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国際エネルギー機関(IEA)は6月30日、各国政府が目標に据える、2050年までに「ゼロエミッション」を達成するためには、世界の原子力発電能力を現在の2倍に引き上げる必要があるとの報告書を発表した。

zhongguo /iStock

小型モジュール炉など新技術にも期待

ゼロエミッションとは、企業活動や社会活動で排出される廃棄物を排出量削減やリサイクルを行うことで、限りなくゼロに近づけるための取り組み。最近では、二酸化炭素の排出ゼロを目指す取り組みを指すことが多い。

IEAの報告書によれば、原子力発電は水力発電に次いで二酸化炭素を排出しない発電方法で、現在、32カ国に原子力発電所がある。IEAは「持続可能でクリーンなエネルギーシステムの構築は原子力なしではより難しく、よりリスクが高く、より高価になる」と指摘。

また、原子力発電が一部の国の国民や政治家から反対を受けていることに触れたうえで、次のように綴られている。

原子力発電の利用継続または拡大することを選択した国々では、輸入化石燃料への依存を減らし、二酸化炭素排出量を削減できる。

さらに、「今世紀半ばまでの二酸化炭素の排出量削減の半分が、まだ商業的に実現可能ではない技術によるものである」と指摘。具体例として、小型モジュール炉(SMR)が挙げられており、「SMRの低コスト、小型化、事故リスクの低さは、社会的受容性を向上させ、民間投資を呼び込む可能性がある。カナダ、フランス、イギリス、アメリカでは、この有望な技術への支持と関心が高まっている」と新たな技術に期待を寄せる。

7年前に予言されていた日本の現状

また、IEAは最近、原子力発電を改めて奨励するエネルギー戦略を発表しているが、発表に際してIEAのファティ・ビロル事務局長は次のように述べている。

世界的なエネルギー危機、化石燃料の価格高騰、エネルギー安全保障の課題、気候変動への取り組みといった今日の状況は、原子力発電がメインの舞台にカムバックできる機会であると信じている。

ピロル事務局長は、IEA理事長に就任して間もない7年前に、日本経済新聞のインタビューに次のように述べていた。

1バレル50ドル前後の(低めの)原油価格が長く続く可能性は低く、日本などの輸入国は過度に楽観しない方がよい。

ピロル事務局長がインタビューを受けた2015年11月の原油価格は1バレル50ドル前後だったが、現在は一時より落ち着いているとはいえ、1バレル100ドルを超えている。それに伴って、電気料金も値上がり。東京電力などの大手電力4社は先日、8月からの電気料金のさらなる値上げを発表したばかりだ。

東京電力では、電力使用量が平均的な家庭で、初めて1カ月の電気料金が9000円を超えるという。7年前にピロル事務局長が言った通りの結果になってしまっている。

冬に向け火力発電のリスク高まる

そうした中、さらにエネルギー需給が心配になるようなニュースも飛び込んできた。ロシアのプーチン大統領が、ロシア極東・サハリンでの石油・天然ガス事業「サハリン2」を運営する「サハリン・エナジー・インベストメント社」の保有する資産を、新設するロシア企業に無償で譲渡するよう命じた大統領令に署名したのだ。

プーチン大統領(ロシア国防省ツイッター。署名は別のシーンです)

サハリン社には、日本の三井物産と三菱商事も出資している。三井物産の比率は12.5%で三菱商事は10%だが、今後、サハリン2の液化天然ガス(LNG)が日本に輸出されるかどうか不透明感が強まっている。LNGは、火力発電の主要な燃料で、万が一、輸出されないとなると、電力需給にも大きく影響を与えるだろう。

岸田首相は6月28日、G7サミット閉幕を受けての記者会見で、原発再稼働に積極的な姿勢を示したが、休止している原発の再稼働には数か月ほどの準備期間が必要だ。夏場より電力需要の大きくなる冬の前に原発を再稼働するためには、今すぐにでも準備に入らなければならない。「このままいけば今年の冬はブラックアウト(大停電)になる」と指摘する専門家は少なくない。しばしば「何もしない」と揶揄される岸田首相だが、国難を前に決断を下せるか。