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 日本では軽自動車の雄として見られているスズキ。しかし、海外に目を向ければ、すでに軽から登録車(小型)への移行が進んでいる。そんななか、さまざまな個性的で魅力的なクルマが販売されている。

 そこで今回はインドで販売されているコンパクトミニバンXL6にスポットを当て、日本でも程よいサイズ感ながら、なぜ販売しないのかの謎に迫ってみたい。

文/渡辺陽一郎写真/スズキ、マルチスズキ

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■海外ではスズキの登録車への力の入れ方は顕著

日本のスズキ=軽のイメージだが海外では登録車の拡販を着実に進めている。その一大拠点となっているのがインドだ。今回取り上げるXL6はインド仕様だが、その輸出版としてXL7も存在

 スズキは軽自動車のメーカーという印象を受けるが、2016年にスイフトを現行型(4代目)にフルモデルチェンジしてからは、小型車にも力を入れている。2015年に発表した中期経営計画「SUZUKI NEXT 100」において、スズキは登録車(小型+普通車)の国内年間販売台数を10万台以上、軽自動車のシェアは30%以上という目標を掲げた。

 この後はスイフトの好調な売れゆきもあり、2016年には、登録車の国内年間販売10万台以上の目標を早々と達成させた。軽自動車のシェアも30%以上を守っている。

 直近の2021年は、新型コロナウイルスの影響を受けて、登録車の国内販売台数が9万9213台まで下がった。それでも国内で売られるスズキ車の16%を登録車が占める。ダイハツの登録車比率は7%だから、スズキは圧倒的に多い。

 そしてスズキは、海外では、さらに積極的に小型車を販売している。2021年のスズキの世界販売台数は276万3846台で、このうちの78%が海外だった。軽自動車を中心にした国内の販売比率は22%だ。

■インドのスズキは日本のトヨタに匹敵するシェアを誇る

 特に海外で販売比率の高い国はインドだ。スズキの子会社となるマルチスズキのシェアが多く、インドで売られる乗用車の40%以上がスズキ車であった。従ってスズキのインド市場に対する依存度も高く、2021年には、スズキの世界販売台数の50%以上をインドが占めた。

 そのためにスズキ車には、インドを始めとする海外向けの小型車も多い。例えばインドで販売されるアルトやワゴンRは、軽自動車サイズの日本仕様とは異なる小型車だ。

 このマルチスズキの手掛ける車種のなかで、特に注目されるのがXL6だ。全長が4445mm、全幅は1775mmの比較的コンパクトなボディに、3列のシートを備えた6人乗りのミニバンになる。ホイールベース(前輪と後輪の間隔)は2740mmと長いが、最小回転半径は5.2mに収まり、混雑した街中や駐車場でも運転しやすい。

 エンジンは直列4気筒1.5Lで、スマートハイブリッドと呼ばれるマイルドタイプのハイブリッドシステムを搭載する。駆動方式は前輪駆動の2WDで、トランスミッションは、5速MTと6速ATを用意した。

■XL6はコンパクトクラスのミニバン。外観はSUVらしいカッコいい仕上げだ

ルーフからの俯瞰のため、わかりにくいが黒色のホイールアーチやアルミ製ルーフレールなどを装着し、SUV感を演出している。後付け感はなく、見た目の収まりもいい!!

 外観を見ると、4輪の収まるホイールアーチは、ブラックの樹脂パーツによって縁取りされている。ボディの下側には、アンダーガード風の樹脂パーツも備わり、SUVの雰囲気も兼ね備えて流行に沿っている。

 2列目シートはセパレートタイプで座り心地が優れ、2/3列目の間を移動しやすい。全高は1755mmだから、ミニバンでは低めに抑えられ、フリードを少し上回る程度だ。後席側のドアも横開き式で、スライドドアは採用されない。

 全長が4445mm、全幅は1775mmというボディサイズと最小回転半径の5.2mは、少しワイドではあるが、日本の道路環境に適した大きさだ。「日本で販売する予定はないのか」、販売店に尋ねると以下のように返答された。

「XL6は海外向けに開発されたクルマで、今のところ日本国内で売る予定はない。直近の新型車としては、6月17日にアルトラパンが大幅な改良とグレード追加を実施したが、それ以外は聞いていない」。

■海外専売車でカッコいいクルマは沢山ある。ただ、日本に持ってくるにはコストが……

 海外向けに開発された車種を国内に導入することは皆無ではないが、メーカーの開発者に尋ねると困難も多いという。以下のように説明した。

「日本の保安基準に適応させ、型式指定も受けるには、相応のコストを負担せねばならない。一定の台数を販売できる見込みが立たないと、海外で扱っている車両を日本へ持ち込むのは難しい」。

 スズキは軽自動車が中心のメーカーながら、前述のとおり小型車の売れゆきを伸ばしているが、販売ランキングの上位に入る車種は少ない。ソリオは2021年に1カ月平均で約3700台を登録したが、イグニスは約200台だ。

 また、スズキはミニバンとして、日産からセレナのOEM車となるランディを導入しているが、この登録台数は2021年の1カ月平均が約60台だった。ランディにはセレナのハイウェイスターに相当するエアロパーツを備えたグレードがなく、エンジンもノーマルタイプだけでe-POWERは選べない。不利な条件も重なったが、スズキのブランドイメージと、ミニバンの親和性が高くない事情も影響している。

■XL6はリアドアが日本のミニバンで鬼門? のヒンジドア

パッケージも日本に適合していない訳ではないのだが、販売面でネックとなりそうなのがリアドアがスライドドアでないこと。日本のユーザーはスライドドアに慣れ過ぎて手放せないジレンマを抱える

 しかもXL6には、スライドドアが装着されない。今の売れ筋車種は、スズキのスペーシアやソリオ、N-BOX、ミニバンではノア&ヴォクシー、セレナ、アルファード、フリードなど、すべてスライドドアを備える。背の高い車種で、スライドドアを装着せずに好調に売られているのはSUVと、SUVスタイルの軽自動車とされるハスラー程度だ。

 このようにXL6は、ミニバンが得意とはいえないスズキ車で、なおかつスライドドアも装着されないから、販売面では不利になってしまう。

 しかし、外観はなかなかカッコイイ。SUV風のドレスアップが、精悍な印象のフロントマスクにも合っている。実用性も優れ、3列目のシートは、コンパクトミニバンのフリードやシエンタよりも広そうだ。3列目はコンパクトに格納できて、広い荷室に変更できる。

 全長が4445mmというボディサイズも絶妙だ。フリードやシエンタの全長は4300mm以下、そのほかのノア&ヴォクシー、セレナ、ステップワゴンなどは4600mmを大幅に超える。XL6は全幅が1775mmで少しワイドだが、全長の4445mmは、コンパクトとミドルサイズミニバンの中間に位置する。日本の道路環境に適した大きさだ。

 XL6はインド製だから、ドライバーの座席も日本車と同じ右側で、左ハンドル車を右側へ変更する手間も要さない。日本のメーカーが日本国内で販売していない海外専用車はたくさんあるが、そのなかでみるとXL6は国内市場との相性が優れた部類に入る。

■インド価格同等で日本で販売できれば活路を見出せる……かもしれない

スズキ得意のマイルドハイブリッドも装備される(スマートハイブリッドと称される)。日本でもソリオや軽自動車で採用実績は充分であり、価格面での安さも訴求できるのではないか

 そこで実際にXL6を国内で扱う場合、必要とされる安全装備、衝突安全性、質感、乗り心地、静粛性などをクリアできたとして、最も大きな課題になるのが価格だ。ミニバンは実用重視の車種とあって、価格競争がとても激しい。

 XL6はコンパクトとミドルサイズミニバンの中間に位置するので、価格もそこに当てはめねばならない。ミドルサイズミニバンは、スズキランディ2.0Xが276万5400円、ノアで最も安価なノーマルエンジンのXは267万円(8人乗り)だ。

 また、コンパクトミニバンは、フリードにノーマルエンジンを搭載した買い得なGホンダセンシングが216万400円、XL6のように外観をSUV風に変更したクロスターホンダセンシングが238万400円だ。シエンタはノーマルエンジンのGが210万7000円になる。

 以上の価格分布も考慮すると、XL6の価格帯は、フリードクロスターホンダセンシングよりも少し安い220万円から、ノアの最廉価グレードを少し下回る250万円程度に抑える必要がある。この220万~250万円の価格帯で、日本のユーザーが満足できる質感などが備わると、スライドドアを装着しない代わりに外観をSUV風に仕上げたXL6は、相応の人気を得られると思われる。

 ちなみにインドにおけるXL6の価格(6速AT仕様)は、ゼータが127万9000ルピー(210万円)、アルファプラスは143万9000ルピー(236万円)になる。これは先に挙げた日本国内の想定価格に近い。つまり、インドと同程度の価格を実現できるなら、XL6が日本でそれなりの売れゆきを保てる余地も生じるだろう。

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