歴代M3の中で最も実用的なモデル。BMWの歴史上、初となる、M3ツーリングが量産されることになった。今回発表されたM3のエステート仕様には、510馬力と全輪駆動を備えたコンペティション バリアントのみが用意される。
発表と価格: M3ツーリングは10万ユーロ以下から
BMW M社はいよいよ「M3ツーリング」を量産する。その過程で、2020年8月12日に「エステートM3」を初めて発表してから、グッドウッドで開催される「フェスティバル オブ スピード」で完成車を発表するまでには、約2年の歳月を要した。
社内ビルドコード「G81」を持つ「M3ツーリング」の最初のモデルは2022年12月から市場に出回り、購入希望者は早ければ9月からスポーツエステートを注文できるようになる。唯一のエンジンオプション(M xDrive全輪駆動、510馬力、8速オートマチック)のベース価格は、97,800ユーロ(約1,370万円)で、同パワーの「M3セダン」より1,000ユーロ(約14万円)高い設定となっている。
外観とサイズ: M3ツーリングは大幅に延長
「M3ツーリング」のビジュアルは、予想通りBピラーまでセダンと同じだ。わかりやすく言うと、大きなM字型のキドニーグリル、空力に配慮したエプロン、張り出したフェンダーということだ。ここまでは、すべてご存知の通りのものだ。しかし、Bピラーから後ろの部分は、「G81」はエステートとなる。ルーフは標準ではブラックだが、希望によってボディカラーに塗装することも可能となっている。
カーボンルーフの設定はない。ティアオフエッジを追加したルーフエッジスポイラーは、いずれにせよブラックだ。その下には、通常の「3シリーズ」でおなじみのスプリットテールゲートがある。リアホイールアーチと、典型的な4本のテールパイプを含む骨太のエプロンが融合し、新型「M3オフショア」の最も壮観な景観を作り出している。
【サイズ一覧】
• 全長: 4794nn(3シリーズ ツーリング比+85mm)
• 全幅: 1903mm(3シリーズ ツーリング比:+76mm)
• 全高: 1436mm
• ホイールベース: 2857mm
• 回転半径: 12.2m
• ラゲッジコンパートメント容量: 500~1,510 リットル
インテリア: カーブドディスプレイとOS 8を標準装備
新しいカーブド(曲面)ディスプレイと2つのスクリーン(12.3インチと14.9インチ)により、最もパワフルな「3シリーズ」のエステートは当然、数週間前に公開した「3シリーズ」のフェイスリフトと同じように、最新のBMWインフォテイメント「OS 8」が搭載されている。
これは、将来的に「M3」が、よりタッチ&トークでコマンドを発行することを意味する。さらに、最もスポーティな「3シリーズ」には、M社のハウスカラーであるブルーとレッドを基調としたM専用ディスプレイが新たに採用されている。また、ヘッドアップディスプレイには新しいグラフィックが採用されている。あとはご想像のとおりのディテール処理を持っている。
最大1,510リットルの積載量
写真車両にはオプションのMカーボンバケットシートが装着されており、低い着座位置と優れたエルゴノミクスを含むサーキットツールフィーリングを実現している。エステートの決め手は、もちろんカーゴルームの容量だ。
ラゲッジコンパートメントに500リットルから1,510リットルという容量を備えた「M3ツーリング」は、積載量の点で「3シリーズ ツーリング」に決して劣ることはなく、標準装備の40/20/40フォールディングリアシートで、標準の「3シリーズ エステート」に匹敵する可変性をも備えている。
パワートレイン&テクノロジー: M3ツーリングはコンペティションのみの設定
「M3ツーリング」のパワートレインは、最高出力510馬力の「S58」直列6気筒ツインターボのコンペティション仕様のみで、リアヘビーなM xDrive全輪駆動システムとおなじみの8速オートマチックとの組み合わせが用意されている。最大トルクは650Nmだ。
そして言うまでもなく、「M3」にふさわしい性能を備えている。「M3ツーリング」の0-100加速は、フル加速で3.6秒。静止状態から200km/hまでのスプリントは12.9秒で完了する。最高速度は電子制御により250km/hに制限されてはいるが、「Mドライバーズパッケージ」をチョイスした場合、最高速度は280km/hまでアップし、電子制御されている。
【テクニカルデータ】
• 出力: 510PS
• 最大トルク: 650Nm
• 駆動方式: 全輪駆動
• トランスミッション: 8速オートマチック
• 0-100km/h加速: 3.6秒
• 0-200km/h加速: 12.9秒
• 最高速度: 250km/h(Mドライバーズパッケージは280km/h)
• 平均燃費: 9.6km/ℓ
結論:
ノーマル「M3」との技術的な違いはわずかなのだろうか?いやそんなことは関係ない!「M3ツーリング」は、多くのMファンが何十年も願ってきた心の問題である。M社は、あえて自らのタブーを破っているのがいいところだ。今、足りないのはマニュアルミッションの「M3ツーリング」だけだ!
【ABJのコメント】
BMWの「M3」といえば、やっぱり2ドアクーペモデル、でしょう。なにせモータースポーツ部門が手塩にかけた辛口BMWスポーツモデルなのだから、そりゃあなた、ファミリーカーじゃないことは明白でしょう・・・、という価値観はもはや古い、かびたチーズのような感覚なのかもしれない。いつの間にか「BMW M3」には4ドアボディが追加されており(これは個人的には許容範囲。アルピナとの好対照の存在として賛成できる)、その次にはフルオープンモデルも存在し、いよいよワゴンボディも追加される運びとなった。
このフルオープンモデルが追加されたあたりで、「もうMといえども、走りに直球勝負の、辛口スポーツモデル路線はやめたのね」と判断し、まあラグジュアリー感もあるスポーツモデルということは「ポルシェ ターボ」のミニカブリオレみたいなものか、と自分を納得させたものだった。そして今回のワゴンボディ追加は、ファミリーあるいはレジャー向けのMとして荷物もがっつり積めて、キャンプ地へまっしぐらな超高性能ワゴンとして「アリ」なのかなぁ、とちょっとだけ思うけれど、やはりMは2ドアクーペか百歩譲って4ドアセダンまででしょう、と最初の感想にやっぱり戻ってしまう。
これまた、いつの間にかフルタイム4輪駆動になっている「M3」の、オールマイティー高性能ワゴンにいちゃもんをつけて悪いが、高価なタイヤをすり減らしながら、荷室のキャンプ道具満載で自然の中に向かう「M3」・・・。そんな光景にどこか違和感を覚えてしまうのは、DTMで大活躍している姿の残像が頭のどこかに残っている古い人間だからである。それにしても、こんな高性能全輪駆動ワゴン、どこかで見たことがある、と考えてみたら、その当時に全盛期だった「スバル レガシィGT」を思い出した。当時、日本では圧倒的に人気者だったものである。(KO)
Text: Peter R. Fischer
加筆: 大林晃平
Photo: BMW AG