30日は午前中から35度を記録し、東京で今年初めて熱中症警戒アラートが発表された。この記録的な猛暑に、電力需給のさらなるひっ迫が心配された同日、勿来(なこそ)火力発電所9号機(福島県いわき市)がトラブルにより停止したことが分かった。
勿来火力発電所9号機の発電量は最大60万キロワットで、東京電力管内、東北電力管内に電力を供給している。テレビ朝日などによると、夕方には復旧できるよう作業を進めているという。
相次ぐ停止や廃止の背景は?
火力発電所はこのところ、停止が相次いでいる。仙台火力発電所(宮城県)は今年3月に福島県沖で起こった地震以降、運転停止が続いている。仙台火力の停止を受けて、3月22日には関東地方や東北地方で、電力需給がひっ迫した。
背景には、火力発電所の老朽化がある。電力需給のひっ迫が予想されるたびに、40年以上前から稼動を続ける老朽火力発電所を無理やり稼働させることで、急場を乗り切ってきた。しかし、老朽化しているためトラブルが起きやすく、そのたびに停止に至っている。
東京電力ホールディングス(HD)と中部電力が出資する発電会社「JERA」は、今年3月、大井火力発電所1~3号機(東京都)、横浜火力発電所5、6号機(神奈川県)、知多火力発電所1~4号機(愛知県)を廃止することを発表した。廃止すると発表された火力発電所の発電量の合計は、383万キロワットで、浜岡原子力発電所(静岡県)よりも大きい。廃止の理由は、いずれも老朽化だ。
2016年の電力自由化により、価格競争が厳しくなった電力会社にとっては、維持費のかかる老朽火力発電所を持ちつづけていることのメリットよりデメリットの方がはるかに大きくなった。そうしたことから、毎年のように老朽化した火力発電所が休廃止されている。経済産業省によると、2016年度から2020年度まで毎年、火力発電所の休廃止が増加。毎年度200万キロワットから400万キロワットの火力発電所が廃止された。
原発再稼働しかないのでは?
こうした中、懸念されるのが中長期的な安定電源の確保だ。経産省によると、休廃止される火力発電所は、今後ますます増えていくという。
電力需給のひっ迫予想に合わせて、休止中の火力発電所を再稼働すると言っても、休止中の火力発を再稼働させるまでのリードタイムは早くて1年。長いケースだと2~3年に及ぶという。休止中の維持管理コストも1基あたり年間数億円かかる。さらに、休止時に一度削減した人員や資材を確保する必要もあるうえ、火力発電を運転する技術も継承していかなければならない。そう簡単なことではないのだ。
また、29日には、8月の電気料金が9000円を超えると東京電力が発表した。東京電力によると、電気の使用量が平均的な家庭で9118円となる。1年前の8月と比べると2100円以上の値上がりだ。電力大手10社のうち、4社が8月の値上がりを発表している。値上がりの理由は、ウクライナ情勢などでの、火力発電に使用するエネルギー価格の高騰だ。
太陽光発電は発電量が季節や天気によって変わり、夜は発電できない。風力発電も、風が吹かなければ発電できない。いずれも不安定で、さらに環境への懸念もあり、主力電源とはなりえないだろう。とはいえ、発電コストが上がり続ける火力発電を主力電源とするのも現実的ではない。安全が確認された原子力発電所を再稼働する道以外、日本には残されていないのではないか。