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50:50はホントに理想的か? 重量配分の秘密を考える

 前輪と後輪それぞれに加わる重量の比率を「前後方向の重量配分」と言い、50:50などの数値で表記する。もちろんクルマのさまざまな要素によって重量配分は変化するが、前後が均等になる50:50が理想的との意見も多い。

 では、なぜ50:50がいいのか? そしてその重量配分を実現した車種は何か? 比率の異なるクルマも例にしながら見ていくことにしよう。

文/長谷川 敦 写真/マツダ、トヨタ、BMW、ポルシェ、ランボルギーニ、スズキ、アストンマーティン、日産

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重量配分によって何が変わるのか?

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マツダ ロードスター。写真は現行モデルだが、ロードスターシリーズは初代から50:50の重量配分を変えていない。それだけバランスを重視しているということだ

 前後重量配分はクルマのハンドリング特性に影響を与える。前が重いクルマは鋭い回頭性が得られず、ドライバーのイメージよりもコーナーを大きく回ってしまうアンダーステアを誘発しやすい。逆に前が軽いと回頭性は高まるものの、テールスライドしてしまうこともある。これは、重量のあるものの向きを変えるには大きな力が必要になり、同時に動いている重いものを止めるにもまた大きな力が要求されることが理由だ。

 フロントヘビーのクルマは直進状態から向きを変える際に重さがネックになっていわゆる“曲がらない”状態になり、一度滑り出してしまうと、重量からくる慣性の大きさによって、それを止めるのに苦労する。前が重いクルマがアンダーステアになりやすいのは、このような力学が働いているから。

 その点前後重量配分が50:50のクルマはバランスがよく、素直で扱いやすい操縦性を発揮すると言われている。ただし、ここで言う重量配分とはあくまで静止状態でのことで、走行中の加速やブレーキングなどによってクルマの各タイヤに加わる荷重は常に変化する。前後方向だけでなく、コーナーでは左右タイヤの荷重も変わるので注意が必要。

 とはいえ、クルマの基本的な特性を決めるうえで前後重量配分が重要なのは間違いなく、それゆえに各メーカーも、クルマを設計する際には理想とする重量配分になるよう考慮するのだ。

50:50にコダわるマツダの矜持

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現行型マツダ ロードスターのフレーム。エンジンが前車軸よりも後ろに搭載されていることがわかる。燃料タンクを後部に置いてバランスを最適化する

 マツダ製ライトウェイトスポーツカーのロードスター。現行モデルで4代目となるこのロードスターは、初代モデルから重量配分50:50を目標に設計されている。これはもちろんマツダが50:50を理想的だと考えているから。

 初代モデルのユーノス ロードスターが発売されたのは1989年。運転していて楽しいライトウェイトスポーツカーを目指して開発されたロードスターは、フロント車軸よりも後ろにエンジンを搭載するFRレイアウトを採用したことにより50:50の重量配分を実現した。

 狙い通りにロードスターのハンドリングは軽快感の高いものとなり、高評価を獲得した。もちろん重量配分だけでなく足回りの設計やボディ剛性、エンジンの特性なども操縦性のよさに貢献しているのは間違いないが、重量配分も重要な要素となっている。

 現行の4代目ND型ロードスターでも前後重量配分50:50は継承されている。これはもはやロードスターのアイデンティティとさえ言えるだろう。

 マツダのスポーツカーと言えば、RX-7の存在も忘れてはいけない。RX-7ではロータリーエンジンやボディスタイルに注目が集まりがちだが、実はロードスター同様に重量配分にも気が配られている。

 1978年に登場した初代サバンナRX-7では、レシプロに比べて全長の短いロータリーエンジンの特徴を生かしてフロントミドシップデザインが採用された。駆動レイアウトはFRで、2名乗車時にフロント/50.7、リア/49.3というほぼ理想的な重量配分を現実化している。

 2代目RX-7の発売は1985年。開発コンセプトは「心地よい緊張感が感じられるクルマ」であり、それを実現するのに50:50の重量配分達成は欠かせなかった。エンジンが初代の12A型から13B型になるなどの変更はあったが、完成した2代目FC型RX-7の前後重量配分は50.5:49.5に仕上がっている。

 RX-7シリーズ最後のモデルとなるFD型は1991年にリリースされた。このモデルから3ナンバー専用サイズとなったが、拡大されたのは全幅のみであり、全長、全高、ホイールベースは先代モデルより小さくなっている。そのため50:50の重量配分は維持され、このFD型のハンドリングも高く評価されることになった。

ドイツのメーカーは頑固一徹? BMWとポルシェのポリシー

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4ドア車はFF化されたが2ドアクーペモデルはFRレイアウトを維持したBMW2シリーズ。これはもちろん理想としている50:50の重量配分を実現するため

 ドイツには個性的な自動車メーカーが数多くあるが、BMWとポルシェはその代表格と言える。そして興味深いことに、クルマに関する考え方で、このふたつのメーカーには大きな違いがある。

 近年はFFモデルにも力を入れているものの、BMWの主力製品は依然としてFR、あるいは4WDだ。これは前後重量配分を50:50にするのに都合がいいのはFRレイアウトだから。

 先のマツダ車でも見たように、エンジンをフロント車軸より後ろに搭載してそこから駆動系をリアに向かって伸ばし、後輪にドライブシャフトを組み合わせれば前後の重量はほぼ均等になる。BMWが採用しているのがこの方法で、駆動効率などよりも重量配分を重視してFRを選んだ可能性が高い。

 もちろん、操舵を前輪が担当して駆動を後輪が受け持てばFFに比べて前後タイヤを効率よく使えるようになり、結果としてクルマの操縦性は向上する。このことは重量配分と直接関係はないが、スポーティなモデルにFRが多いのはこうした理由も含まれている。

 重量配分が50:50のクルマは走行中の荷重移動もさせやすく、高速コーナリングの際にドライバーが自由に制御できる範囲が広がる。BMWの目指す理想はここにあるのだろう。

 対するポルシェのアイデンティティと言えば後輪軸よりも後ろにエンジンを搭載するRRレイアウトだ。BMW同様に最近ではRR以外のレイアウトを採用するポルシェも増えてきているが、フラグシップの911シリーズは現在でもRRを続けている。

 メーカーからの正式な発表はないが、RRポルシェの前後重量配分は33: 67程度であると言われている。やはりリアにエンジンがあると相当なテールヘビー状態になっていることがわかる。

 テールヘビーなクルマの利点はリアタイヤのトラクションが上がること。駆動輪であるリアタイヤへの荷重が大きいため、加速の際にはリアタイヤがしっかりと路面をとらえ、圧倒的な“蹴り出し”が得られる。

 フロントが軽いこともあってコーナー進入時の回頭性も良好だが、問題は限界付近でリアが流れ出したとき。リアオーバーハングにあるエンジンの重さによって慣性が大きくなり、一度タイヤが滑り出してしまうとコントロールが難しくなる。

 その対策としてポルシェではRR車のリアタイヤを太くしているものの、今度はそれが原因で重量増や車幅の拡大を招いてしまう。スポーツカーであってもRRの採用例が少ないのはこれらが理由だ。だが、初代モデルからRRを採用しているポルシェにとって、これは譲れない個性でもある。

ミドシップは理想的ではない?

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トヨタが1999~2007年に販売していたミドシップライトウェイトスポーツカーのMR-S。前後重量配分は42:58だったがバランスはよく、操縦性も評価されている

 理想の重量配分を考えるうえで欠かせないのが、運転席と後輪の間にエンジンを搭載するミドシップ(MR)。レーシングカーでも採用され、スーパーカーにも多いこのレイアウトだが、実はフロントミドシップに比べると50:50の重量配分に仕上げるのは難しい。

 MRレイアウトでは駆動輪となるリアタイヤの直前にエンジンが載り、ギアボックスやドライブシャフトなどの駆動システムもリアに組み込まれる。このためどうしてもリアが重くなり、現状ではトヨタ最後のミドシップモデルであるMR-Sの重量配分は42:58だった。

 つまり、フロントが軽くてクイックに向きを変えるものの、限界付近での挙動はシビアになりがち。とはいえRRほどではなく、ドライバーのコントロール下にあるのなら、十分に戦闘力の高いレイアウトではある。また、ミドシップレイアウトは重量物を車体中心に集めやすく、これも運動性能の向上に効果を発揮する。

 しかし、実用性を考えるとFRやFFに対してあまりに不利であり、スポーツカーであってもミドシップを採用するモデルは減っている。

FFでも高バランスになる秘密とは?

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コーナリング性能の高さには定評のあるスズキ スイフトスポーツ。FFレイアウトのためフロントヘビーだが、それを感じさせない操縦性にチューンされている

 最後に考えたいのはフロントにエンジンを搭載してフロントタイヤが駆動するFFだ。このレイアウトでは重量物がほぼすべてフロントに集中してしまうため、フロントヘビーになるのは宿命と言える。

 実際、スポーティなFFの筆頭に挙げられるスズキ スイフトスポーツの重量配分はだいたい64:36と言われていて、フロントヘビーであることは事実だ。

 しかし、操舵に加えて駆動も受け持つFFのフロントタイヤには適度な荷重が必要。加えてフロントが重いということは、コーナーで限界を超えた時にリアよりもフロントが先に滑り出すアンダーステア特性になるため、MRやRRと違って限界オーバー=即スピンにはなりにくく、その面では安全と言える。

 最後にFF車の重量配分に関するエピソードをひとつ。

 1970年代から活躍していた国内モータースポーツ史上で伝説的存在のH選手。すでに一線から退いているのでH氏だが、このH氏は技巧派でならしたレーサー時代の印象からFFのアンダーステアが嫌いとのことだった。だがある時、日産 ノートのe-POWERをドライブする機会があり、その操縦性に驚いたという。

 ノート e-POWERはフロントに発電用エンジンと動力用モーターを積むFFモデルだが、予想していたようなアンダーステアがほとんど出なかったとのこと。そこで調べてみると、たしかに動力系はフロントにあるものの、前部に置き場のないバッテリーは前側座席の下に搭載されていたのだ。

 これによってフロントヘビーは弱められ、結果としてe-POWERの操縦性は改善されていた。これこそまさに重量配分の妙と言える。

 今回はクルマが静止している状態での重量配分に注目したが、先に書いた通り走行しているクルマの荷重は常に移動している。ただしこれは運転の仕方やタイヤのグリップなどで大きく変化するので、走行中の荷重と静止状態の重量配分の関係については別の機会に考えたい。

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