トロントで3年ぶりの開催となったNTTインディカー・シリーズ第10戦。17日に行われた決勝レースは、スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ)が今季初勝利を飾った。
佐藤琢磨(デイル・コイン・レーシング・ウィズ・リック・ウェア・レーシング)は、1周目でクラッシュしリタイアに終わった。
予選ではコルトン・ハータ(アンドレッティ・オートスポート・ウィズ・カーブ・アガジェニアン)が今シーズン初めてとなる複数回ポールポジション獲得を果たしたが、レースの勝利は予選で2番手に甘んじたスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)のものとなった。
プラクティス2でマシンの仕上がりの良さを見せつけるファストラップを連続してマークしていたディクソンは今シーズン初、昨年5月のテキサス戦以来となる勝利を3年ぶりのレースに集まったカナダの大勢のファンの前で挙げたのだった。
トロントでの4勝目は自身の持つ連勝勝利記録を18シーズンへと伸ばした。そして何より、今日の勝利によってディクソンはインディカー歴代2位の優勝回数でマリオ・アンドレッティに並んだ。
ゴールでのハータとの差は0.8106秒だったが、彼ならではの巧みなレース運びによってハータ以下に1~2秒の差をつけ、アタックのチャンスを与えないままゴールまで逃げ切る完璧な勝利であった。そこにはディクソンらしいスマートさとスピードを見ることができた。
勝利のポイントは最初のピットタイミングだった。彼は17周を終えるところでハータの後ろの2番手からピットロードに滑り込んだ。ハータは次のラップにピットしたが、すぐ目の前のピットボックスを使うスコット・マクラフラン(チーム・ペンスキー)が同ラップに少し遅れてピットインしてきたため、彼のマシンとタイヤ交換をするクルーを避けてピットアウトせねばならず、このタイムロスがかなり大きく響いた。
コースに戻った瞬間はディクソンの間に出ていたハータだったが、1周走ってタイヤが温まっていたディクソンはコールド・タイヤのハータをターン1で楽々とパスし、そこからはリードを広げにかかった。
ハータはトップ奪還を目指したが、ディクソンはパスを許さず、しばらくしてハータが燃費を気にして攻撃の手を緩めると、差を広げにかかり、それに成功した。燃費をセーブしながらも1ラップにプッシュ・トゥ・パスを数秒だけ使ってハータ以下を突き放したのはディクソンならではの老獪な戦いぶりだった。
優勝回数のインディカーレコードはAJ.フォイトの67勝で、レース後のディクソンは、「AJの記録は安全だろうね」と笑っていたが、彼は今日、フォイトより2シーズン多い20シーズンでの勝利を記録し、連続優勝は2015年にボビー・アンサー、エマーソン・フィッティパルディ、エリオ・カストロネベスの持つ11回を超え、後に歴代2位となったウィル・パワー(16年)に2シーズンの差をつける18年へと自身の記録を伸ばした。ディクソンは伝説のドライバー、フォイトの持つタイトル獲得回数7回に並ぶ可能性も今日の勝利で掴んだと言えるだろう。
「勝利なしの記録を断ち切った。それはチームにとって嬉しいことだ。PNCバンクの9号車がウイナーズサークルに戻せたことでとても気分がいい。これでチャンピオン争いに加われそうだ」
「今日の勝利を勢いに繋げたい。チャンピオンになるだけの力が私をい支えてくれているクルーたちにはある」とディクソンは喜んでいた。彼のポイントランキングは5番手タイに浮上したのだ。ポイントトップのチームメイトとの差は44ポイントしかない。
ハータは勝てなかったことより、パスされて3位に下がらなかったことをレース後に喜んでいた。それだけ今日のディクソンは速かったということだ。特にブラックタイヤでの安定した速さが光っていた。
3位はハータ攻略にあと一歩及ばなかったフェリックス・ローゼンクヴィスト(アロウ・マクラーレンSP)。それでもこれは今シーズン初の表彰台。彼とアレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)の終盤戦のバトルは少々荒っぽいものとなり、ロッシが今回はクラッシュの憂き目に遭った。
4位は14番手スタートだったグラハム・レイホール(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)。ブラックタイヤでのスタートに展開が大きく味方した。
ポイントリーダーのマーカス・エリクソン(チップ・ガナッシ・レーシング))は今回もしぶとく走り切って5位フィニッシュ。ポイントリードを保っただけでなく、2番手以下との差を広げた。ウィル・パワー(チーム・ペンスキー)が15位に沈んだからだ。
佐藤琢磨(デイル・コイン・レーシング・ウィズRWR)は19番手スタート。ダッシュは良かったが、ターン1でシモン・パジェノー(メイヤー・シャンク・レーシング)と接触。アウト側を走っていたためにコンクリートウォールに激突させられ、リタイアを喫した。
「トロントのレースはあっという間に終わってしまいました。朝のウォームアップに向けてマシーンを作り上げてくれたNo.51のメカニックには本当に感謝しています。僕たちはとてもコンペティティブでした」
「タイムシートには表れませんでしたが、ブラックタイヤを履いたときのタイムはトップ10圏内にあり、マシンの仕上がりに自信を深めていました。レースに向けては楽観的な期待を抱いていました」
「実際、スタートはうまくいき、1コーナーまでに数台をパス。サイド・バイ・サイドでターン1に進入したのですが、ここではリスクを最小限に留めるためにポジションを譲りました。ところが、2コーナーに進入する際、シャンク・チームの1台が並んできます」
「彼がそのまま僕に突っ込んできたため、僕はウォールまで飛ばされました。おそらく彼はコントロールを失っていたのだと思います。本当にがっかりです。まったく無用な行為でした。2コーナーを過ぎたところでリタイア。マシンがとても速く、コンペティティブだったたけに残念です」
「トロントに戻ってこられたのは本当に喜ばしく、たくさんのファンが訪れてくれたことを嬉しく思っています。このスピードをアイオワでも保ち、注意深く戦いたいと思います」と琢磨はコメントした。