・サットン(NAPAレーシングUK/フォード・フォーカスST)と絡んでサスペンションを破損してリタイア。さらに僚友オリー・ジャクソン(Apecレーシング・ウィズ・ビーバス・モーガン/フォード・フォーカスST)もバリアに激突し、ここでセーフティカーが導入される。
しかしリスタート後も勢いを失わなかったロイドは、ターキントンとロイドを従えて今季初優勝を達成。続くレース2でも首位発進を決めた男は、僚友イングラムと再びのターキントンを抑えて18周を走破し「こんな筋書きは、誰も書くことなんてできないだろう!」と自らも語るように、奇跡的な連勝を飾る結果となった。
「過去2週間は地獄だっただけに、本当に感情的な瞬間だ。BTCCで優勝したのは1回だけで、それは4年も前のこと。クルマをリペアする過程でチームみんなが集まって、これまで以上に親しくなった。まるで大家族のようさ。この期間、肉体的にだけでなく多くのことを経験したが、みんなのサポートこそが僕を動かし続けたんだ」と喜びと感謝の言葉を述べたロイド。
「全力を尽くすつもりではいたが、フィニッシュラインを越えて泣き出すのに0.5秒も掛からなかったと思う。コクピットでは空中に力強くガッツポーズしすぎて、実際に背中を痛めたみたいだね(笑)」
続く週末最終ヒートは「ここで良い結果が得られれば、7月末のノックヒルも絶対に素晴らしいものになる」と語ったチーム・ダイナミクスのエース、シェドンが支配。レース2で12位まで挽回した男がリバースグリッド最前列スタートを確保して勝利を飾り、2位ジョシュ・クック(リッチエナジーBTCレーシング/FK8型ホンダ・シビック・タイプR)、3位ロリー・ブッチャー(TOYOTA GAZOO Racing UK/トヨタ・カローラGRスポーツ)の表彰台となった。
ここからわずかなサマーブレイクを挟んだBTCCの2022年シーズンは、シェドンの言葉どおり7月30~31日のノックヒルで後半戦再開の時を迎える。