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 トヨタとダイハツ、トヨタとスバル、日産と三菱、スズキとマツダなど、今や各メーカーにOEM車がラインナップされるようになった。他メーカーで作られたものを、自社のエンブレムに付け替えただけと言われることもあるが、各社が導入するOEMにはどんな意味があるのだろうか。

 一見すると他社で販売するクルマを自動車メーカーが製造することは矛盾も含んでいるようにも思える。松屋の牛丼を吉野家が製造することはないのと同じだ。しかしOEM車は、誰の得であり損なのか、OEMの開発・販売事情を解説していこう。

文:佐々木 亘
画像:TOYOTA

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■メーカー側にOEMでもたらされる利点

 OEMはOriginal Equipment Manufacturing (Manufacturer)の頭文字を取った略語だ。簡単に意味を通せば、他社ブランドの製品を製造すること、となる。製品のブランドが違うが、中身はほとんど同じという商品は世の中に多く、私たちは知らず知らずのうちにOEM製品を使っているのだ。

 OEM製品の利点はいくつかあるが、最も大きいのは、開発の手間を省くことができるという点になる。例えば、トヨタがダイハツに「コンパクトだけど室内が広いクルマが欲しい」と発注し、コンパクトカーの得意なダイハツが商品開発を行っていく。

 この間、トヨタは別のクルマの開発を行うことができ、最も時間のかかる開発の手間が大幅に減らせるというわけだ。加えて、商品製造までを相手先に任せることにより、自社の設備を稼働させることなく、商品ラインナップを増やし、販売効率を高めることができる。

 こうした方法で作られるクルマは、近年「共同開発車」と呼ばれることも多い。トヨタで言えば、ルーミーはOEM、ライズは共同開発車と発表されている。

トヨタの共同開発車 ライズ

 単純な下請け契約のようにも見えるOEMだが、製品の製造を請け負う側にとってもメリットは多い。

 OEM受託の場合には、製品の仕様書や資材などが依頼主から受託企業へ提供される。これによって、依頼主が行っているコストカットの具体的な方法や、製造技術などを受託企業側は無償で受け取ることができる。技術指導などが行われるケースもあり、受託側の企業のレベルアップにつながるのがOEMの良いところだ。

 依頼元の技術が育たない、自社生産よりも収益が少ないというデメリットも存在するが、自動車業界のOEMは、協業・傘下の関係で行われることが多い。そのため、お金や技術面でのデメリットは、最小限に抑えられている。

■販売店はOEMで得するのか損するのか

 メーカーの損得は先述した通りだが、実際にユーザーへ販売するのは、全国各地のディーラーだ。ここではどのような損得が存在するのだろうか。

 ディーラーはメーカーからクルマを仕入れ、ユーザーに販売する。卸売業に近い小売業だ。この時、仕入れにかかる費用は、自社製品とOEMで若干異なる。

 OEMの方が仕入れにかかる費用は高い。そのため販売時の利益も若干少なくなる。単純な販売店利益を考えれば、OEM車を積極的に売るよりは、自社製品を売る方が良いだろう。

 しかし、仕入れ元であるメーカーが、自らの力では開発しきれなかったクルマがOEMだ。そもそも販売店のラインナップに入らなかったはずのクルマが、十分に力のある商品として製造され、販売店はそれを仕入れることができる。

 既存のユーザー以外へ販路拡大するには、新しいカテゴリーの商品が必要になる。よって、販売店にとってもOEMの存在はありがたい。多少利益は少ないが、全く利益が無いという商品でもないから、OEMでも売れば売っただけ儲かるし、大きな損は出ないだろう。

■営業マンの知識と整備士の腕が試される

 メーカー、販売店には損があまりなく、得が多いOMEだが、販売現場で働く人にとっては、少々苦労がある。

 例えばシステムの機能や名称が異なり、商品説明が煩雑になる点や、クルマ作りの根本が違うため、整備性や部品の取り扱い(耐久性)などが変わってしまう。自社製品に対して持っていた経験値が使えずに、イチから知識を蓄え、腕を磨く必要が出てくるのだ。

 最近流行の共同開発車は、両社の技術が混ざり合って使われているため、さらに取り扱いが難しい。予防安全パッケージはB社のもの、AWDシステムはA社のものといった具合に、どのクルマにどの名称が使われていて、どこに違いがあるのかが、さらにわかりにくくなった。

 例えばトヨタラインナップの予防安全パッケージでは、トヨタセーフティセンスがメインとして使われているが、ルーミーやライズではダイハツのスマートアシスト、GR86ではアイサイトといった具合だ。それぞれに若干ずつ機能の違いが発生する。

トヨタのOEM車 ルーミー

 こうした知識や整備技術を会得するには自学自習しかない。業務時間以外に学ぶ時間が必要なため、スタッフとしては自分の時間を損していることもあるだろう。

 会社同士はWIN×WINの関係が成り立つOEMだが、販売現場での一人一人の努力が、OEMを支えていることを忘れてはならない。協業する会社同士が、システムなどを出来るだけ共用し、売り手に負荷の少ないOEMを目指してほしい。

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投稿 仕入れ値高くて利益薄!? 今や定番のOEM車はいったい誰が得をするのか自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。