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 NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は2022年7月19日、グリーンイノベーション基金事業の一環として「スマートモビリティ社会の構築」に着手したと発表した。

 トラック・バス・タクシーなど商用車の電動化を推進し、輸送部門のカーボンニュートラル実現を目指すもので、予算総額は実に1130億円という巨大プロジェクトだ。

 参画する企業は、ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便などの物流企業とCJPT(トヨタの子会社で、いすゞ、日野、ダイハツ、スズキが出資する)、バス・タクシー事業者、電力会社、コンビニ各社などだ。期間は2030年度までの最大9年間。

 国内では自動車による二酸化炭素排出量のうち40%は商用車が占める。乗用車と比較すると、航続距離や稼働率などの使用条件が過酷ないっぽう、一般に乗用車より計画的に運行されることが多い。

 こうした商用車の特徴から、運行管理と一体的なエネルギーマネジメントシステムと、それを支えるシミュレーション技術の開発・実証を通じて社会全体でエネルギー利用を最適化し、スマートモビリティ社会の構築を目指す。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/フルロード編集部・トヨタ自動車・根本通商


政府目標に向けた巨大プロジェクト

 日本政府は2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を宣言した。2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするには、エネルギー・産業部門の構造転換とともに、大規模な投資が必要になる。

 現行の取り組みを大きく加速させるため、経済産業省はNEDOに総額2兆円の基金を造成し、官民で研究開発・実証から社会実装まで10年間継続して支援するグリーンイノベーション基金事業を立ち上げている。2兆円の政府予算を呼び水として15兆円に及ぶ民間企業の投資を誘発することを見込んだものだ。

 この度発表された「スマートモビリティ社会の構築」プロジェクトも、グリーンイノベーション基金事業の一環で、予算総額は1130億円(委託事業110億円、助成事業1020億円)という巨大なプロジェクトだ。

 自動車は国内の二酸化炭素排出量の16%を占め、その内40%が商用車によるもの。トラックやバス、タクシーなどの商用車は稼働率が高くエネルギー消費量も多い。そのため既存の電動車では必要とされる航続距離や稼働率を維持できず、乗用車より電動化が遅れている。

 こうした状況を打開し、バッテリー電気自動車(BEV)や燃料電池自動車(FCEV)など、商用車の電動化を進めるためには、「運輸事業コスト」と「社会コスト」の双方を許容可能な範囲に収める必要がある。

 「運輸事業コスト」とは、車両導入に伴うイニシャルコストや車両の充電を考慮した契約電力量増加、関連設備の導入・保守などにかかるコストだ。また「社会コスト」とは、充電需要の増加に伴う送配電設備の増強、充電(充填)ステーションの設置・運用などにかかるコストを指す。

運行管理とエネルギーマネジメントを一体的に

 NEDOが着目したのは「商用車が計画的に運行される」ということで、運行管理と一体的にエネルギーマネジメントを行ない、同じエリアを走行する電動商用車を連携させることでエネルギー利用と運行の最適化を図る。

 こうした考え方に基づきNEDOは経済産業省、国土交通省が策定した研究開発・社会実装計画(グリーンイノベーション基金の自動車関連プロジェクトをまとめた計画)に基づき、「スマートモビリティ社会の構築」プロジェクトとして、8テーマを採択した。

 また、「社会コスト」の増大につながる現象を見積もるシミュレーション技術と、それを活用した運行管理と一体的なエネルギーマネジメント技術を開発し、社会全体および個別運輸事業者におけるエネルギー利用・運行管理を最適化するシミュレーションシステムの構築を目指す。

参画する企業が行なうことは……

 プロジェクトの委託事業となるシミュレーションシステムの構築は、助成事業実施先から得られるデータや交通・エネルギー関連データ等を活用することで 運行管理の最適化技術、充電・充填インフラ整備の評価手法、運行データの管理・分析・連携基盤の開発などに取り組む。

 いっぽう上限1020億円の助成事業の内容は、物流企業や路線バス、タクシー会社などにおけるものが中心で、BEV・FCEV商用車の大規模導入を実現するために必要となる運行管理と一体的なエネルギーマネジメント等に関する研究開発となっている。

 具体的には、ヤマト運輸はBEV小型トラック850台、バッテリー交換式BEV小型トラック850台による群馬県全域でのEV車両の大規模実証、および交換式バッテリーを活用した車両運行オペレーションの最適化などを行なう。

 また、物流企業とCJPT、コンビニ各社が燃料電池トラック約300台と、BEVトラック約210台、BEV軽商用バン約70台を用いてFCEV・BEVの大規模実証を行なうほか、日本郵便はBEV軽バン900台と電動二輪車約1800台による地域ごとの気象・走行条件などを踏まえた運行管理を実証する。

 トラック物流以外では、みちのりホールディングス、関西電力などがBEVバスの実証、第一交通産業、Mobility TechnologiesなどがBEVタクシーの運行最適化などの取組を行なうことになっている。

 ただ、国際エネルギー機関(IEA)の試算によるとパリ協定の実現のためには世界全体で8000兆円もの投資が必要とされる。日本が2050年のカーボンニュートラルを実現するためには、政府による大規模プロジェクトを呼び水に、民間の投資を誘発することが不可欠といえる。

 自動車産業は日本の基幹産業であり、裾野の広い産業だ。変革に直面する現状は、日本の国際競争力を強化するチャンスでもある。中小零細企業もカーボンニュートラル実現に向けて前向きに取り組めるように、社会全体の気運を高めることも重要になりそうだ。

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