約2カ月ぶりのシリーズ再開となった2022年のスーパーGT第4戦、富士スピードウェイでの100周/450kmの長距離勝負となったGT500クラス決勝は、序盤からトップ3圏内を堅守し、後半ダブルスティントで抜群の集中力を発揮した37号車KeePer TOM’S GR Supraのサッシャ・フェネストラズ/宮田莉朋組がGT500初優勝を獲得。2位に12号車カルソニック IMPUL Z、3位には終盤までレースを支配し続けた24号車リアライズコーポレーション ADVAN Zが入り、ニッサン/ニスモとしても富士で2台を表彰台に送り込んだ。
季節外れの猛暑となった5月末の鈴鹿戦とは対照的に、6月以降続いて来た”熱波”と呼ぶべき酷暑から一転し、涼しいコンディションで争われた土曜予選は、序盤3戦で連続ポールポジション獲得記録を続けて来たトヨタ陣営が引き続きの強さを見せ、19号車WedsSport ADVAN GR Supraがシリーズタイ記録となる3戦連続のトップタイムを刻んだ。
さらにフロントロウ2番手には24号車リアライズコーポレーション ADVAN Zが続き、各タイヤメーカーとも持ち込みタイヤの温度レンジが想定とは異なる状況だったことも影響しつつ、低温条件でヨコハマタイヤが最前列を占拠する強さを発揮した。
グリッド2列目には37号車KeePer TOM’S GR Supraと38号車ZENT CERUMO GR Supraが並び、TGR勢が予選での強さを堅持。5番手の8号車ARTA NSX-GT、6番手の36号車au TOM’S GR Supraを挟んで、背後には12号車カルソニック IMPUL Z、23号車MOTUL AUTECH Zと2台のニッサン勢が続くグリッドに。
100周/450kmの決勝に向け各陣営が選択した予選使用のスタートタイヤのライフがどう推移するか、2度のピットをどの時期に設定し、ドライバー交代やタイヤ交換、さらには無交換の可能性も考慮する陣営があるのかなど、見どころ満載の勝負が予想された。
午前のサポートレース開催時にはウエットパッチが残っていたトラック上も、午後12時30分のウォームアップ走行開始時には完全ドライに。ここでのタイヤの反応とセットアップの見極めが戦略策定に重要な指標となるだけに、各陣営とも20分間のセッションで精力的に周回を重ねた。
しかし13時を回りスタート進行が始まるタイミングで、富士の空模様は急激に下り坂となり、上空から大粒のシャワーが路面を濡らす。コースオープンからグリッドへの試走の間に舗装の色は完全に変わり、100Rなどではまとまった雨量に。
各陣営とも急遽グリッド上へレインタイヤを搬送したが、14時までに雨は収まり、GT500各車は静岡県警の白バイ隊と4台のパトカーに先導されパレード&フォーメーションラップへ。雨の影響を受けフォーメーションが1周追加されながら、気温は26度、そして路面温度は前日よりわずかに高い31度の条件でスタートが切られた。
急激に日差しが戻り、陽炎も立つホームストレートを経て1コーナーへと到達した隊列は、クリーンにオープニングラップをクリアすると、中段で2台のZが36号車auジュリアーノ・アレジの前に出る。
続く2周目のストレートエンドでは、24号車リアライズ平手晃平がWedsSport ADVAN国本雄資のインを刺し、ここで早くも首位交代。そのまま平手は1周で1秒のマージンを築く。さらに4周目突入の1コーナーでも37号車KeePerサッシャ・フェネストラズが2番手に浮上していく。
この時点でレース前に前戦のダメージからエンジンとモノコック交換を強いられ、10秒のペナルティストップが確定していたZENTは立川祐路がピットロードへ。5周目のトラック上では、12号車カルソニックのベルトラン・バゲットが8号車ARTA福住仁嶺をパスし、続く周回ではこの2台に国本が飲み込まれてしまう。
10周を前に先頭集団がGT300の集団に追いつき始めると、GT500のポジション争いは一旦こう着状態となり、首位を行く24号車平手は18周目に302.521km/hのスピードトラップ計時を記録しジリジリと逃げを打つ。
20周を過ぎて気温は32度、路面温度も40度を超えてくると、11番手でNSX-GT同士の三つ巴バトルを演じていた17号車Astemo NSX-GTの松下信治がミニマムでピットへ向かい、ドライバーもタイヤも換えず給油のみでコースへと復帰する。
28周目には6番手争いで14号車ENEOS X PRIME GR Supra山下健太と、36号車auのアレジが19号車の前に出ると、32周目のターン1ではアレジが勢いを見せ、山下をオーバーテイクして6番手へとポジションを戻してくる。
すると34周目には前を行く23号車MOTUL AUTECH Zのピットに合わせるかのように、レース距離3分の1を超えたところで36号車au TOM’S GR Supraも反応。前車は作業静止時間39.4秒、後者は48.3秒と大きな差を見せつつ、ともにドライバー交代を終えてコースへと戻っていく。
しかし23号車のステアリングを引き継いだ松田次生は、ハザードを点滅させながらのスロー走行となり、場内放送でギヤシフトを作動させるコンプレッサーのトラブルとの情報が伝えられる(レース後にセンサー系の電子系トラブルと判明)。23号車はスロー走行のまま再びピットへ。この間、2番手にいた37号車KeePerは46.2秒の静止時間で宮田莉朋へスイッチ。続く38周目には首位の24号車リアライズが42.7秒で佐々木大樹にドライバーチェンジし、実質首位でコース復帰に成功する。
続く周回以降、後続も続々と最初の義務ピットへ向かい、42周目にはわずかにファーストスティントを伸ばした39号車DENSO KOBELCO SARD GR Supraと16号車Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GTが作業を終えると、首位の24号車以下、37号車KeePer、12号車カルソニック、8号車ARTA、そして36号車auとトップ5の顔ぶれは変わらず。その背後6番手には17号車Astemo松下がひたひたと迫ってくる。また同じ周回では、ペナルティからの挽回を期していた38号車ZENTがこちらもスロットル系トラブルとの情報で、ピットロードに入ったコントロールタワー下でマシンを止めてしまう。
レース距離も折り返しを迎えた53周目には、最終コーナーの攻防で14号車ENEOS X PRIME大嶋和也が松下の前へ。その前方では、4番手を争うARTA野尻智紀とau坪井翔がテール・トゥ・ノーズの状態となる。2台はセクター1で数周のサイド・バイ・サイドを演じ、56周目のヘアピンでクロスを仕掛けた坪井が華麗なオーバーテイクを見せる。
この周回で39号車DENSO KOBELCO SARD GR Supraにも前に出られた17号車松下は、58周目にダブルスティンとを終え45.5秒の静止時間で塚越広大へと最後のタスキを繋いでいく。
すると60周目にGT300クラスの車両トラブルにより、この日初めてのFCY(フルコースイエロー)が発動し、時速80km/h制限でピットレーンもクローズに。このレースからFCYの導入・解除の手順にわずかな変更が施されたが、続くラップですぐさま解除され、大きなアクシデントなくレースは再開する。
この60周時点で路面温度は34度まで低下しており、ラストスティントのタイヤ選択と最後のピットタイミングが重要度を増すなか、70周を迎えトップ3が接近。GT300に進路を遮られながらも、3番手の12号車カルソニック平峰一貴がKeePer宮田のテールに迫る。
すると72周目に4番手ARTAが真っ先に最後のピットへ向かうと、野尻のダブルスティントを選択。ここで決定的な勝負の分かれ目が訪れ、続く周回では首位の24号車以外、上位勢はほぼ全車がドライバー交代をしないダブルスティントの判断を下し、モニター表示上で36.4秒の静止時間だった平手のZに対し、続く周回の37号車KeePerは28.7秒、続くラップに入った12号車カルソニックは29.2秒差で大逆転のピットロードを後にする。
しかし、復帰直後に37号車KeePerとの勝負を覚悟した平峰がコールドタイヤでブレーキングを逸り1コーナーでオーバーシュート。2番手に落ち着いたものの、陣営内の24号車の前で最後のスティントに向かう。
81周目に39号車DENSOが最後のピットに向かい、ここで中山雄一のダブルスティンとともにタイヤ無交換のスプラッシュ・アンド・ゴーを選択。これで8号車ARTAの前、実質5番手に浮上するも、82周目最終セクターからホームストレートを挟んでの攻防で、よりフレッシュなタイヤを履くARTA野尻が意地を見せ、NSX-GT最上位としてトップ5を死守する。
100周から1周減算、99周まで残り10周を切り首位のKeePer宮田はセクター1で全体ベストも記録する力走で、2番手カルソニックに対し5秒近いマージンを構築。3番手のリアライズ平手もここから挽回の決定打はなく、37号車KeePer TOM’S GR Supraが今季初のトップチェッカー。宮田莉朋とサッシャ・フェネストラズは第2戦の富士のトップ争いで同じトムスの36号車に接触して同士討ちとなった雪辱を晴らすGT500クラス待望の初優勝を決め、お互い1990年生まれのGT500最年少の若きペアが未知の450km戦最初のウイナーに輝いた。