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「お客様は神様」なにそれ!? 誤用しすぎ! 元営業マンが考える自動車ディーラーの実態と改善策

 接客の質は世界一といわれる日本。特に、商品の売買が行われる現場では、時に異常と思えるほど、接遇が丁寧で親切だ。日本人は、普段からこの接遇を受けているため、少しでも親切さや丁寧さが欠けていると、クレームを言う人もいる。しかし、ひとたび海外へ出れば、日本の接遇は最高だったと身に沁みて感じることとなるのだ。

 自動車ディーラーではクルマを売る・直す・買い取るなどの仕事がある。どれも人と人とが交わり合うものだ。そのため高い接客スキルとサービス精神が、従業員に叩き込まれ、顧客からは厚遇が求められる現場である。

 少々行き過ぎのようにも感じる部分もあるディーラーのサービスに、筆者も時折、閉口してしまう。しかし、筆者自身もディーラーの営業マンだったから、同じような対応を担当オーナーに対して行っていたのだなと、深く考えを巡らせてしまうのだ。

 自動車ディーラーの接遇やサービスは、今度どうなっていくべきか。スタッフ・顧客、それぞれの目線から、改善ポイントなどを考えていきたい。

文/佐々木亘
アイキャッチ写真/takasu – stock.adobe.com
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誤用されている「お客様は神様」問題

 歌手の三波春夫さんが使っていたといわれる「お客様は神様です」という言葉。この言葉は、「サービスを提供する側よりも、受ける側(顧客・お客様)の方が優位な立場にある」という意味ではない。

 本来の意味は、ぜひ読者の皆さまに調べてほしいのだが、いつしか本当の意味は消えてしまい、「客は神だから、どんな無理難題をサービス提供側へ注文してもいい」という誤った意味で広がってしまった。

 客だから偉い、何をしても許される、お店は客に尽くし奉公するべきだ。こうした考えを常に持っている方がいれば、それは今すぐ改めていただきたい。自分も相手も同じ人間だ。どちらが偉い・偉くないという話はなく、対等な立場で契約を結ぶのが当たり前のことであろう。

 言葉の意味が拡大解釈され、カスタマーマインドが大きく変わった。サービスを提供する側は、こうした顧客の心理変化を敏感に感じ、攻撃されることを恐れ、渋々丁寧なサービスを行っているという側面もある。当たり前に行われている丁寧すぎる接遇は、顧客側の圧力から一部が生まれているということを、頭に入れておいてほしい。

媚びへつらう(こびへつらう)必要はない、最高のサービスを提供する側へ変われ

 サービスを受ける側の変化は必要だが、同時にサービスを提供する側にも変化してほしいものだ。相手に対して敬愛の念(へりくだる気持ち)を持ち仕事をするのは大切だが、媚びへつらう必要はない。良いモノ、良いサービスを提供したいという気持ちをもちながら、自分の仕事に自信を持つべきだ。営業マンやレセプションスタッフの仕事は、顧客のご機嫌取りではない。

 そこに過剰な接待は必要なく、モノを買いに来た人には、最高に適した商品を紹介(提案)すること、サービスを受けに来た人には、単純な回復(修理)だけではない最高のサービスを提供するのが、ディーラースタッフの使命である。

 そのために、高度な研修を受け、接遇を学び、専門知識や技術を身につけているはずだ。最高の商品・サービスを提供すれば、客は満足する。こうした満足を積み重ねることが、お店のファンを増やし、長くお店を利用してくれる顧客を作り出す。

 接遇だけが気持ちよくても、技術や内容が伴わなければ人は集まらない。表面的なサービスよりも、自分たちに課せられた使命が何なのかを見極め、本質で勝負する。これこそが、これからの強い自動車ディーラーを作っていくはずだ。  

 接遇の良さだけでは、いずれ飽きられる。その時に、顧客の足を引き留めておける技術や商品がそこにはあるか。自動車ディーラーとしての根幹部分を磨き、他店と比べて一目置かれる存在になってほしい。

売らない! みない! 気構えも重要

顧客だけでなく売り手にも相手を選ぶ権利がある。そのため売る側も、買い手が無理難題を押し付けてくる場合は、無理に売らない(Studio Romantic – stock.adobe.com)

 自動車のサービス提供には、金銭の授受があり、売り買いが発生する。そのため、買う側が強く売る側が弱い、買ってもらうためには下手に出て、買う側を乗せなければだめだという意見もあると思うが、筆者はそうは思わない。

 筆者も前述のとおり、新人時代は顧客よりも弱い立場で営業をしていた。当時教育係をしてくれた先輩から「売れなかった」ではなく「売らなかった」という言葉をよく聞いたのだ。

 話を聞けば、顧客の要求が過度すぎて、自分はこの先、付き合っていくことが難しいと感じたから「売らなかった」のだという。「俺は客だぞ」と強く出てくる人に対しては、売る側も拒否権を発動するべきだと、先輩営業マンは話してくれた。

 仮に1台その人に売っても、一般的なお客様の3倍以上接遇に時間がかかるなら意味はない。だったらその人へは売らず、別の人を3人見つけて気持ちよく売ればいいというのだ。

 この考え方で筆者の売り方も変わった。購入者側は、お店や営業マンの態度が気に入らなければ商品を買わない。であれば、売る側も、買い手が横暴で無理難題を押し付けてくるなら売らなければいい。すべてのお客様に、買ってもらわなければならない、売って差し上げなければならないというのは商売ではないと思う。顧客にも売り手にも、相手を選ぶ権利はあるのだ。

 自動車販売、自動車整備を他には真似できない「高度な技術」にまで磨き上げ、サービスの安売りは絶対にしないという姿勢が、今のディーラーには必要だと思う。

 クレームまがいの発言で、営業活動がストップしてしまうなら売らない。整備工場が立て込んでいるのを知りながら、無理に「みろ」とか、予約の時間を守らず過度な要求をしてくる人のクルマはみない。こうした判断が、店舗責任者から現場に降りてくるお店は、競争に負けないと思う。

 目の前にある不本意な1台よりも、今後生まれる可能性がある気持ちよく販売できる1台を選ぶ、その目と判断力が営業マンには必要だ。自動車ディーラーで働くすべての人が、自身の立場は弱いものではないと認識し、自信と誇りをもって顧客に対して接してほしい。

 そうすれば、世界一の接遇に、世界一の技術やスキルが加わる。日本のサービスや販売は、どこから見ても「世界一」である証明になるのではないだろうか。

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