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 6月11〜12日に行われた2022年WEC第3戦/第90回ル・マン24時間レースでは、トヨタGAZOO Racingの8号車GR010ハイブリッド(セバスチャン・ブエミ/ブレンドン・ハートレー/平川亮)が優勝を飾り、トヨタのル・マン5連覇を決めた。

 もう1台の7号車GR010ハイブリッド(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ・マリア・ロペス)も2位に入って、ワン・ツー・フィニッシュを達成。レースから4日後、今季よりドライバーとチーム代表職を兼ねる可夢偉は、平川とともに日本メディアのリモート取材に応じ、「チームとしては、同一周回のワン・ツーで終われたのはよかった」としながらも、7号車に途中発生したトラブルと“その影響”を悔やんだ。

■7号車のトラブル原因はECU

 レース中盤まで、トヨタの2台は順位を入れ替えながら緊張感のあるトップ争いを展開してきたが、16時間経過を前に7号車をトラブルが襲った。ドライブしていたロペスが何度かシステムをリセットする間に7号車は首位を失い、以降は8号車がリードを保ったままフィニッシュラインへ逃げ切っていた。

 当初は“フロントモーター関連の電装系トラブル”と発表されていたが、フィニッシュから4日後の取材では、この7号車のトラブルがECU(エンジン・コントロール・ユニット)に起因するものであることが明らかにされた。

「1周おくれになったので、僕らからすれば、現実的にはかなり厳しい。とはいえ、諦めるというのはこのレースに対して失礼だなという部分もあり、思いっきり走りました」と7号車のトラブルについて可夢偉は振り返る。

「最終的に2位ですが、チームとしてワン・ツーをとれたことと、最終的に同一周回に戻ってこれたのはポジティブだと思います。なので、僕らとしてはやり切ったレースではありました。個人的には、運がなかったなと思っています」

 今季から任されたチーム代表職。ドライバーと兼任しながらのレースは3戦目となるが、年に一度のビッグイベントでは、その仕事量は想像を絶するものとなっていたようだ。

「ひとことで言うと、“お腹いっぱい”です」と可夢偉は表現する。

「いろいろなことに気を遣いながら、このル・マンをやり切るにはエネルギーをいままで以上に使ったし、正直、こういうマネージメント経験がないので、まだまだ勉強の身。手探り状態でやるのは、半分不安です。その不安のなかでレースもミスなくやらなくてはいけないというのは……かなりお腹いっぱいな1週間、2週間でしたね」

 チーム代表業務の詳細について、可夢偉はさらに説明する。

「簡単に言えば、ほぼほぼ(すべて)の責任がチーム代表にあるので、すべてのことに首を突っ込んでいかなければいけない。もちろん、モリゾウさん(豊田章男社長)、佐藤(恒治GRカンパニー)プレジデントと常に連絡をとって状況を報告するのはもちろんのこと、ACO(フランス西部自動車クラブ。ル・マン24時間レースのオーガナイザー)とトヨタの関係を今後どうしていくのかという会合もあるし、スポンサーやパートナーの応援ツアーがあればそこに行ってコミュニケーションもとります」

「もちろんエンジニアリング上の、ドライバーとの細かいコミュニケーションの部分でも、乗っている身として“架け橋”にならなければいけませんし、チームとしてこのレースをどう戦うのかという根本的なストラテジーの部分でも、判断というか、最終的にどうするかという意見を言わないといけない」

「それにプラスして、運転して、ドライバーとしてのインタビューがあって、チーム代表としてのインタビューもあって……と結構な(仕事)量です」

「ほぼほぼの責任が自分にあるなかで、それを避けることもできるのかもしれませんが、僕は性格上、避けずにしっかり首を突っ込んで行ってしまうタイプなので……そういったことも気にかけながら、このレース、24時間をやり切りました」

フィニッシュ直前のトヨタ7号車のピット内
フィニッシュ直前のトヨタ7号車のピット内

■気になる来季以降の話は「言いたいけど、言えません(笑)」

 自らは2位。しかしチーム代表として臨んだ初のル・マンでワン・ツーと、リザルト上ではこれ以上ない結果となったことについて「達成感はあるか」と問われた可夢偉は、「正直、ないですね」と答えている。

「なぜかというと、僕がここまでを全部やったわけではなく、いままでこのチームを強くするためにいろいろな人たちがこのチームをまとめて、ここまでのベースというものを作ってくれていた。そういうものがあるからこそのワン・ツーであり、明らかに強いチームになったのだと思います」

「ただ、16時間までずっと10秒くらいの差でバトルをしていたのに、そんないいレースを最後までお客さんに見せられなかったのは、本音で言えばすごく悔しいです。最後の1時間まで、しっかりバトルするレースを続けられたら、お客さんをもっと楽しませられたと思うし、レースの魅力をもっと伝えられたのかなと思う。そこまでやったときに、ドライバーが本当にアスリートとして認知されるのではないか、というところも含めてです」

「結果を見ればそう(ワン・ツー)なんですけども、“見せる”という部分では、それがやりきれなかったという意味で、僕は悔しいなと思っています。来年は絶対そういうレースができるようにしたいと思っています」

 チーム代表としてACOと話をするなかで、来季以降の規則などの話も出たのでは? と話を向けられた可夢偉は、「うーん、言いたいところですけど、何も言えません(笑)」とかわした。現在、一部ではトヨタが来季向けに新たな車両を作り直すのでは、という噂が囁かれている。

「ただもちろん(規則の整備などは)この先やっていかなくてはいけない部分ですし、モータースポーツにもカーボンニュートラルが必要とされるなかで、耐久レースがどうやってカーボンニュートラルに向っていくか。そこに関しては、おそらくですけども、新しいやり方じゃないとできないのかなという部分で、ACOとは密にコミュニケーションをとって、やっていかなければいけないと思います」

「この部分に関しては、ル・マンだけではなく、常にコミュニケーションを取って、未来に向かってしっかりとカーボンニュートラルなモータースポーツを目指していければと思っています」

2022年ル・マン24時間レースで総合2位となった7号車トヨタGR010ハイブリッド
2022年ル・マン24時間レースで総合2位となった7号車トヨタGR010ハイブリッド