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EVにはなぜサンルーフが多い?

 1990~2000年代にかけて、一世を風靡したRVやミニバンなどの主力装備として認知されていたサンルーフ。今ではマーケットでの注目度は薄れていたものの、輸入車の高級ブランド、あるいはSUVやクロスオーバーの中大型モデルを見ると、上級グレードのオプション装備などとして、しぶとく生き残ってきた。

 現在主流となっているサンルーフの形式は、固定式あるいはスライド(&チルト)式を採用するガラス製ルーフパネル(トヨタは「ムーンルーフ」と呼ぶ)が見られるようになった。なかでも最近になって多くのニューモデルが登場した電気自動車(EV)では、採用例が多いように思える。

どうしてサンルーフが復活したように感じられるのか、その実際を探ってみよう。

文、岩尾信哉/写真、トヨタ、日産、メルセデス・ベンツ、BMW、ポルシェ、ステランティス、テスラ、アウディ、ベストカー

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サンルーフがあるとプレミアム感を打ち出しやすい

EVにはなぜサンルーフが多い?
ホンダe。コンパクトEVとしては異例のサンルーフ(スカイルーフ)設定モデル

 欧州の高級ブランドに比べれば、まだまだモデル数が少ない日本メーカーのEVだが、ようやく新型車が日本の国内市場でも発表されてきた。

 発売が先にずれ込む例が多いのは、半導体などを含む部品の供給体制が不安定になっている影響だろう。政府がEV・PHEV(プラグインハイブリッド車)などの補助金制度を拡充(EVは約85万円)したことも、受け皿となる新型車にとって追い風になっている。

 マーケットを賑わしているEVでサンルーフの採用に目がいくのは、様々な要素が絡み合った結果といえる。後述するように、マーケットの現状として活況を呈するカテゴリーであるクロスオーバーSUVモデルが目立つ最新EVだが、依然として車両価格は高額といえる。

 これを顧客が受け入れやすくするためか、デザイン性と高級感を演出する装備としてサンルーフが目につくのは、プレミアムなイメージがつかみやすく、採用しやすいからだろう。過去には前述のように、サンルーフがRVやミニバンのある種の贅沢装備として、日本市場で認識されてきたこともあるはずだ。

 ところでコンパクトカーでは、EVでなくともボディの設計面などで開口部を広げると起こりうるボディ剛性の問題もあるはず。なにより燃費と販売価格への影響の割合が大きすぎるために、サンルーフの採用は縮小傾向にあるといえる。

 コンパクトBEV(バッテリー式電気自動車)であるホンダeのガラス製ルーフ「スカイルーフ」などは例外的といえ、451~495万円という車両価格を顧客に納得させるような装備の充実を図ることを重視したといえる。ちなみに、マツダ唯一のBEVであるMX-30のEV仕様に、サンルーフの設定がないことは残念に思える(モデル全体として未設定)。

EVにはなぜサンルーフが多い?
ホンダeのスカイルーフ

 こうしてサンルーフの仕様や設定をチェックしてみると、モデルによって設定の仕方は微妙に異なることが見えてくる。基本的には標準装備というよりもメーカーオプションもしくは上級グレードのみに設定するなど、設定パターンは様々あるのだ。

ガラス自体で遮熱するレクサスRZのパノラマルーフ

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布状のシェードを持たないレクサスRZ(プロトタイプ)のパノラマルーフ

 日本車の最新仕様を中心にEVのサンルーフを見ていこう。まずトヨタとスバルの共同開発モデルとして登場したBEV(バッテリー式電気自動車)であるbZ4X/ソルテラだ。トヨタbZ4Xは2021年4月、スバル・ソルテラが2021年11月に発表、追ってどちらも2022年5月に発売された。価格はbZ4Xが600~650万円(リース販売のみ)、ソルテラは594~682万円とされ、トヨタではハリアー、スバルでは新型の発表が近いフォレスターよりもラインナップで上位に位置することになる。

 bZ4Xは「Z」のワングレード設定とされ、メーカーオプションとして設定されたパノラマムーンルーフ(電動サンシェード、挟み込み防止機能付)の価格は11万円(税込み)。いっぽう、ソルテラはルーフレールとセットとされ、価格は22万円(税込み)と高めに設定されている。

 いっぽうレクサスでは、BEVとしてUX300e(車両価格は580~635万円)が登場。メーカーオプションとしてムーンルーフ(チルト&アウタースライド式)が用意されている。価格は11万円とbZ4Xと共通だ。

 注目すべきはレクサスが新たにBEV専用モデルとして2022年4月に発表した「RZ」で、2022年後半の発売が控えている。RZにはサンルーフの最新仕様といえる「パノラマルーフ」が用意されている。ガラスパネル自体に高い遮熱・断熱・紫外線99%カット機能を与え、シェードレス設定を可能した。

 これにより車体の軽量化やヘッドクリアランス(座席に座った際の頭頂部から天井までの距離)の確保に寄与している。さらに瞬時に透過光を制御し車内の明るさを調整可能な調光タイプも用意する。

アリアはB6にオプション、リミテッドに標準装備

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アリアはリミテッドにパノラミックガラスサンルーフが標準装備となる

 BEVでは先んじた日産は、去る5月に軽自動車のEVである「サクラ」(三菱はeKクロスEV)の導入で注目されているが、BEVとして2021年6月に発表された、クロスオーバーSUVであるアリアを見てみよう。

 車両価格はB6(バッテリー容量:66kWh、FWD)の539万円からB9 e-4ORCEリミテッド(同:91kWh、4WD)の790万200円となり、500万円オーバーのカテゴリーに入る。ちなみに、リーフに設定がないのは開発段階からコストを抑えることを重視した所以だろう。

 アリアに用意されているパノラミックガラスルーフ(電動チルト&スライド、電動格納式シェード付、リモート機能付)は、B6仕様ではメーカー・セットオプションとしてプロパイロット2.0などとの組み合わせとなる。なお、現状でラインナップされている「リミテッド」では標準装備となっている。

輸入EVのサンルーフはもはやあたりまえ?

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メルセデスEQAのパノラミックスライディングルーフ

 輸入車に関しては、サンルーフは日本車ほど贅沢装備とはいえないだろう。日本市場では価格を含めて、輸入車であること自体がブランドとしての商品価値を備えていることから、サンルーフを装備するうえでのハードルは日本車よりも低いかもしれない。

 いわゆる高級感の演出手段としての大型ガラスルーフなどは、特にEVでは購入者に先進性やラグジュアリーな雰囲気を与えられるので、商品性をアピールすることのほうが重要なはずだ。

 ネガティブな要素である車重の増加と車両価格への影響についてだが、EVについては駆動用バッテリーの価格と搭載量の影響のほうが大きいと多くのメーカーが捉えているに違いない。コンパクトEVでは、これに一充電走行距離への影響をどう割り切るかにかかってくるはずだが、この点で言えば、輸入車EVのサイズ感であれば、サンルーフは設定しやすいはずだ。

 各輸入車ブランドを見ていくと、基本的には日本車と同様にメーカーオプションもしくは上位グレードに標準装備されていることがわかる。

 ドイツ勢では、メルセデス・ベンツのEVブランド「EQ」では、EQA(車両価格:733万円)にメーカーオプション(受注生産)として「パノラミックスライディングルーフ(挟み込み防止機能付き)」を設定、価格は17万円とされている。

可動式、固定式などバリエーションはさまざま

 BMWの電動化ブランドである「i」シリーズでは、大型SUVのBEVである「iX」(車両価格:1070~1280万円)にセットオプション装備される「ファーストクラスパッケージ」(価格:63万5000円)に「スカイラウンジパノラマガラスサンルーフ」を設定。サンシェードの機能をスイッチひとつでガラスを不透明にできる調光機能を備える。

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開放感が素晴らしいBMW iXのスカイラウンジパノラマガラスサンルーフ

 ポルシェのBEVであるタイカン(車両価格:1203~2468万円)では、昨年11月に日本市場にタイカンGTS(同:1807万円)を設定したが、新規のオプション装備として「サンシャインコントロール付パノラミックルーフ」を装着することができるようになった。

 すべてのタイカンモデルでオプションとして。2022年6月以降から受注開始予定。電気的に切り替え可能な液晶フィルムによって透明からマットに変わり、車内を暗くすることなく乗員をまぶしさから保護するというものだ。

 いっぽう、ステランティス・グループのフランス系ブランドを見ていくと、プジョーのBEVである「e-208/e-2008」の上級グレードのGT(e-208GT:464万6000円、e-2008GT:509万8000円)にメーカーオプションとして、異なる仕様のサンルーフが設定されている。

 e-208GTには「パノラミックガラスルーフ」(価格:10万2000円)、e-2008GTでは「パノラミックサンルーフ」(価格:14万円)が用意されている。コンパクトEVで数少ない設定といえる「パノラミックサンルーフ」は、後席頭上まで広がる面積を獲得、前半部分が外気を取り込める。キャビンのほぼ全体をカバーするために開放感があり、特殊加工が施されたガラス材により、熱線や紫外線をカットする(サンシェード付き)。

 シトロエン・ブランドの「Ë-C4エレクトロニック」には「ガラススライディングルーフ」を標準装備。先進性を謳うDSブランドでは、「DS 3クロスバックE-TENSE」にメーカーオプションとして「パノラミックガラスルーフ」を設定している(価格:10万2000円)。

 ジャガーIペイス(車両価格:1005~1139万円)には、パノラミックルーフがメーカーオプションとして用意され、価格は22万8000円の設定となっている。

 こうしてみていくと、そのほとんどがいわゆる「パノラマルーフ」であっても、車種によって前後で固定式か可動式か、全面採用か分割式かなど、バリエーションが存在することがわかる。開放感には多少なりとも差が生じるので、チェックしておいたほうがよいだろう。

サンルーフが標準装備になる輸入EVはこれ!

 とはいえ、輸入車ブランドでサンルーフを標準装備として設定されている車種は意外に少ない。そんな中、EVメーカーのテスラは、全モデルでガラスルーフを標準装備している。ルーフ前後に広く備わるため、サンシェードのアフターパーツも見られる。

 欧州メーカーではVWグループのアウディがラインナップする「e-tron GT」が、「パノラマサンルーフ」を標準装備するのは、車両価格(1399~1799万円)もあるにせよ、ブランドの先進性を謳うアウディとしては必然的かもしれない。ちなみに、最新モデルのQ4 e-tron(車両価格:599~716万円)ではパノラマサンルーフがメーカーオプション設定されている(価格:22万円)。

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パノラマ・ガラス・サンルーフが標準装備となるボルボXC40リチャージ

 電動化を推し進めているボルボは、BEVであるC40リチャージ(車両価格:599万円)に固定式、XC40リチャージ(車両価格:579~679万円)は、チルトアップ機構を備える電動式の「パノラマ・ガラス・サンルーフ」がそれぞれ標準装備されている。

 日本市場では新興勢力といえる韓国のヒョンデ・アイオニック5(車両価格:479~589万円)には固定式ガラス製ルーフの「ビジョンルーフ」を標準装備する。

高級車としての「贅沢装備」

 こうしてサンルーフが設定されているEVは基本的に500万円以上の車両価格を前提にしていることがわかる。補助金が必要とされるようなEVのような高級(高価)なクルマ、あるいは基本的に高価格である高級輸入ブランドのモデルでは、具体的には車両の前後方向に長く開口(ガラス)部の面積が大きいパノラマルーフが基本となり、商品性の向上とともに、装備として実感できる贅沢品として、購入価格への上乗せが可能という結論になる。

 言い方はよくないかもしれないが、サンルーフは現状では高級車となるEVの「贅沢装備」として相性が良い。流行のクロスオーバーモデルと大型ルーフ、そして価格の高いプレミア性などとの相乗効果を利用して、EVの魅力を広めるという手法は、将来の普及やビジネスの方策としては充分に成り立つのだろう。

EVにはなぜサンルーフが多い?
トヨタbZ4Xのパノラマムーンルーフ。プレミアム感がグンと高まる

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