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 フランス、ル・マンのサルト・サーキットを舞台に争われた2022年WEC世界耐久選手権第3戦/第90回ル・マン24時間レースは、現地時間の6月12日16時過ぎにフィニッシュを迎えた。

 総合優勝を遂げたのはトヨタGAZOO Racingからハイパーカークラスに参戦した8号車GR010ハイブリッド(セバスチャン・ブエミ/ブレンドン・ハートレー/平川亮)。トヨタにとっては2018年のル・マン初制覇から5年連続での優勝となり、今季よりトヨタのドライバーに抜擢された平川にとっては、初の総合優勝となった。

 ブエミとハートレーは、2020年に中嶋一貴とともに優勝して以来、2年ぶりの勝利。また、8号車陣営としては2022年シーズンにおける初優勝ともなった。

 レース中盤まではトヨタの2台に大きなトラブル・アクシデントはなく、順位を入れ替えながら接戦のトップ争いを繰り広げていたが、スタートから16時間経過を前に、首位を走行していた7号車(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ・マリア・ロペス)にフロントモーター関連の電装系トラブルが発生。ロペスがコース上とピットでいったんマシンを停め、システムの再起動を行ったことでタイムロスが生じ、8号車に首位を譲る形となっていた。

 レース後半は8号車がリードを保ち、1周以内の差で7号車が続く展開に。終盤にかけても8号車と7号車のギャップは大きくは変わらず、8号車のハートレーが栄光のトップチェッカーを受けた。

 2021年大会の優勝トリオがドライブする7号車は、総合2位でゴール。総合3位には、グリッケンハウス・レーシングの709号車グリッケンハウス007 LMH(ライアン・ブリスコー/リチャード・ウエストブルック/フランク・マイルー)が入った。

 LMP2クラスの優勝はJOTAの38号車オレカ07・ギブソン(ロベルト・ゴンザレス/アントニオ・フェリックス・ダ・コスタ/ウィル・スティーブンス)。

 フェラーリ、ポルシェ、シボレーによる激しいバトルが繰り広げられたLMGTEプロクラスでは、ポルシェGTチームの91号車ポルシェ911 RSR-19(ジャンマリア・ブルーニ/リヒャルト・リエツ/フレデリック・マコウィッキ)がクラス優勝を遂げた。

 LMGTEアマクラスはTFスポーツ33号車アストンマーティン・バンテージAMR(ベン・キーティング/エンリック・チャベス/マルコ・ソーレンセン)が制している。

 日本勢では、木村武史がラインアップに加わったケッセル・レーシング57号車フェラーリ488 GTE EvoがLMGTEアマクラス12位で完走。同クラスに通年参戦しているDステーション・レーシング(星野敏/藤井誠暢/チャーリー・ファグ)777号車アストンマーティンはシャシーの損傷により途中リタイアとなった。

■レースレポート:18時間〜24時間

 スタートから18時間経過時点でトップを走行していたのは8号車のハートレー。2番手7号車はロペスがステアリングを握っていた。

 その他のクラスでは、JOTAの38号車がLMP2をリード。プレマ・オーレン・チームの9号車オレカ、JOTAの28号車と続くオーダー。

 LMGTEプロは18時間経過直前に首位コルベットがLMP2との接触でクラッシュし、代わってAFコルセ51号車フェラーリ488 GTE Evoがトップに立っていた。LMGTEアマクラスでは、TFスポーツ33号車アストンマーティン・バンテージAMRがクラス首位を走っていた。

 トヨタは18時間経過直後に首位8号車をピットに呼び戻し、平川が自身3回目のドライブへ。20分ほど遅れて、2番手7号車も可夢偉へと交代する。2台のギャップはコース上がグリーンの状態で3分強。可夢偉はファステストラップをマークしながら、見えない平川を追った。

 この時点で首位争いが最も僅差となっていたのは決勝前日に2022年限りでの終了がアナウンスされたLMGTEプロクラスで、51号車フェラーリのアレッサンドロ・ピエール・グイディを約10秒の差で91号車ポルシェ911 RSR-19のフレデリック・マコウィッキが追っていた。

 18時間40分、LMP2クラスの6番手を走っていたWRT31号車オレカ07・ギブソンをドライブするロビン・フラインスがインディアナポリス立ち上がりの縁石に乗ってスピンし、コース左側のガードレールに正面からクラッシュ。フラインスは自力でマシンを降りている。

 このアクシデントにより、このレース初めてのセーフティカーが導入された。LMGTEプロ首位の51号車フェラーリと2番手91号車ポルシェのギャップは、完全にゼロとなる。セーフティカー解除後、テール・トゥ・ノーズ、コンマ差でこう着状態が続くなか、19時間22分で2台は同時にピットへ。91号車ポルシェがドライバーとタイヤを替えた一方、燃料補給のみでピットアウトした51号車フェラーリがリードを広げてコースへ復帰していった。51号車から91号車ジャンマリア・ブルーニの差は13秒ほどとなる。

 しかし、数周後に51号車フェラーリは右リヤタイヤ1本のみの交換作業を行い、首位から転落してしまう。この結果、91号車ポルシェ、51号車フェラーリ、52号車フェラーリというオーダーで、同一周回で終盤トップを争うこととなった。

 一方、トヨタの2台はセーフティカー後にギャップがやや広がった。可夢偉はこのギャップをまたしても詰めていき、20時間が経過する頃には2分50秒ほどの差となる。

■レース最終盤の緊迫感

 残り4時間、4つすべてのクラスで首位と2番手は同一周回で走行を続ける接戦のなか、レースは最終盤に突入していった。残り3時間を前に、トヨタ陣営の8号車はブエミは、7号車はコンウェイへとドライバーチェンジを行う。

 21時間30分を過ぎたところで、LMGTEアマクラスの3番手を走行していたデンプシー・プロトン・レーシングの77号車ポルシェ911 RSR-19がガレージに入れられ、修復に入った。これによりハードポイント・モータースポーツ99号車ポルシェがクラス3番手へと浮上した。

 この直後、クラス2番手をゆくウェザーテック・レーシングの79号車ポルシェが、ポルシェコーナー進入でオーバーランを喫するが、グラベルを横切ってコース復帰に成功する。

 残り2時間を切り、首位のトヨタ8号車はブエミからハートレーへとドライバーチェンジ。確実なピット作業でコースへと送り返す。続いて7号車もロペスへとマシンを託した。残り1時間半の時点で、2台のギャップは2分10秒ほどとなる。

 このまま2台のギャップはほぼ変わらず、最後の1時間に入って残り26分で8号車ハートレーが最後のピットに。続いて7号車ロペスがピットで燃料補給を済ます。

 各クラスとも最終ピット作業を終えたクルーが健闘を称え合うなか、最後の最後まで何が起こるか分からないという緊張感も同時に漂う独特のラスト数分を経て、8号車のハートレーがトップチェッカー。トヨタのピットは歓喜に包まれた。

 LMP2はJOTAが終始危なげなく走って優勝。プレマ9号車、JOTA28号車が表彰台に立った。

 終盤、LMGTEプロは91号車ポルシェと51号車フェラーリがピットインの度に首位を入れ替える展開となったが、やがて91号車がリードを保つ形に。残り40分を切ったところでマコウィッキは最終ピットストップへ。その後もリードを保ち、マコウィッキにとって悲願だったル・マンでのクラス優勝を達成した。フェラーリ51号車、52号車が続いた。

 LMGTEアマではTFスポーツ33号車がリードを保って優勝を遂げている。ウェザーテック・レーシングの79号車ポルシェが2位、終盤表彰台圏内に浮上したノースウエストAMRの98号車アストンマーティンが3位に入っている。

 ケッセル・レーシングの57号車は木村がチェッカードライバーを務め、クラス12位でチェッカーを受けている。

 2022年のWECはこれで3レースを終了。第4戦は7月10日に、イタリア・モンツァで行われる。ここではプジョーの新型ル・マン・ハイパーカー、『9X8』がデビューを飾る予定だ。そして9月には3年ぶりに日本の富士スピードウェイで第5戦の6時間レースが開催されることとなっている。