もっと詳しく

 2022年のWEC世界耐久選手権第3戦ル・マン24時間レースで、悲願のクラス優勝を達成したフレデリック・マコウィッキ。LMGTEプロクラスにポルシェGTチーム91号車ポルシェ911 RSR-19をドライブして参戦し、レギュラードライバーのジャンマリア・ブルーニ、リヒャルト・リエツとともに、激戦のクラスを制した。

 ポルシェはクラス消滅に伴い今季限りでLMGTEプロでの活動を終了、2023年からはWECおよびIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権でのLMDhプログラムに、ワークス活動が移行する。マコウィッキもLMDh車両『ポルシェ963』の開発テストドライバーを務めるなど、多忙なスケジュールをこなしている。

 LMGTEプロでの最後のワークス参戦となったル・マン24時間レースのパドックで、LMDhや彼自身の今後について聞いた。なお、取材は決勝レース前に行ったものである点、ご了承いただきたい。

■ヨーロッパは「レベルダウンしている」?

──WECやル・マンのGTEプロクラスを中心に、長年あなたはポルシェのワークスドライバーの一員として活動してきました。並行して、来年から正式始動するLMDhマシンの開発テストドライバーとしての活動もしています。あなたの来年の活動予定は決まっているのですか?

フレデリック・マコウィッキ(FM):現在はLMGTEやGT3マシンでのレース参戦、LMDhの開発テストドライバーをしているが、来年以降は何をするのか、現時点ではまったく分からない。来年のワークスドライバーとしての契約はまだポルシェにあるので、ポルシェにいることは間違いないが、どのカテゴリーへ派遣されるのかは分からない。だけど、ポルシェには強い忠誠心があり、与えられたどんな仕事にも全力で挑むという気持ちは変わらないよ。

──いつかポルシェの契約が終了したら、また日本で活動したいという考えはありますか?
FM:
僕のレーシングキャリアの中で、日本は最も素晴らしい思い出が詰まっている。スケジュールの都合で全レースという訳ではないが、いまもスーパーGTをフォローしているし、ずっと今も興味を持ち続けている。

 ヨーロッパのレースで使用されるマシンは事細かに決められているレギュレーションにより、開発に関してかなり大きな制限がある。どのメーカーもその中で最大限のポテンシャルを発揮できるように工夫や努力をしているが、必ずしもトップレベルをキープしているとは思えない。むしろレベルダウンしていると言ってもよいだろう。ドライバーがポテンシャルを全面的に発揮するという意味では、難しくなっているのが現状だ。

 しかし、日本ではそれらを補うために、タイヤメーカーを自由にし、サクセスバラストの調整などさまざまな部分でスーパーGTの主催者とメーカーが話し合いを重ね、打開策を協議している点は素晴らしいと思う。そのお陰でドライバーは最大限のファイトを見せられる。もちろん、いまのモータースポーツ界ではさまざまな規制内でレースをしなければならないことを充分に理解している。今後、LMDhでは多くのメーカーがそろうとあり、良い意味でのファイトを期待しているよ。

2022年6月24日、車名等の詳細が発表された新型LMDh車両“ポルシェ963”
2022年6月24日、車名等の詳細が発表された新型LMDh車両“ポルシェ963”

──あなたはヨーロッパのメディア関係者にインタビューを受けると、必ずと言っていいほどにスーパーGT・GT500クラスのタイヤに対して非常に高評価をするコメントをしていますね。例えばル・マン24時間レースでもスーパーGT並みにタイヤ開発が盛んになると、もっとコンペティティブで面白いレースを期待できるようになると予想しますか?

FM:ル・マン24時間で『タイヤ戦争』が可能になるのなら、そんな面白いことはないね。しかし、現実的にはかなり難しい。また、スーパーGTのレースの走行距離に焦点を合わせてタイヤメーカーはマックスのポテンシャルを出せるように開発しているので、日本のレースで使用されているようなタイヤのポテンシャルを24時間持続するのは現実的ではない。

 だけど6時間耐久レースあたりならば、ハイパーカー用のタイヤよりもずっとコンペティティブなのではないかと思う。たとえば、レベリオンのLMP1がWEC/ル・マン用のタイヤで富士を走った場合とGT500のラップタイムを比較すると、実はとんとんなんだ。

 それが表すように、スーパーGTのタイヤはグリップや性能に優れているし、よりレースをコンペティティブにする要素が詰まっている『ピュア・レーシング』だと思う。だが、僕らが欧州のシリーズを中心に活動をしているからには、可能な限りバランスを取りながら自分やマシンのポテンシャルを上げる努力しながら参戦することになる。

──最近ではランボルギーニがハイパーカークラスへLMDhマシンで参戦することを正式に発表し、大いに注目を浴びています。LMDhへと生まれ変わる、新時代のル・マンへ何を望みますか?

FM:以前はビックカテゴリーに欧州メーカーだけでなく、日本のメーカーやチームも多く参戦しておおいに賑わっていたし、それが普通のように感じていた。今年はようやくプジョーが増えて、やっとトヨタとグリッケンハウスとアルピーヌで4メーカーになったが、寂しい時代が続いていた。

 しかし、来年からはポルシェはもちろんのこと、数多くのメーカーが参戦を表明していて恐らく最終的に8から9ブランドがそろうんじゃないかな。こんな時代が再び現れるなんて、なんてファンタスティックな事だろう! 今後一番に望むことは、フェアでビッグファイトのあるコンペティティブなレースが行われることだね。

──新たに多くのブランドがLMDhへ参入した際には、数多くのトップドライバーが集うことが予想されますね。

FM:フェアな条件で戦えるのならば、多くのブランドが集う予定の今後のル・マンでトップドライバー達と最高のバトルを繰り広げられることを強く望むよ。

 そして、日本人ドライバーもどんどん世界に挑戦して欲しいと思う。特に僕のベストチームメイトのナオキ(山本尚貴)にはル・マンへ挑戦することを強く勧めるよ。彼の強い集中力とドライビングスタイルはル・マンにすごく合っていると思うし、彼の持つ素晴らしいパフォーマンスをここではさらに発揮できると思う。ナオキサン、ここル・マンで待ってるよ!

LMGTEプロを制した91号車ポルシェ911 RSR-19のジャンマリア・ブルーニ、フレデリック・マコウィッキ、リヒャルト・リエツ
2022年ル・マン24時間レースのLMGTEプロを制した91号車ポルシェ911 RSR-19のジャンマリア・ブルーニ、フレデリック・マコウィッキ、リヒャルト・リエツ
2018年鈴鹿10H、かつてともにGT500を戦った山本尚貴とフレデリック・マコウィッキが再会を果たした。