自動車のテクノロジーは進歩し、いまや「運転することを楽しめるFF」も選べる時代。
しかし世の自動車好きたちは市場にFRが登場すると色めき立ち、乗ってみては「これが自動車の本質だ」などと語ってみたりする。
今さら? 今だから? (先日発表されたクラウンが、歴代で貫かれてきたFRからE-Four/E-Four Advancedへと刷新されたこともまた、「FRの時代」の一つの転換期と呼べるのかもしれない)令和のこの時代に、FRにこだわることの意味はなんなのだろうか? 自動車評論家4氏に考察していただいた。
※本稿は2022年5月のものに適宜修正を加えています
文/松田秀士、鈴木直也、国沢光宏、斎藤 聡、写真/ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2022年6月26日号
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■松田秀士氏の見解
FFがデフォルトになりつつある現在。BEVは巨大なバッテリーを搭載するためのスペースが床下に必要で、プロペラシャフトが必要なFRは無駄でしかない。
なのにFRにこだわる意味とは、まずFRじゃなきゃドリフトはできない。見るほうも操るほうも、クルマが横向きで曲がっていく絵には特別な興奮を覚える。
操舵輪と駆動輪が別々なので、それぞれのタイヤの持つグリップレベルを最大限に使いきれる。
例えばGR86/BRZならコーナー進入時にエンジンブレーキをしっかり効かせることで、リアタイヤの横方向のグリップを減少させることができるので、前後のグリップバランスを前輪に持っていくことができ、少ない操舵で効率的にコーナーリングできるのだ。
■鈴木直也氏の見解
「今時FRにこだわるのはクルマ好きだけ」と思ってる人、それ大間違いです。FRにこだわっているのは、むしろクルマメーカーのほう。なぜなら、はるかに儲かるからだ。
自動車産業は巨額の投資をして大量生産しないと採算が取れない。大量に売れるのは利幅の少ないコンパクトカーで、儲けは1台10万円くらいという薄利多売の商売だ。
一方、今や少数派となったFRは基本的にスポーツカーやプレミアムカーが主流。もちろん、FFベースでも高級車は作れるけど、なぜかお金持ちは保守的でFRを好むんだからしかたない。
こっちのマージンは平均的に1台50万円以上あると言われていて、自動車メーカーは切実にこっちを売りたいわけ。マツダを見れば、この理屈わかるでしょ?
■国沢光宏氏の見解
新型フェアレディZを買おうか迷っている。試乗して楽しかったらその場でオーダーしようと思ってます。
なんでフェアレディZかといえば、おそらく純エンジンで走る最後のFR車になるだろうからだ。人の研究者によれば「楽しい」と感じる挙動のなかに「滑りをコントロールする」というものがあるという。
サーフィンやスキー、スノーボードなどすべてテール流してコントロールしている。FR車を滑らせて走っている時の感覚とヒジョウに近い。
完全に滑らなくても「滑りそうな感覚」だって楽しさを感じるそうな。興味深いことに「楽しさ」を演出しようとすると、電気自動車も後輪駆動が好ましいという。遠からず全域で同じトルク出しレスポンスいい電気自動車で楽しい後輪駆動車が出てくるかも。
■斎藤 聡氏の見解
FR車は前輪が舵、後輪が駆動と、役割分担することでよりタイヤのグリップ性能を引き出せます。加えて、駆動輪を滑らせることで舵の役割も。
派手なドリフトだけでなく、アクセルの踏み加減で微細な滑りを生じさせ、旋回を補助、ドライバーが意図的に操作できるところに“運転の楽しさの奥深さ”があるわけです。
昔、そうした走りを楽しむためには繊細で難しいアクセル操作やハンドル操作が必須でしたが、最新のクルマは電子デバイスにより、突然リアタイヤがスライドしてスピンしたり、プッシュアンダーが出てカーブを曲がれないといったFR車ならではの運転のデリケートさが(ほぼ)皆無。
安全装備が進化した今こそFR車のスポーツドライビングを安全に楽しむことができるようになっています。
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