6月17日、全日本スーパーフォーミュラ選手権第5戦を前にしたスポーツランドSUGOでは、トヨタGAZOO Racingからル・マン24時間レースに参戦して優勝した平川亮、2位に入った小林可夢偉が記者会見を行い、ル・マンでの戦いぶりを報告した。だが、“ル・マン帰り”のドライバーはこのふたりだけではない。B-Max Racing Teamからスーパーフォーミュラに参戦している松下信治も、先週末に開催された世界3大レースを訪れていた。
J SPORTSの中継内で、突然現地からの電話インタビューに応じて周囲を驚かせた松下は「いきなりJ SPORTSの方から連絡が来て、『電話インタビューいいですか?』『あ、いいですよ』そんな感じでした」とその裏側を明かした。
フランスに入る前はイタリアで友人との再会などを楽しんでいたという松下だが、そもそも今回の渡欧の最大の目的が、自身初となるル・マン24時間レースへの訪問だった。
松下といえば2018年、F1ベルギーGPを単身訪れ、欧州の関係者と直接交渉する機会を持つことにより、翌年のカーリンからのFIA F2復帰へと繋げた過去がある。今回のル・マン訪問も、松下がかねてから抱く「世界のトップレベルでレースをしたい」という希望に、近づくためのものだったという。
「あのときと同じで、“世界への営業”をした、ということです」と松下は説明する。
初体験のル・マンではF2のカーリン時代にチームメイトだったルイ・デレトラズをはじめ、かつてヨーロッパで戦った多くのドライバー、関係者らと再会。もちろん、可夢偉、平川が24時間を戦う様も、間近で目撃した。
「始まる前までは普通のレースなんですけど、始まってからがヤバいですね。もう、めちゃくちゃ過酷で、ドライバーたちがすごく疲弊しているのが分かるんです。みんな顔もゲッソリしていましたし、平川選手もへろへろに疲れていました。(1スティント)3時間走り続けるし、寝れないしで、体力勝負の世界ですよね」
「パドックの雰囲気は、F1と比べれば“おしゃれ感”はなかったですが、ファンは多かったです。夜は(会場内で)コンサートとかもいっぱいやっていますし、それ目当ての人も多かった。本当、お祭りなんだなと思いました」
そんなル・マン体験を経て、松下は“世界の舞台”への想いをより強くしたようだ。
「とにかく、ああいうレベルの高い世界のレースに出たい。だから昨年もパリのフォーミュラEに行きました。やっぱり、その場に行かないとダメだと思います。僕は(チャンスを)待つよりも、自分でいろいろと見てみないと、何がいいのか分からないタイプ。そういう意味で、時間もあったし、今回ル・マンへ行ったんです」
「いまトヨタが戦っているハイパーカークラスがどんなものなのか、というのも、やっぱり見てみないと分からなかった。来年はもっとたくさんのクルマ(マニュファクチャラー)が出てくるわけですよね。『そこでレースしたら面白いな』と感じたので、それを知ることができて良かったです」
「今回、可夢偉さんとも話せたんですけど、可夢偉さんは先週ル・マンに出て、今週スーパーフォーミュラで、来週はアメリカ(IMSA)のレースに出るわけじゃないですか。僕も、そんな風に多くのレースに出られるようになりたい。いろいろなところから声がかかり、プロとしてドライブする。それは素晴らしいことだと思うんです」
「平川選手も今回ル・マンで勝って、名前が一気に売れたと思いますし、そのためにはまずその舞台に立つことが大事。彼の勝利を目の前で見て、『やっぱこうだよな』と再確認しました。僕としては、やっぱりヨーロッパでレースをしたいな、と」
自らも再び世界の舞台へ。そのためにも「ここ(SF)で結果を出さないといけません」と、今季第3戦で国内トップフォーミュラでの初優勝を遂げた松下は表情を引き締める。
「やっぱり結果を残すことが大事なので、今年のシーズン後半が重要ですし、もうこの先は落とせない。チャンピオンシップもまだギリギリ可能性は残っています。とにかく予選が弱いのですが、そこを打破すれば絶対レースでは負けないので、なんとか……という想いです」
まず今週末、「個人的には好きなコース」というSUGOから、“再び世界を目指す”松下の戦いがリスタートを切る。
来季以降はル・マン・ハイパーカー、そしてLMDhを含め、多くの新たなマニュファクチャラーがWEC、そしてIMSAへと参戦を開始する。ホンダが北米で展開するアキュラも、IMSA・GTPクラスに新型LMDh車両での参戦を予定している。現在、日本で活躍するドライバーにとっても、今後はスポーツカーレースのトップカテゴリーで戦う可能性が広がっていくと考えられる状況だ。