局地的な降雨に見舞われたWRC世界ラリー選手権第7戦『ラリー・エストニア』の最終パワーステージ、SS24の途中まで最速だったのは、アンドレアス・ミケルセン駆るシュコダ・ファビア・ラリー2エボだった。天候と路面コンディションが味方したとはいえ、パワーで勝るラリー1ハイブリッド勢を上まわるタイムを刻んだのだ。
最終的にはトヨタGRヤリス・ラリー1のカッレ・ロバンペラとエルフィン・エバンスにタイムを更新され3番手タイムだったが、彼らふたり以外のラリー1勢よりは速かった。フォーミュラでいえば、F2がF1より速く走ったようなものである。
ファビア・ラリー2エボの最高出力は、214kW=約291PS。対するラリー1ハイブリッドのシステム総出力は、ハイブリッドブーストマックスの状態で500PS以上と、大きな差がある。
一方、選手込みの実質的な最低重量はラリー1ハイブリッドが1430kgであるのに対し、ラリー2は1390kgと、約40kg差。大雨でぬかるんだグラベルではタイヤがビッグパワーを伝え切れず、軽いラリー2のコントロール性の良さが活きたかたちだ。ラリー2はこれまでも、コンディションが悪い路面や、超低速のステージでは、度々WRカーやラリー1を上まわるタイムを刻んできた。
■群雄割拠のWRC2
ラリー2マシンの主戦場であるWRC2は、毎回非常にスリリングなバトルが展開され、優勝争いはある意味トップカテゴリー以上に激しく、面白い。ドライバーも、WRC総合優勝経験があるミケルセンを筆頭に、WRカーの経験も豊富なテーム・スニネン、東欧の名手カイエタン・カイエタノビッチ、フランスの巧者ヨアン・ロッセルなど、超実力派揃い。ラリー2マシンの性能を完全に出し切る彼らの走りは、非常にハイレベルで見応えがある。
マシンは、シュコダ・ファビア、シトロエンC3、フォード・フィエスタ、ヒョンデi20、フォルクスワーゲン・ポロGTIなどバリエーション豊かで、総合力ではファビアがややリードしている。
S2000、R5、ラリー2と、シュコダは常にこのカテゴリー最強のマシンをデリバリーしてきた。そしていよいよ、新開発マシンの『ファビアRSラリー2』が、早ければ第10戦アクロポリス・ラリー(ギリシャ)でWRCデビューするかもしれない。
■新型投入のシュコダに対し、Mスポーツ・フォードはアップグレードで対向
ファビアRSラリー2は、エンジンパフォーマンスの向上、サスペンションの設計見直し、特殊な形状のリヤウイング採用と、ボディも含め全面的に新設計されたシュコダの意欲作だ。ホモロゲーションの取得は8月1日に予定されており、本来ならばラリー・フィンランドでWRCデビューを果たす予定だった。
しかし、パーツの供給に問題が生じフィンランドには間に合わず。続くイープル・ラリー(ベルギー)はインターバルが短いため、9月のアクロポリス・ラリーがデビュー戦となる可能性が高い。状況次第ではさらに遅れるかもしれないが……。
開発ドライバーのひとりでもあるミケルセンは、すでにチェコのボヘミア・ラリーでニューマシンをコースカーとして走らせており、力強いエンジンパフォーマンスと、高速スタビリティの高さを実感したという。ラリー・エストニアで優勝し、WRC2ランキング首位をライバルと争う立場のミケルセンとしては、少しでも早くニューマシンの恩恵を受けたいところだろう。
一方、ライバルマシンもアップグレードで対向する。Mスポーツ・フォードは、ラリー・エストニアでフィエスタ・ラリー2の進化版を投入。ダウンフォースを向上させるため、リヤウイングは複雑なデザインとなり、ミラーはプーマラリー1ハイブリッドと似た形状のL字型タイプに。
また、リヤサスペンションはクロスメンバーを新設計、ジオメトリーも含めて改善された。ただし、エストニアでは期待されたほどの速さは見られなかったが。
華やかなトップカテゴリーの陰に隠れがちではあるが、WRC2は選手も、クルマも、優勝戦いも非常にハイレベル。次戦はWRC2の戦いにも注目してほしい。