シリーズ最大のイベントであるル・マン24時間レースを終え、WEC世界耐久選手権は今週末の第4戦モンツァから、後半戦へと突入している。7月8日金曜、モンツァでの走行初日には、午前中にトラックウォーク(コース下見)、そして15時30分からは90分間のフリープラクティス1のセッションが、暑さのなか行われた。
既報のとおり、新型コロナウイルスの検査における陽性反応を受け、ポルシェGTチーム91号車ポルシェ911 RSR-19のリヒャルト・リエツは、モンツァ戦を欠場している。これはリエツにとって、2014年のサーキット・オブ・ジ・アメリカズ戦以来初めてのWEC戦欠場となり、55戦連続出場という記録にも終止符が打たれたことになる。
リエツの代役としてはフレデリック・マコウィッキが抜擢されているが、91号車のレギュラードライバーを務めるジャンマリア・ブルーニにとっては、2018/19シーズン開幕戦で初めてコンビを組んで以来、リエツをコ・ドライバーに据えない最初のレースとなる。
■新しいルックス、どうでしょう?
ル・マン24時間レースのLMP2クラスを制したJOTAは、オレカ07・ギブソンのフロントに貼られている『8/8』ステッカーをアップデートした。『8/8』は8年間で8回の表彰台獲得を意味していたが、新しいステッカーはJOTAが今回1位と3位を獲得したことから、『10/9』と表記されている。
また、今回はスカイブルーのカラーリングで登場した708号車グリッケンハウス007 LMHだが、今後のレースでも「おそらく」維持されるとオーナーのジム・グリッケンハウスは語っている。ただし、既報のとおり第5戦富士6時間レースについては、欠場することを明らかにしている。日本のファンにとっては非常に残念だ。
グリッケンハウスは、グッドウッド・フェスティバル・スピードでポルシェ963の赤・白・黒の組み合わせを見たことがきっかけで、以前の赤と白のカラーリングを手放した、と語っていた。
■プジョー、走行初日3位に「悪くない」
プジョーでWECテクニカルディレクターを務めるオリビエ・ジャンソニーは、93号車プジョー9X8がFP1で3位となる一方、姉妹車94号車の走行が制限される問題が発生したチームの公式セッション初日の走行を「悪くない」と評した。
ジャンソニーは94号車が長時間をガレージで過ごしたことについての詳細は明かさなかったが、パワートレーンに関連するトラブルだったという。
なお、ジャン・エリック・ベルニュのプジョー93号車は、FP1のチェッカー後にアスカリシケインを過ぎて停止したが、これは今季のトヨタGR010ハイブリッドにも要求された、標準的な救出手順を実行するためのものだった。
ベルニュはル・マン以外のWEC戦に出場するのは2019年のバーレーン戦以来となる。「長い間、見ていない顔がたくさんある」と彼は語っている
「復帰できるのはいいことだし、プジョーと一緒にハイパーカーで戻ってくるのは最高の気分だ」
■“存在しないウイング”が登場
プジョーのマーケティングチームは、ウェルカム・アクティビティの一環として、リヤウイング型のチョコレートをパドックで配った。
ポルシェはSNS上で「これはリヤウイングを持たない9X8のガーニーフラップと、ほとんど同じ大きさじゃないか」と、プジョーのジョークに対しレスポンスしている。
ウイングレスというコンセプトを持つプジョー9X8は、パドックで多くの関心を集めている。ライバルであるグリッケンハウス・レーシングのオーナー、ジム・グリッケンハウスは「ル・マンの精神であり、ハイパーカーの精神だ」と表現している。
「ハイパーカーに対して、このような面白いアプローチをするのは、本当に素晴らしいことだと思う。ウイングがないのに走らせられるのか、私には見当もつかないが、それができるということを、是非目にしてみたい」
また、アルピーヌ・エルフ・チームのボスであるフィリップ・シノーも、プジョーの走りを見て「本当に熱狂している」と語っている。「耐久レースの新たな時代がスタートしたんだ。これは、土台となるものだよ」。
■ブルツとトヨタドライバーたちの“盛り上がり”
トヨタのアドバイザーを務めるアレックス・ブルツは、トヨタのドライバーとチャットグループを作り、他のLMHやLMDhのライバルからの発表に目を光らせていることを明らかにした。
「BMWやプジョー、ポルシェの写真をインターネットで見つけると、みんなで共有して分析するんだ」とブルツ。
「(そんなことができて)とてもクールだよね。僕はこのスポーツが大好きで、プロトタイプが大好きなんだ」
■フェラーリ、モンツァ戦初日にもLMHのテストを継続
先頃、2023年デビュー予定の新型ル・マン・ハイパーカー(LMH)をシェイクダウンしたフェラーリだが、このWECモンツァの初日には、アンドレア・ベルトリーニとダビデ・リゴンが、フィオラノのテストコースでLMH車両をテストしている。
フェラーリのスポーツカー・レーシング・ディレクターであるアントネッロ・コレッタは、外部のサーキットでの最初のテストは、15日後くらいであると語っている。
フェラーリは2023年、2台のファクトリーカーでハイパーカーカテゴリーに参戦する際、外部のドライバーと契約することに反対しているようだ。コレッタは、開発プロセスの中心メンバーともなっている、フェラーリのGTドライバーたちから選出することを望んでいる。
「フェラーリに必要なのは、ビッグネームではなく、ビッグドライバーだと思う」とコレッタ。「“ファミリー”の中にとどまることを、私は好む」。
また、同じくイタリアのマニュファクチャラーであるランボルギーニのモータースポーツ責任者、ジョルジオ・サンナは、金曜日のパドックで目撃されている。サンナは昨年のモンツァ6時間レースも訪問しているが、今回の訪問は2024年のLMDhプログラムを発表した後のものとして、注目されている。
■「走っていて楽しいサーキット」とコルベットのミルナー
モンツァに参戦するコルベット・レーシングの64号車シボレー・コルベットC8.Rは、第1戦セブリング1000マイルと、第2戦スパ6時間を走ったものと同じ個体だ。
第3戦ル・マン24時間でLMP2車両との接触により悲劇的なクラッシュを喫したマシンは、当初の予定どおり、デトロイトの拠点に戻されている。
その64号車をドライブするトミー・ミルナーは、モンツァでの最初の練習走行において、チームにとって建設的な結果が得られた、と述べている。「ここで良いラップタイムを出すには、クルマのバランスに少し自由度が必要みたいだね。このサーキットは走っていてとても楽しい」とミルナーは語った。
■アルピーヌLMDh加入を視野に入れた参戦
モンツァより、セバスチャン・オジエに代わってLMP2のリシャール・ミル・レーシングチームから出場するポール・ループ・シャタンは、ハイパーカーカテゴリーへの参戦という「個人的な目標」を抱いている。
現在、同チームとアルピーヌLMP1をオペレートするシグナテックと連携することは、「将来的に役立つだろう」と述べている。アルピーヌは2024年から、LMDh車両によるWEC参戦を計画している。
だが、シャタンは現在のところは「僕のメインかつ唯一の目標は、リシャール・ミルのためにレースをして、彼らができるだけ速く、安定性を持つよう助けることだ」としている。
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WEC第4戦モンツァ、走行2日目となる7月9日土曜日には、2回のフリー走行に続いて予選が行われる予定となっている。