6月11~12日にハンガロリンクで開催されたWTCR世界ツーリングカー・カップ第3戦は、ミケル・アズコナ(BRCヒョンデN・スクアドラ・コルセ/ヒョンデ・エラントラN TCR)が週末オープニングのレース1をポール・トゥ・ウインで制し、今季2勝目を獲得。続くレース2ではリバースポールのサンティアゴ・ウルティア(シアン・パフォーマンス・リンコ&コー/リンク&コー03 TCR)が、ロブ・ハフ(ゼングー・モータースポーツ/クプラ・レオン・コンペティションTCR)らの猛攻を凌ぎ切り、今季初勝利を手にした。
5月28~29日の週末に伝統のニュルブルクリンク24時間レース併催戦として実施された第2戦では、WTCRのコントロールタイヤを供給するグッドイヤーに「安全上の懸念」が発生し、レース開催直前にキャンセルの決定が下される緊急事態となっていた。
その後、週末にトラブルが頻発したタイヤセットや同じ製造ロットを含め「包括的なテクニカル分析を実施する」としたグッドイヤーは、このハンガリーを前に「製造上の問題は発見されなかった」との声明をリリースすると同時に、東欧での週末に向け「代替仕様のタイヤを導入」するとアナウンスした。
このタイヤはレースウイーク前にスロバキアリンクでテストを実施した“拡張版”として、このハンガリーの週末で投入されることに。各車はこの第3戦で特別に追加供給される合計4セットのうち2セットを従来品、もう2セットにこの拡張版を受け取り、2回目のフリープラクティスを30分から45分へと延長することで、性能と特性を学習する機会が設けられた。
そのFP1ではテッド・ビョーク(シアン・パフォーマンス・リンコ&コー/リンク&コー03 TCR)が、続く延長FP2ではウルティアが最速と、ニュルでは“被害の当事者”だったリンク&コー陣営が速さを披露。これらのセッションで得たさまざまなデータも調査した結果、グッドイヤーは酷暑が予想された日曜の決勝に向け「すべての車両のフロントアクスルに、強化仕様のタイヤを使用することを推奨」し、同時に「適切なキャンバーおよびタイヤ空気圧設定」を遵守するよう通達した。
続く予選では、Q1、Q2を経てジル・マグナス(コムトゥユー・チーム・アウディスポーツ/アウディRS3 LMS 2)と王者ヤン・エルラシェール(シアン・レーシング・リンク&コー/リンク&コー03 TCR)、ナサニエル・ベルトン(コムトゥユーDHLチーム・アウディスポーツ/アウディRS3 LMS 2)とエステバン・グエリエリ(ALL-INKL.COM・ミュニッヒ・モータースポーツ/FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR)に、アズコナの5台がQ3最後の1ラップ“シュートアウト“へと進出。
すると同イベントでも引き続き唯一のコンペンセイション・ウエイトが課されたホンダ・シビックは、搭載された40kgの影響かターン5と11で“走路外走行”となり、同じくアウディのマグナスもトラックリミット違反でベストタイムが抹消に。この結果「シケインでミスをした後、正直言って『ゲームオーバー』だと思っていた」と明かしたヒョンデのアズコナが10ポイントを獲得し、明日の決勝レース1をポールポジションからスタートすることとなった。
■レース1勝者のアズコナがポイントリーダーに浮上、ジロラミが追う展開に
そして迎えた日曜オープニングヒートは、ターン1に向けアズコナがホールショットを奪い、エルラシェールとの攻防を制したベルトンが2番手へ。アウトサイドを回ったマグナスも4番手に浮上し、今季復帰組のマ・キンファ(シアン・パフォーマンス・リンコ&コー/リンク&コー03 TCR)が5番手で続いていく。
さらに後方ではハフが毎ラップのようにポジションを回復し、一方シビックのグエリエリはやはりウエイトの影響からか、ジリジリと順位を落としていく。すると4周目には路面温度の高さから早くもタイヤの状況を気にする展開となり、リーダーのアズコナにも「タイヤを守るよう」指示が飛ぶ。
ベルトンやマグナス、ウルティアにはスチュワードからトラック制限を守るよう警告が出され、マグナスとの度重なるコンタクトにより、マ・キンファにはドライビング面でのアラートが発せられるなか、残り2周の時点でベルトンのアウディがワイドになり2番手から陥落。最終的にアズコナが“ライト・トゥ・フラッグ”を決め、2位エルラシェール、3位ベルトンの表彰台に。懸案のコントロールタイヤも、17周のレースを走り切った。
「この勝利は本当にうれしいよ。オープニングラップは相当に難しくて、ベルトンとエルラシェールからのプレッシャーにさらされた。でもクルマは素晴らしくチームも完璧な仕事をしてくれて、彼らをコントロールすることができたよ」と、開幕のレース2に続いて今季2勝目を挙げたアズコナ。
続くレース2は予選10番手でリバースポールを獲得したウルティアが、早くも4周目に「バイブレーションが出ている」との苦境を訴え、背後のハフに“バンパー・トゥ・バンパー”の勝負を強いられると、7周目のターン1では“帝王”イヴァン・ミューラー(シアン・レーシング・リンク&コー/リンク&コー03 TCR)のインサイドを突いたメディ・ベナーニ(コムトゥユー・チーム・アウディスポーツ/アウディRS3 LMS 2)が接触。このアクシデントで左フロントを破損したアウディがストップし、ここでセーフティカーが導入される。
このインターバルでわずかにタイヤマネジメントの助けを得たウルティアは、9周目の再開後も2番手ハフと3番手のネストール・ジロラミ(ALL-INKL.COM・ミュニッヒ・モータースポーツ/FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR)を従え、苦しみながらもわずか0.380秒差のトップチェッカー。
「僕はまだ生きているようだね(笑)。今日はとても暑くてタイヤに厳しく、本当にタフな条件だった。それに背後のロブはまったくミスを犯さず、至るところに顔を出してきた。こちらが気を抜けば、すぐにでもヤられそうな気配がムンムン漂っていたよ」と語ったウルティアが、自身も選手権ランキングで3番手にジャンプアップする貴重な勝利を得た。
これでレース1勝者のアズコナがポイントリーダーに浮上し、レース2では重たいクルマで「望外の3位表彰台」を得たジロラミが9ポイント差で追う展開となったシーズン。続く2022年WTCR第4戦は、6月25~26日にスペインのモーターランド・アラゴンでの1戦が予定されている。