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 NTTインディカー・シリーズは1週間のインターバルを置いて、第10戦カナダ・トロントに移動した。トロントでの開催はパンデミックの影響で2020年、2021年とキャンセルされており3年ぶりの開催となった。コースレイアウトも変わらず、やや懐かしさもあるトロントでどんなレースが展開されるだろうか。

 カナダのコロナ禍の影響はおおよそアメリカと似たようなものだが、アメリカよりも先に入国時の陰性証明を撤廃し、現在もマスクの義務付けもされていないが、最近はまた新規陽性者の数も増えてきている。だがイベント開催には影響もなく、インディカーはもちろん、メジャーリーグのトロント・ブルージェイズのゲームも予定通り開催されていた。

 デイル・コイン・レーシング・ウィズ・リック・ウエア・レーシングの佐藤琢磨も過去トロントではレースストラテジーをうまく立てて上位入賞の経験もある。

 今年のセント・ピータースバーグの決勝や、デトロイトの予選のように流れさえうまく掴めれば、上位進出の可能性もある。1周60秒余りの僅差の戦いをどう戦っていったのだろうか。

 またこのトロントはスポンサーのデロイトカラーとなり、イメージを一新していた。

 金曜日はFP1が75分のスケジュールだが、この変更されたスケジュールではタイヤセットの数が増えない限り、1セット余分に使えるルーキーが最初の15分を走り、路面が出来上がった頃からレギュラードライバーが走り出すという流れは変わらないようだ。

 その中でブラックを1セットもしくは2セット。そして予選前のレッドの確認で1セット使うのが慣例となってきた。

初日は順調にマシンセッティングを進めていた佐藤琢磨
初日は順調にマシンセッティングを進めていた佐藤琢磨

 琢磨はブラックとレッド両方のタイヤを履いて13番手となり「悪くないと思います。トロントらしい路面は変わらずでしたが、トラフィックに引っかかったことを考えるとタイムも悪くないと思う」と初日を締め括った。

 土曜日は午前中にFP2があったが、最初のうちにトップ10に入るタイムを出し、走り出しも良かった。だがセッションの最後でターン6で滑り外側のウォールにヒット。マシンにダメージを負ってしまった。

 セッション終了後、デイルコインのチームは総出で琢磨のマシン修復にかかった。

エンジニアのドンと状況を確認する佐藤琢磨
エンジニアのドンと状況を確認する佐藤琢磨

FP2の前に行われていたポルシェのサポートレースで、ターン3にハードヒットしたためにタイヤバリア飛ばし、なおかつTVのケーブルも切断するトラブルもあって、その修復で30分のディレイがあった。

 予選開始時間はそのまま。つまり琢磨がマシンを直す時間は30分の猶予を失ったのだ。須藤、小笹両メカを始めとしてチーム総出の修復でマシンは走れる状態となったが、コーナーウエイトなどのバランスは取れないままで琢磨はマシンに乗り込むことになってしまう。タイトなインディカーの予選では、Q1を通過することもままならず琢磨は予選19番手となった。

 日曜日の朝は決勝に向けてのセッティングを施し16番手。

「マシンは良かったと思います。レースに向けてタイヤの戦略をどうするか話していましたが、デトロイトの教訓でライバルはおそらくレッドタイヤを早くブラックに変えてくると思うので、ブラックタイヤでその間にトラックポジションを上げられればと思っているのですが……」と、レース戦略のさわりを話してくれた。

 デトロイトはコースレイアウトや路面コンディションの変化で、荒れるレースになるのが慣例だった。ならば琢磨もコース上で生き残れれば上位進出のチャンスは残っているだろう。

 19番手の位置からグリーンとなってターン1に進入していく。琢磨はアウト側にマシンを振って、メイヤー・シャンク・レーシングのシモン・パジェノーと並ぶ形でコーナーを回った。

ターン1へと進入する佐藤琢磨
ターン1へと進入する佐藤琢磨

 そして立ち上がってくるはずだった琢磨のマシンはターン2の外側に激しくヒットし大きくポジションを落とした。TVが捉えた琢磨のマシンは左フロントタイヤが大きく外れ、3輪走行でピットに向かう51号車の姿だった。

 成す術なくマシンを降りた琢磨。悔しいことにトロントでは1度もコントロールラインを越えることができずにレースを終えることになった。

「スタートも良くてターン1はとても慎重にいったんですどね。イン側にいたマシンが接触したのか、そのリアクションで外側にはらんで来るかたちで、僕の右側から当てられてターン2の壁に押されてしまいました。もうなんて言って良いか言葉がありません……」

 1周も完結できなかったレースは、2019年のポコノ以来という厳しい結果となった。群雄割拠、生き馬の目を抜く厳しいインディカーシリーズ。レースは毎戦白熱した戦いが続くが、このレースで勝ち歴代2位の勝利数となったチップガナッシのスコット・ディクソンと琢磨のコントラストが感慨深いものがある3年ぶりのトロントだった。

レース後に運ばれる51号車
レース後に運ばれる51号車