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 以前に信州駒ケ根自動車学校で受講した大型二種のペーパードライバー講習の模様についての記事を書いたが(関連記事参照)、その間にバス運転士の卵たちが訓練している様子を見学し、話を聞くことができたのでその模様をレポートする。

文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)


事業者の依頼による訓練はオーダーメイド

 信州駒ケ根自動車学校は、大型二種免許取得のための免許教習と、すでに免許を持っている人のためのペーパードライバー講習に加えて、バス事業者からの依頼に基づいた運転士の訓練も実施している。

 この訓練は新人運転士はもちろんだが、例えば11mの路線車から12mの高速車や貸切車への移行訓練も行う。そのために同校ではハイデッカー車も保有している。

 この訓練のメニューは学校の担当者が事業者を訪ねて、当該事業者が持つ路線の特徴を実地検証してどのような訓練を行うのかを双方で検討して決める。よって既定のメニューというものはなくすべてオーダーメイドだ。

何台ものエアロスターが同時に訓練を行える

 免許を取得しただけではとてもではないが乗務はできず、かといってすべての教育を事業者で行うとなると莫大な費用と時間を要することから、例えば営業運転に必要な最低限の運転技術や路上での交通に即した運転、営業運転中の乗り心地を重視した運転等だろうか。

 また営業運転以外にも、点呼の方法から出庫前の車両点検まで一連の作業を行う場合もある。

制服着用義務の事業者も!

 完全に事業者の要求を満たすようなメニューで構成されているため、訓練生には営業運転時と同じ環境で訓練をしてもらうために、制服着用義務を課す事業者もあるようだ。記者が見学した際にはちょうど点呼を行っていた。

 合宿の宿舎カウンターを営業所に見立て、敬礼から始まり実際にアルコールチェッカーを用いて一連の点呼作業をこなしていく。本番ではないので教習員が敬礼の基本的な作法や点呼の順序を教えながらの訓練だった。

教習員が運行管理者になり点呼の訓練

 訓練生は場内をエアロスターで周回し、様々な過程をクリアしながら訓練を行っていた。その後は路上に出て行った。10名以上が同時に場内で走ってもバスは20台あるので、まるで営業所から出庫するラッシュ時のような光景だった。

 その中で記者はエアロバスを運転していたのだが、これが訓練生たちの目に留まったのを知るのは、その日の夜だった。

喫煙所が憩いの場所に!

 同校ではもちろん禁煙だが、宿舎内の隔離区域と建物外には喫煙所がある。記者は講習終了後に喫煙所で一服をしていたのだが、そこにゾロゾロとやってきたのが訓練生たちだった。

 喫煙の是非は置いておいて、知らない者同士でも何となく話ができてしまうのが酒とタバコの席だ。話しかけてみると「さっきハイデッカーに乗ってましたよね?」と興味津々のようだったので、バスマガジンの記者であることを明かして話をすることに。

 彼らはバス事業者の社員で、免許取得後に同校に訓練として送り出されたとのことだ。ここで基本的な訓練を積んで、会社に戻り今度は会社の車両でまた訓練、事業者により異なる仕様の機器類の操作や接客方法等を学ぶ。

 その後ようやく営業所に配属となるが、そこでは管轄路線別に実際の営業運転と同じ方法でまた訓練を行い、ようやく営業運転に出られるとのこと。乗務まではおよそ半年はかかるようだ。

運転士になった理由は様々

 時期的に記者が取材した季節では新卒者はいない様子なので、ほとんどが中途採用組だと思われる。概ね若い方が多かった印象だ。バス運転士になった理由を尋ねてみると理由は様々で、もちろんその中にはバスが大好きという方もいた。

 話を聞いているとかなりのマニアな様子で、他社路線を含めてバスや細かい路線や車両の知識はあるようだった。それでも好きで、趣味でバスに向かい合っていたのとは根本的に違うプロドライバーになる緊張感は伝わってきた。全員ではないにしろ、また程度の違いはあるがバス好きがいることは確かだ。

待遇については?

 バスに限らず日本のプロドライバー不足は深刻で、ひとつの要因に運転士の待遇が相対的に低いことが指摘される。その点について聞いてみると、それはよく理解している上で「しかし仕事がないよりマシですし、好きなことや、やりがいのある(と思っている)仕事ができるのはいいことだと思います」

 続けて「いろいろと軋轢はあるでしょうけど、それを乗り越えてこそのプロだと思いますよ。アレコレ言うのは簡単で勝手ですけどやってみないとわからないですし、やらないと地域の足が失われてしまいますからね」と語ってくれた。

エアロスターを運転する記者

 かつては義務感やボランティア精神に依存して待遇が悪かった職種はいくらでもあるが、十分とは言えないまでも向上してきているのは事実だ。バス運転士の世界も40年位前までは地元のバス会社に就職すると地域のエリート扱いだった時代が確かにあった。

 当時のまま数十年置き去りにされ相対的に待遇が低下したのは紛れもない事実だが、現在でもこうした抱負を持っている若者がいるうちに社会一般や事業者の理解が進み、構造が改善されプロドライバーの待遇が改善されることを祈るばかりだ。

投稿 バス運転士候補生はやはりバス愛が強い!? オーダーメイドの訓練メニューが強烈すぎる!!自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。