6月17~18日にシェレフテオのドライブセンター・アリーナで争われたSTCCスカンジナビアン・ツーリングカー選手権第2戦は、一時はジャンプスタートの裁定で優勝を逃していたヒューゴ・ネルマン(ブリンク・モータースポーツ/アウディRS3 LMS 2)が、直後の処分取り消しからレース2も制覇する“いわくつき”の連勝を達成。最終ヒートは王者ロバート・ダールグレン(PWRレーシング/クプラ・レオン・コンペティションTCR)が65kgものバラストを搭載しながら勝利を飾っている。
2017年よりTCR規定を導入し、TCRスカンジナビア・シリーズとして開催されてきたSTCCは、2022年の開幕戦直後にシリーズの将来に関する重要なアナウンスを実施し、来季2023年より「世界初のフル電動ツーリングカーによる国内選手権」へと変貌することが決定。そのサブシリーズとして、現在のTCR規定チャンピオンシップも併存することが確認された。
その重要な発表後に迎えた第2戦は、開幕戦で採用された「予選スーパーポール形式の1発勝負と、シングルレースの決勝」という変則フォーマットとは異なり、昨年の週末同様に3ヒート形式を採用。同戦より戦績によるサクセスバラストとコンペンセイション・ウエイトが加算され、王者ダールグレンは40+25kgと最多重量を搭載することになり、戦前から「今週末は苦しみそうだし、ここではアウディが速いだろう」と弱気な見通しを口にしていた。
すると最初のテストセッションからラップレコード更新合戦で進んだ週末は、フリープラクティスで最速を分け合ったマティアス・アンダーソン(MA:GP/リンク&コー03 TCR)とアンドレアス・バックマン(レストラップ・レーシング/アウディRS3 LMS 2)が予選で一騎打ちとなり、Q1首位だったバックマンを0.317秒差で退けたアンダーソンがQ2最速タイムを記録し、大ベテランが2010年最終戦以来となるポールポジションを獲得してみせた。
一方、1330kgの車両総重量に苦しんだチャンピオンはQ1でコースオフを喫し、Q2ではトラックリミット違反で双方とも6番手に甘んじるなど、2020年以来続けてきた地元戦でのポール獲得記録を逃す結果に終わり「ドライでは勝負できる速さがなかった。明日の雨予報に賭ける」と意気消沈。
一方で16歳のルーキー、カジェ・バーグマン(エクシオン・レーシング/アウディRS3 LMS 2)が鮮烈な速さで3番手を獲得し、オリバー・セーデルシュトレーム(レストラップ・レーシング/アウディRS3 LMS 2)、トビアス・ブリンク(ブリンク・モータースポーツ/アウディRS3 LMS 2)と新世代アウディの続くトップ5となった。
明けた土曜は夜半から続いた雨で路面はフルウエット状態となり、さらに雨量が増すなかでレース1がスタート。Q1結果のグリッド順により、バックマン兄とネルマンのフロントロウでスタートが切られると、このライトが消える瞬間よりわずかに早く動き出したように見えたブリンク・モータースポーツのアウディが、レストラップ・レーシングのクルマを抑えて首位でターン1へと入っていく。
その後方ではミカエラ-アーリン・コチュリンスキーの後任としてダールグレンと組む21歳の新鋭アクセル・ベングトソン(PWRレーシング/クプラ・レオン・コンペティションTCR)や、16歳バーグマンらがウォータースクリーンによる視界不良で絡む多重クラッシュが発生し、ここで早くもセーフティカー(SC)が導入される。
残り5周のリスタートで流石の反応を見せたのが6番手にいたチャンピオンで、再開直後のロケットスタートで3番手へとジャンプアップ。直後の4周目にはバックマンのアウディも仕留め、首位ネルマンの背後2番手へと上がってくる。
ファイナルラップまで首位を守り、8周の“ライト・トゥ・フラッグ”を決めたかに見えたネルマンだったが、レース開始直後の時点で「ジャンプスタートによるレースタイム20秒加算ペナルティ」が宣告されており、優勝ダールグレン、2位バックマン、3位セーデルシュトレームの暫定リザルトに。
しかしレーススチュワードは直後にペナルティを撤回し、ネルマンは6位降格から一気に今季初優勝を奪回。続くレース2は豪雨によりSC先導発進となったものの、ポールシッターのアンダーソンと、一時首位浮上に成功したベングトソンをパスしたネルマンが連勝を飾り、バーグマンと絡んだダールグレンには5秒加算ペナルティが科される結果に。
豪雨に加え、霧が出てさらに視界が悪化したレース3は、意地を見せた王者が2台のアウディを5秒差で突き放しての独走勝利を達成し、2位ブリンク、3位セーデルシュトレームの表彰台となった。
これで連続3位表彰台を決めたセーデルシュトレームだったが、レストラップ・レーシングの若きエースはレース1の裁定撤回を公然と批判し、本来なら「僕が3戦連続で3位表彰台だった」とスチュワードの決定に異議を唱えた。
「ネルマンのペナルティ撤回についてはまったく同意できない。ジャンプスタートはジャンプスタートだ、僕はこれまでこんな裁定は見たことがないよ。でもそれは僕が判断できることではないからね」と憤慨するセーデルシュトレーム。「2回の表彰台を獲得できたことはうれしいが、本来なら3回の表彰台になるはずだったんだ」
一方、公式結果で2勝を手にし、ポイントリーダーのダールグレンに5点差と迫ったネルマンは、最初のレースこそ物議を醸す状況に置かれたものの、チームによる抗議が成功し勝利を取り戻した状況を説明した。
「僕がフロントロウから発進した最初のレースでは、レースディレクターからのスタート手順に誤りがあったんだ」と、地元新聞社の『Helsingborgs Dagblad』に対して明かしたネルマン。
「STCCはかなり複雑なスタート手順を採用しており、クルマを準備するためにいくつかのステップを踏まなければならない。それが突然変化し、時間が大幅に短縮された場合、多くのドライバーにとって困難な状況を招く。僕は確かにライトが消える前に少し動いたが、ライトが消えたときは静止していたんだ」と続けたネルマン。
事後の映像検証によると、トラックマーシャルがスタートライトの手順が始まる5秒前にボードを出すことができなかったため、チームはジャンプスタートのペナルティに「効力のある抗議」が可能になったという。
「僕らは抗議を提出し、彼らは何が起こったのかを調べた。彼らは僕がそれを利用していないことに気づいた。スタートにもレースにも影響はなかったんだ」
こうして物議を醸す状況で第2戦を終えたSTCCことTCRスカンジナビア・シリーズ。続く第3戦は7月22~23日に同国南部ヘルシンボリ近郊に位置するリング・クヌットストープで争われる。