7月22~24日の週末にWTCR世界ツーリングカー・カップ第6戦との併催イベントとして開催された電動ツーリングカー選手権、FIA ETCRことeツーリングカー・ワールドカップの第5戦は、同じくヨーロッパを覆う熱波による酷暑が影響し、タイヤのパンクやトレッド剥離が頻発。アルファロメオ・ジュリアETCRを走らせるロメオ・フェラーリ陣営は、ブルーノ・シュペングラー(アルファロメオ・ジュリアETCR)の大クラッシュを受け最終的にファイナルを棄権する事態となった。
そんななか、内燃機関搭載ツーリングカーよりハイパワーな後輪駆動マシンを宥め透かし、今季よりヒョンデ・モータースポーツNから参戦するミケル・アズコナ(ヒョンデ・ヴェロスターN ETCR)が、移籍後初の週末最多得点者“King of the Weekend(キング・オブ・ザ・ウイークエンド)”を獲得している。
WTCR同様にグッドイヤーがコントロールタイヤを供給するETCRだが、同時開催となったWTCRでもパンクやタイヤ破損事例の再発により「安全上の懸念事項」が拭えないとして、リンク&コー・シアンレーシングがレースからの撤退を決断するなど、まさに異常事態とも言える週末となった。
その状況はETCRでも防ぐことができず、500kWを解放するクオリファイからタイヤに関するトラブルが続発。組み分けされた『Pool Fast』のクォーターファイナルでは、アズコナとその僚友ノルベルト・ミケリス(ヒョンデ・ヴェロスターN ETCR)が勝利を挙げたものの、同組で競ったエイドリアン・タンベイ(クプラe-Racer)、ジョルディ・ジェネ(クプラe-Racer)、ルカ・フィリピ(アルファロメオ・ジュリアETCR)らが軒並みタイヤの問題で勝負権を失う展開となった。
「どうやらこれはただのパンクではなくトレッド剥離のようだ。この種のトラブルはあらゆる理由から発生するし、原因究明は簡単ではないが、縁石をmm単位で踏み間違えても起こる可能性はある」と語るのは、クォーターファイナルの最終ラップで急減速を強いられたアルファロメオのフィリピ。
「僕らにできるのは、原因を推測しセットアップで対応することだけさ。すでにキャンバーはかなり抑え目だし、これ以上行くとアウト側ショルダーの負荷が高まり過ぎる懸念もある。すべてのオプションを検討し、可能な限り最良の選択を行い、それが正しいことを祈るしかないね」
引き続き同様の問題が発生したセミファイナルを経て、迎えた『Pool Fast』のスーパーファイナルでは、ここまで順当に勝ち上がってきたポールシッターのアズコナに対し、背後のシュペングラーがマシンコンタクトを伴いながら勝負を繰り広げる立ち上がりに。
しかし2番手を走っていたアルファロメオ・ジュリアETCRは、3周目の高速ターン2でコースオフを喫し、不運なことにランオフエリアのグラベルでわずかに跳ねて空中を滑空。速度を殺し切れないままバリアに激しく衝突する事態となった。
■「脊椎骨折と診断された」とレース後に明かしたシュペングラー
同じく5周目には背後にいたミケリスもスローとなり、ファイナルラップでは再びフィリピの左リヤが悲鳴を上げ、実に出走6台中の半数がタイヤの問題でレースを放棄する事態に。独走でチェッカーを受けたアズコナのヒョンデに対し、タンベイ、ジェネのクプラEKS陣営は、マージンを残した走りに切り換えてフィニッシュラインへとマシンを運んだ。
こうした結果を受け「現時点でクラッシュの原因が正確に把握できない」ことや、現実的な車両修復が不可能との判断から、ロメオ・フェラーリは『Pool Furious』のスーパーファイナル出走を取り止めることを決断。同組のクォーターファイナル、セミファイナルを制していた前戦の“キング・オブ・ザ・ウイークエンド”マキシム・マルタン(アルファロメオ・ジュリアETCR)は、戦わずして勝利の権利を逸することとなった。
その週末最終ヒートもトラブルの連鎖から逃れることはできず、今季はシートシェアでエントリーするヒョンデ・モータースポーツNのニッキー・キャッツバーグ(ヒョンデ・ヴェロスターN ETCR)がファイナルラップまでレースを支配する。
しかしマティアス・エクストローム(クプラe-Racer)や、その僚友トム・ブロンクビスト(クプラe-Racer)を従えてコーナーが残り3つとなった時点で、首位を行くヒョンデの左リヤが限界を超え、そのリードが泡と消える結末に。この『Pool Furious』はエクストローム、ブロンクビストの1-2となったが、週末最多の100点を稼いだ『Pool Fast』勝者のアズコナが、今季初の“キング・オブ・ザ・ウイークエンド”を獲得した。
「今季、ヒョンデとともにこの結果を達成したいと思っていた。ここヴァレルンガは昨年も初めての“キング・オブ・ザ・ウイークエンド”を得た場所だし、非常に前向きな瞬間だ。僕らはチームとして良い改善を施し、クルマからすべてを最大限に活用した。チームに感謝したいと思うよ」と、同条件下であらゆるリスクを回避した勝者アズコナ。
一方、同じスーパーファイナルでの事故の後、サーキットの医療センターから地元の病院に搬送されていたシュペングラーは、レース後に声明を発表し「脊椎骨折と診断された」ことを明かしている。
「日曜日にヴァレルンガで事故が発生した後、ローマのパイデイア・クリニックの医療チームから脊椎骨折と診断されました。現在の焦点は、今季の残りの期間に向け、可能な限り早くクルマに戻るための迅速な回復に向けられています」と綴ったシュペングラー。
「ターン2でクルマのコントロールができなくなった原因と、その技術的な問題については現在まだ調査中です。医療チーム全体、FIA ETCR、そして私を助け、サポートしてくれたすべての人に感謝しています」