SBIホールディングスと三井住友フィナンシャルグループ(FG)など大手金融4社の共同出資による金融商品の私設取引所(PTS)「大阪デジタルエクスチェンジ」(ODX)が27日、取引を開始した。ODXの構想自体は昨年1月に発表。SBIが70%、三井住友FGが20%、野村ホールディングスと大和証券グループが10%ずつを出資しており、国内では3番目のPTSとなる。
日本でPTSが流行らなかった理由
株式などの有価証券は東証などの“公的取引所”で売買されることが一般的だが、投資家は公的取引所を通さずにPTS(Proprietary Trading System)と呼ばれる電子取引システムでも売買することができる。これがいわゆる私設取引所のことだ。
わが国の私設取引所における株式売買の割合は7~8%に留まっており、私設取引所の数も今回のODXが開設されるまで、SBIグループ傘下のジャパンネクストPTSと欧州でも私設取引所を運営する米ファンド系のチャイエックスPTSの2カ所にとどまった。日本におけるPTSの歴史は浅く、解禁されたのは1998年で一時は7社が参入したものの、結局は前出の2カ所のみだった。わが国でPTSが普及しなかったのはさまざまなデメリットがあったからだ。
1つは流動性が低いこと。取引量が少ないので、自分が買いたいとき、もしくは売りたいときに、売ってくれたり買い取ってくれたりする人が現れない恐れがある。タイミングよく売買ができないのだ。2つ目のデメリットは成り行き注文ができず、指値注文しか受け付けてもらえないこと。結局これも流動性が低いため、成り行き注文を出したときに売買相手が見つけにくく、自分が売買したいと思っていた価格で取引できない恐れがある。そのために起こり得る損失を避けるために、PTSでは指値注文しかできないのだ。もっともこうしたデメリットは今後、ODXの開設によりPTS市場が盛り上がれば解消されそうだ。
活性化のカギは新技術
では、PTSのメリットとは何か?ODXは東証のシステムを使わず、東証の営業時間外に稼働させるため、投資家にとって使い勝手が格段に高まりそうだ。現時点では実現していないが、東証の時間外である夜間取引だってそのうち可能になるだろう。そうなれば日中に株式投資ができなかった人たちも投資がしやすくなり、新しい資本主義政策で「貯蓄から投資へ」を掲げる岸田政権にとっても“利害一致”と言える。
さらに東証に一極集中するリスクも避けられる。20年10月1日、東証のシステム障害で株取引が丸1日停止するという前代未聞の出来事が起きたが、当時から代替としてのPTSへの期待が一気に高まっていた。
だが、PTS市場の活性化の成否のカギを握るのはもともと取り扱いが少ない株式の取引量ではなく、来年度の開始を目指している国内初となるブロックチェーン(分散型台帳)技術を活用したデジタル証券取引だろう。これによって既存の有価証券よりも小口で発行することができ、少額投資が可能になる。さらに社債や不動産のほか、美術品、映画版権などのデジタル証券化も視野に入れている。
一方で、PTSは新興市場であるだけに、公的取引所に比べて規制やコンプライアンスが整備されているのか問われる局面もありそうだ。過去の新興市場の勃興時に起きたような不公正なファイナンスなど、PTSが反社勢力のマネーメイキングの舞台とならぬよう、反社会的勢力への流入は徹底して遮断することが求められる。
大阪ではコメ先物などを扱う大阪堂島商品取引所が昨年4月に株式会社に生まれ変わり、SBIはここにも出資しているが、これと併せてODXがうまく稼働すれば、SBIの北尾吉孝社長がかねてから提唱してきた同社主導による国際金融取引センター構想の実現に向けて大きく前進することになりそうだ。