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国産EV続々登場!! しかし盛り上がりはイマイチ!? 国内EV販売状況の現状

 欧州車に続いて、国産車もBEV(バッテリー電気自動車)のラインアップが充実してきた。日産と三菱から軽EVがラインアップされたことにより、電気自動車の購入はより現実味を帯びてきたように思える。

 というのも、そもそもEVといえば高額なものを補助金でなんとかハードル下げている印象だったからだ。もちろんいまだに超高級電気自動車もあるが、選択肢は確実に増えている。

 にも関わらず、EV全体の売り上げは低迷しているように見える。この原因を深掘りしてみた!

文/小林敦志、写真/ベストカー編集部

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■日系メーカーEVが相次いで登場!

2022年6月登場の日産 サクラ。発表から3週間で1万1000台以上を受注した

 トヨタ bZ4X、スバル ソルテラ、日産アリア、日産サクラ、三菱eKクロスEVなど、ここ最近相次いで日系メーカーから新型BEV(バッテリー電気自動車)がデビューした。

 内燃機関を搭載する新型車では、発売から1カ月ほど経った段階で受注が殺到しているといった内容のプレスリリースがメーカーから発信されることが多いのだが、前述したBEVのなかではサクラが発表から3週間で受注台数が1万1000台突破したというリリースが発信されたのみであった。

 筆者は前述した新型BEVが発表ベース(一部未発売車種があった)で出そろったタイミングで各販売現場をまわったのだが、受注が大変好調とされる日産サクラを扱う日産系ディーラーでも、人気HEV(ハイブリッド車)のデビュー直後などに比べると、それに比べれば販売現場は静かな印象を受けた。

 ある事情通は「サクラに対する反応は地域差が結構出ているようです。地方都市ではクルマの複数保有は当たり前ですが、複数保有する生活に余裕のある家庭の反応は高いみたいでよく売れているようです。都市部では車庫の都合もあり、1台ですべてをまかなおうとする使い方が目立つことのあり、逆に反応がいまひとつとの話も聞きます」とのこと。

 これはアメリカでのテスラ車の売れ方によく似ている。テスラ車は内燃機関を搭載する大型高級SUVなどをファーストカーとして所有する富裕層の日常生活における“街乗り用”としてのニーズが高いと聞く。

 ロサンゼルスとラスベガスの中間地点に専用充電施設があるのを見たことがあるので、テスラでロサンゼルスからラスベガスには不安もなく遊びに行くことはできるようだが、広大な国土をBEVにて完全自由に移動するのが難しいのが現状のようだ。

 日本のサクラの例でも、ミニバンやSUVなど登録車をファーストカーとして所有しているからこそ、「サクラに乗ってみようかな」という購買行動が起きていると考えていいだろう。

■まずは郊外の富裕層がセカンドカーとして購入か

2022年6月登場の三菱 eKクロスEV。日産 サクラと同じ工場で生産される姉妹車だ

 興味深いのはキャラクターが異なるが、サクラと同じ工場で生産されるeKクロスEVでは取り扱うセールスマンからは「サクラの売れ行きが良ければ、生産比率が減りそうだ」との弱気ともとれるコメントが聞かれた。

 三菱自動車はアウトランダーやエクリプスクロスといったPHEV(プラグインハイブリッド車)モデルを積極的にラインナップしているし、いち早く軽自動車規格のBEV“i-MiEV”を開発しており、いまでも軽自動車規格電気商用車となる“ミニキャブMiEV”をラインナップしている。

 消費者としても電動車を積極的にラインナップする三菱自動車には興味があるのだが、やはり過去の度重なる不祥事によるブランドイメージの失墜がまだまだ影響しており、それを超越して三菱の電動車を購入するような“新規三菱自動車ユーザー”の獲得がなかなか進まないといったこともあるように見える。

 逆に日産自動車はBEVとなるリーフを初代発売から10年ほど販売を続けてきたということが、サクラの販売状況を後押ししていることは否定できないだろう。「リーフを長い間販売してきた日産のBEVだから」というのが後押ししているのは間違いない。

 補助金を考慮した支払総額を見れば、上級カスタム系モデルのハイト系内燃機関搭載軽自動車(日産ならルークス)を購入したのと同レベルの予算で購入できるし、残価設定ローンでは内燃機関を搭載する軽自動車より設定残価率が高いので、十分魅力的な支払プランで購入することができる。

 満充電での航続距離が180kmということからも販売現場では「遠乗りはおすすめできない」としているので、結果的に地方都市の生活に余裕のある家庭のセカンドカー的ニーズが目立ってきているようである。

 ただし、筆者はこのような需要を否定するつもりはない。そもそもBEV先進国の中国でも一過性の出来事とも言われているようだが“マイクロBEV”が大人気となっている現状を見れば、BEVの特性というか現状を見れば街乗り用としてニーズが広まっていくのもBEV普及の一つの“筋道”とも言えるし、日産もそこを狙っているのは間違いないだろう。

2022年6月の国産EVの登録台数

・日産サクラ 2か月で受注台数2万2000台以上 2022年7/20
・日産アリア 2021年6月4日発表から10日間で約4000台受注 2022年7月末受注一時停止
・三菱eKクロスEV 1か月で受注約3400台 2022年6/12

■国内の雄・トヨタの動きは?

2022年5月登場のトヨタ bZ4X。個人ユーザーが乗るならばKINTO(個人向けカーリース)のみとなっている

 気になるのは国内販売で圧倒的な販売シェアを誇るトヨタの動き。bZ4Xはトヨタ系ディーラーで販売は行わず、個人ユーザーならばKINTO(個人向けカーリース)の利用のみでしか手に入れることはできない。

 なぜKINTOのみとなったのかについては諸説あるが、トヨタとしては初となる本格量販BEVとなるので市場投入に慎重な姿勢を見せているといえるだろう。

 ただ、このKINTOのみというのがbZ4Xそのものの評価以前に普及の足かせとなっているようなのである。リースとはいえ700万円近い商品をウエブサイトから端末入力にて申し込みすることに抵抗を示すひとが多いようなのだ。

「あるトヨタ系ディーラーのセールスマンは『ご希望があれば店頭で私どもがアドバイスして入力をお手伝いさせていただくことしかできません』と語ってくれています。」(事情通)。

 当然ディーラーで販売していないので、店頭に試乗車などはほとんど用意されず実車に触ることができないことも大きい。あるトヨタ系ディーラーでは「そもそも弊社で販売しているわけではないので試乗車を用意しても仕方ないでしょう。しかも、弊社が用意するとしてもリースを利用するしかありません。

 一般的な試乗車は短期間使用して中古車として転売しますが、リース車両は返却しなければなりません。そのようなこともあり弊社では試乗車をご用意する予定はありません」と説明してくれた。

 bZ4Xは実車も触れないし、購入することもできないとして、兄弟車で販売しているソルテラが注目されているとのこと。

「トヨタディーラーへ行っても実車はないし、リースなので所有もできない(古い世代の日本人ほどクルマ以外でもリースに抵抗が少なからずあるようだ)、さらにパソコン入力して申し込むのにも抵抗のあるお客様が、試乗車のある弊社にこられることがあります」とはスバル系ディーラーセールスマン。

スバル ソルテラ。トヨタ bZ4Xの姉妹車となる

 ディーラーでセールスマンから商品説明を受け、購入して納車後の面倒も見てくれる。まだまだ消費者レベルでは“未知”な部分も多いBEVだからこそ“顔がつながる”販売活動こそが大切と考えるのは古い世代である筆者だけなのだろうか。

 ちなみにbZ4X及びソルテラには、6月24日にタイヤに取り付けるハブボルトに不具合が発生し、最悪は脱輪する恐れがあるとしてリコールが届けられている。対策はまだ決まっておらず、当面の措置として当該車両の使用停止が要請されている。

 メーカーやBEV個々で売れ行きにはバラつきがあるのだがHEV(ハイブリッド車)に比べれば、新型車デビュー直後の温度差をBEVでは強く感じてしまう。

 BEVそのものに対して消費者が“様子見”していることや、日系モデルのラインナップが少ないことなどもあるが、販売サイドから積極的に売り込むことができないことも大きいと見ている。

 業界関係者や自動車メディアに携わる人から見れば“余計な心配”となるが、充電設備の充足状況が消費者の購買行動を足踏みさせていることは間違いない。ガソリンスタンドの廃業が進みながら、充電施設の普及が進んでいるので、実際ネットなどで検索すると想定外に充電施設が多く存在することに驚かされる。

 しかし、売る側から「BEVはおすすめですよ」と積極的に売り込める状況にあるかといえば、それは難しい。「動力が根本的に異なるので、内燃機関車に比べれば“不便だなあ”と思わせてしまう部分があることは否定できません」とは現場のセールスマン。

 興味を持って購入を検討してくるお客には案内できるが、「買ってください」と誰にでも手放しでセールスマンが勧めることができないのが、BEV販売がいまひとつ盛り上がらない背景にあるのは大きいだろう。

 しかも6月末には首都圏地域において連日35度以上となる“酷暑”が続き、電力供給がひっ迫する事態になり大騒ぎとなった。しかも7月1日から9月30日にかけ政府は節電要請を行っている。そして今年の冬はさらに電力供給がひっ迫するといわれている。

 このような電力供給の現状を見てしまうと、実際問題は別としても心理的には「政府はBEVの普及を声高に叫びながら、節電を理由に利用を控えろとか言い出すのでは?」となるのは自然の流れであり、せっかく魅力的なBEVがリリースされても周辺環境が整っていないことにより、普及にブレーキをかけるといった状況になっているようにも見える。

 また、同調圧力の強い日本社会の特徴から、電力供給のひっ迫がさらにシリアスな状況になれば「節電が強く呼びかけられているのにBEVに乗っているなんて」と世論が動いて、BEVに乗っていると後ろ指をさされるといった事態も起きかねない。

 報道によると、EU(欧州連合)加盟国は6月29日に開かれた環境相理事会において2035年までにゼロエミッション車のみ販売可能とし、内燃機関車の販売禁止を認めた。法案成立はまだ少し先になるが、法案成立もほぼ間違いないとされている。

■EUの動きもまだまだ流動的

 しかし、この報道が出る少し前には、“内燃機関車の全面販売禁止を5年延長(つまり2040年まで)”するとの報道が飛び交っていた。さらに、環境に優しいとされる合成燃料“e燃料”の活用で内燃機関の延命をはかりたいといったドイツの報道もあった。

 この報道では“ハード(車両)の電動化は進んできているが、EU域内の充電施設が足りない”ともしていた。世界のなかでとりわけ、車両電動化に熱心である欧州でも充電施設が十分設置されていない。

 しかも、ロシアのウクライナ侵攻の影響もあり、EU加盟国のなかには石炭による火力発電量を増やす傾向が目立っているとのこと。

 仮に近々にEUで2035年までに内燃機関車販売を全面的に禁止する法律が成立しても、2035年まではまだ13年ほどあるので実現性そのものや実現の延長などは十分考えられることだろう。

 世界から見れば“掛け声”だけで、カーボンニュートラルに本気で取り組んでいるのか懐疑的に見られているのが日本。

 今回の電力供給のひっ迫についても、日本各地で酷暑が続いた6月下旬にドイツでG7(主要7か国首脳会議)がドイツで開催されており、一部では“カーボンニュートラルに取り組むなか、火力発電量を抑えているとアピールするためのパフォーマンスだったのではないか(ひっ迫はしていなかったということ)”などといわれる始末となっている。

 “エアコンつけていいけど節電してね”という不思議なお願いをしたり、“2000円あげるから節電に協力しろ”と国民に対しあくまでマウント姿勢を貫く日本政府。

 いまの状況(電力供給がひっ迫するなかでも、太陽光や風力などによる発電ではなく化石燃料による発電への依存が減らない)で「BEVにどんどん乗ってほしいけど節電してね」と言い出しそうな気配すら感じるが、そう言われた消費者は困惑するだけである。

 政府は理解を示さずになんでも民間に丸投げしているようにも見えるが、国のエネルギー供給については重要な政策課題と考える。しかも世界第三位の経済大国でそれまで化石燃料で動いていたクルマをすべて電気で動くようにするというのは、民間の努力だけでできるわけがない。

 しかし政府内にそのかじ取りをする人は皆無に見える。

  中国のような強い指導力を発揮することができず、国民に“お願い”することしかできないのなら、せめて国民が納得できる、新しい時代のエネルギー供給政策の策定が必要だ。そうしない限りは、日本国内のBEV普及に対して、その普及を願う政府自らが、いつまでもブレーキをかけ続けることになってしまうだろう。

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