ポルシェとフェラーリのLMGTEプロチームのドライバーたちは、7月10日に決勝レースが行われるWEC世界耐久選手権第4戦モンツァ6時間で、両メーカーが激しいバトルを繰り広げた昨年と同じように、見る者を興奮させる戦いを再現したいと語っている。
昨年のWECモンツァではケビン・エストーレ/ニール・ジャニ組92号車ポルシェ911 RSR-19(ポルシェGTチーム)が、ジェームス・カラド/アレッサンドロ・ピエール・グイディ組51号車フェラーリ488 GTEエボ(AFコルセ)を逆転するかたちで勝利を収めた。2台のマシンはレース中に長い間接近戦を繰り広げたが、AFコルセの戦略が裏目に出てフェラーリがレース終盤に燃料補給を要したため、ポルシェに逆転優勝を許している。
あれから1年、両陣営の関係者はLMGTEプロクラスのラストシーズンに、同じような熱戦が展開されることを望んでいる。
ピエール・グイディはSportscar365に対し、「昨年と同じようなレースができればといいと思っている。だけど、結果は違うものになるかもしれない」と語った。
「今回は戦えると思っている。確かに、この高い気温は僕らにとっては助けにならない。フェラーリにとっては涼しい方がいいんだ」
「それでも、ホームレースなので良いコンディションでポルシェやコルベットと戦えるように全力を尽くすよ」
ピエール・グイディの思いは、昨年51号車が終盤にピットストップをする前にイタリア人から激しいプレッシャーを受けたエストーレも同じだ。
「去年はとてもタフな良いレースだったと思う」とポルシェのドライバー。
「フェラーリはたしかに最後にシュートを打ってきた。ペースの面では僕たちよりも彼らの方が良かった。しかし僕らはAFコルセよりもいい戦略を持っていたんだ」
「だから、あれだけ(32秒も)の差で勝つことができた。そうでなければ、ギャップはごくわずかか、彼らに抜かれていたはずだ」
「僕たちは昨年の成功を繰り返すために努力を続ける。ストレートスピードとコーナーでの速さの最高の妥協点を見つけようとしているんだ」
■2022年シーズンに加わったコルベットの存在
2022年限りで廃止されるLMGTEプロは、今季から1台のシボレー・コルベットC8.Rを走らせるコルベット・レーシングが加わり3メーカー計5台での戦いとなり、そのランクを押し上げている。
アメリカのチームは、これまでイタリアの地でWECのレースを戦ったことはないが、両ドライバーとポルシェのWECファクトリー・モータースポーツ・ディレクターのアレクサンダー・シュテーリッヒはコルベットが強さを発揮すると予想している。
「彼らは強いだろう」とSportscar365に語ったシュテーリッヒ。
「このコースは加速がすべてであるため、コルベットに合っている。彼らは強いだろうが、私はそれを楽しみにしている。不満はないよ」
「我々は人々を楽しませるためにここにいるのだ。私たち全員の間で非常にタイトな戦いになると思う」
■オートマチックBoPから外れた“ブラックボール”チェンジがふたたび
なお、シュテーリッヒは、水曜日に発表されたBoP(バランス・オブ・パフォーマンス/性能調整)によってAFコルセのマシンがパワーアップしたことに、ポルシェが驚いたことを明かした。
彼によると、この変更はAIを用いて自動化されているBoPプロセスの範囲外で行われており、昨シーズンの最後から2番目のラウンドとなった第5戦バーレーンで行われた調整、通称“ブラックボール”と呼ばれるものであるという。
「GTEカテゴリーで確立されている純粋なオートBoPプロセスによれば、変更はないはずだからだ」とシュテーリッヒは言う。
「なぜなら、オートBoPは、BoPの変更やシーズンが始まるたびにBoPアルゴリズムは(手動で調整を行うル・マンを除く)2レース分待機し、この2レースで見たパフォーマンスによって反応するためだ」
「そして、その過程ではレースが適格であることが必要になる。開幕戦セブリングは雨が降ったが、その割合は低かった。80%か90%のドライレースだったと思う」
「一方、第2戦スパはまったく違っていて、雨が降ったり、ドライになったり、路面が湿った状態になったりして対象外だった。だから、本来であれば次の富士でオートBoPが発生するはずだった」
「いま起こっているのは、いわゆる“ブラックボール”のBoPの変更だ。つまり、ACOフランス西部自動車クラブとFIA国際自動車連盟は、差が大きすぎる、あるいは何らかの理由で各マシンのパフォーマンスを調整する必要があると判断したわけだ」
「その結果、フェラーリにはより多くのターボブーストが与えられ、我々にはより多くの燃料搭載量がもたらされることになった。したがって、オートBoPのプロセスはリセットされ、最初のオートBoPの変更は最終戦のバーレーンになることを意味する」
■フェラーリのブースト緩和は12~14馬力のパワーアップに相当
フェラーリのスポーツカーレース活動をまとめるアントネッロ・コレッタは、“ブラックボール“の変更がフェラーリに「戦うチャンスを与える」と語った。
コレッタは、2台のファクトリーカーへの変更は12~14馬力のパワーアップに相当すると指摘した。
「2022年の第1戦、第2戦、第3戦は、我々にとって非常に複雑なレースだったと思う」と彼は述べた。
「私たちはスパで勝った。しかし、それは雨が降ったからだ。ル・マンでは幸運にも2位と3位を獲得できたが、クルマの競争力は非常に低かった」
「今回のモンツァはBoPが変わったので、他のライバルと戦うチャンスがあることを期待している」
「”まず、戦うチャンスを得ることが重要だからだ。観客やファンにとってもいいことだ。セブリングやル・マンのように、ライバルがひとりもいないレースは、人々にとって面白いレースではないと思う」