20代のうち、決して少なくない数の人が、車の任意保険に未加入である実態が明らかになった。
新車情報や自動車ニュースのWEBマガジン「CarMe」、自動車に関する動画メディア「CARPRIME」などを運営するファブリカコミュニケーションズ(愛知県名古屋市、谷口政人社長)は28日、若者の任意保険加入の有無などを問うインターネットアンケート調査の結果を発表した。
20代の37%が「未加入」
アンケート調査は、6月30日に日本全国在住の20代の男女の300人に対して行われた。それによると、「自分名義で加入」している人は29.7%、「家族名義で加入」が17%だった。一方、「未加入」と回答した人は最多の37%に上る。数にして、300人中の117人が未加入だった。また、「不明」と回答した人も16.3%と少なくなかった。
アンケートでは、なぜ任意保険に加入しないのかの設問はなかったため、推測になるが、20代が任意保険未加入の主な理由は「お金がもったいない」というものだろう。20代は、まだ運転免許を取得して間もないため、30代以上と比べると一般的に保険料は高くなる。アンケートを実施したファブリカコミュニケーションズも「20代は金銭事情が厳しく、任意保険の保険料を負担に感じている人が多いのではないかと推測できます」と分析している。
37%が未加入というのは、任意保険の加入が当たり前と感じている世代にとっては衝撃的な結果ではないだろうか。それでは、任意保険未加入の20代は、そのことに対してどう思っているのか。任意保険未加入の地方在住の28歳の男性にその理由を聞くと、案の定「お金がもったいない」からだった。
「保険料を払うのは、ちょっと無理」
親の勧めもあって任意保険に加入しようとインターネットで調べてみました。ですが、どこも月々の保険料が高い。月に5000円から7000円の保険料が取られるんですよね。正直、今の給料ではギリギリの生活しかできません。今の状況で保険料を払うのは、ちょっと無理ですね。
今、こうした若者が増えているのだろう。ただ、任意保険に入っていないと事故を起こした時をはじめ、さまざまなリスクが生じる。車の保険には、加入が強制されている自賠責保険があるが、補償額には限度額がある。自賠責保険の支払い最高額は、被害者1名につき死亡で3,000万円。
対して、死亡事故を起こした時に遺族に支払う「死亡慰謝料」「死亡逸失利益」は、自賠責保険の上限の3000万円よりはるかに高額だ。
交通事故に関する訴訟に強い「弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所」のシミュレーションでは、被害者の立場が一家の支柱である、年収600万円の40歳男性(既婚、扶養家族2人以上)を自動車事故で死亡させてしまった場合、「死亡慰謝料」「死亡逸失利益」は合わせて9000万円ほどになる。
たとえ自賠責保険で3000万円が補償されたとしても、残りの6000万円は事故を起こしたドライバーが支払わなければならない。加害者に支払い能力がない場合、被害者遺族は泣き寝入りせざるを得ないケースもある。
「できれば入りたい、でも…」
この点を前出の男性に聞くと「僕、運転上手いんで。事故なんか起こしませんよ」と謎の自信に満ちた答えが返ってきた。おそらく、任意保険未加入の多くの若者もこうした認識なのだろう。
こうした若者の認識を「非常識だ」と切って捨てることは簡単だが、彼らの多くは実際に、月々の保険料を支払っていくことが難しいのは事実だ。取材に応じてくれた男性も、取材の最後に「リスクはあることは分かっているので、できれば入りたい。でも今は厳しい」とつぶやいていた。
保険未加入の若者が少ない背景の一つには、日本社会で「給料が上がらない」状況が長期化していることもあるだろう。やはり安全コストを賄う意味でも景気は重要だ。高度成長はもう望めないにしても、せめて、車の任意保険くらい気にせず支払えるくらいに、若者の賃金を上げていかなくてはならないと痛切に感じた。