6月17日、全日本スーパーフォーミュラ選手権第5戦の搬入日を迎えたスポーツランドSUGOにて、6月11〜12日に行われた2022年WEC第3戦/第90回ル・マン24時間レースに参戦した小林可夢偉、平川亮の凱旋報告会見が、JMS日本モータースポーツ記者会とJRPA日本レース写真家協会の共催で行われた。
第90回目を迎えたル・マン24時間レースではトヨタGAZOO Racingの8号車GR010ハイブリッド(セバスチャン・ブエミ/ブレンドン・ハートレー/平川亮)が優勝を飾り、トヨタのル・マン5連覇を決めた。もう1台の7号車GR010ハイブリッド(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ・マリア・ロペス)も2位に入り、トヨタがワン・ツー・フィニッシュを達成。6月16日にはトヨタGAZOO Racing主催のオンライン取材会が行われたが、スーパーフォーミュラ第5戦参戦のため、スポーツランドSUGO入りをしたばかりの可夢偉、平川が、改めて記者やフォトグラファーを前に、それぞれの思いを語った。
■2023年に向けて「トラブルを絶対出さないクルマを作る」と可夢偉
2022年大会のハイパーカークラスは、トヨタ、アルピーヌ、そしてグリッケンハウスの計5台での戦いとなった。ハイパーカー規定導入から2連覇を果たしているトヨタGAZOO Racingは、来年の第91回ル・マン24時間レースへも勢いをそのままに通算6連覇、ハイパーカー規定3連覇を目指すこととなる。しかし2023年シーズンに向けては、ハイパーカー規定のプジョー9X8やフェラーリ、そしてLMDh規定のキャデラック、ポルシェなどのマニュファクチャラーが、参入に向けて準備を進めている状況だ。
ライバルが増えることとなる来年度大会に向けて可夢偉は、「ドライバーとしては、速く走るしかないです。 ただ、ライバルが増えることは非常に楽しみです」としつつ、チーム代表という立場から、来季に向けた課題を口にする。
「チーム代表として見ると、他のマニュファクチャラーが次々と参戦してくることによって、BoP(バランス・オブ・パフォーマンス/性能調整)も含めいろいろと変わってくると思います。 その変化に対し、僕たちもうまく対応しなければいけません。まずは自分たちが持っているパフォーマンスを、FIA(国際自動車連盟)にしっかりと理解してもらって、フェアにいいレースができるように、やっていかないとと考えています」
「(新たに参戦するライバル勢が)いきなり24時間レースをトラブル無く走りきれるかといえば、そう簡単にはいかないのではと思っています。ただ、そんなことを言いつつ、僕らがトラブルを出すようでは駄目なので、僕らとしてはトラブルを絶対出さないクルマを作るということが、2023年には非常に重要になってくると考えています。そこに集中して、1年かけて準備していく必要があると思っています」と語った。
現在、一部ではトヨタが来季向けに新たな車両を作り直すのでは、という噂が囁かれている。可夢偉の語った「トラブルを絶対出さないクルマを作る」ということが新たな車両制作に関する言葉なのか、その真意はまだ見えない。しかし、ライバルが増える2023年度大会に向けた準備、取り組みは、すでに始まっていると言えるだろう。
■「トラフィック対し余裕を持ちすぎていた」と平川亮
一方、通算3度目、最高峰ハイパーカークラスでの初めての参戦でル・マン・ウイナーとしてその名を刻むこととなった平川は、「いきなりル・マンのトップ争いに出たっていう感じだったので、乗る前は結構緊張しました」と、自身のスティントを振り返った。
「しかも、自分が出る前に7号車とのギャップが急に近くなって、 いきなりトップに立つというシチュエーションだったので、正直ビビったのですが、コースへ出ると普通に走れました」
そんな平川は、可夢偉とのランデブー走行を続けるなかで、「トラフィックに対するマネジメントに余裕を持ちすぎていた」ことに気づいたと振り返る。
「そこは来年、自分がもっとプッシュしなければいけない場面が出てきたら、 しっかりとやってみたい点ですね。でも、今年も自分なりにマージンを取って走ることができたので、そこは自信に繋がったと思います。来年は自分がどこまで成長できるかが楽しみです」
■可夢偉チーム代表の意外な“仕事”
今年からトヨタGAZOO RacingのWECチームの代表に就任し、通算7度目のル・マン参戦となった可夢偉には、「ル・マン24時間への参戦を重ねることで、疲労感や緊張感に変化はあるか」という質問が飛んだ。
「もちろん最初のころに比べると、いろんなことに余裕を持てています。どこでエネルギーを使うかというところを、うまく分担できるようになったので。正直、24時間レースはやればやるほど楽になっていきます。なので、僕は年に2〜3回24時間レースに参戦しています(編注:ル・マン24時間のほかにはデイトナ24時間、富士24時間に参戦)が、 正直言うと、今年は走る部分だけだったら、体力的には余裕があったと思います」と可夢偉。
「ただ、今年は走ること以外の仕事がもういっぱいいっぱいで。そっちに80%くらいのエネルギーを使った気がしますね。チーム代表の仕事も含め、うまくやっていかないといけないなっていうのは、来年の僕の試練のひとつかなと思っています」
そう語った可夢偉は、続けて平川に「どう、僕はきちんとチーム代表できていた? すごく不安なのだけど」と訪ねる場面も。
その問いに平川は「僕は今年から入ったので、去年との違いがわからないのですけど(笑)」としつつ、「でも、クルマに乗ってない間も、ミーティングやVIP対応に出向いたりしてて、結構大変だなと思っていました。僕はドライビングにだけ専念してるのですけど、可夢偉代表はそれ以上のことをやられていたので」と語った。
また、ル・マンのレースウイーク終了後、翌13日にはパリから日本への飛行機が飛び立つため、レース後はフランス西部のル・マンから首都パリまで可夢偉チーム代表が自ら運転したというエピソードも語られた。
「やはり、ル・マン・ウイナーの平川選手に運転させちゃいけないと思って、僕がル・マンからパリで運転させていただいて、平川さんをホテルまで送迎させていただきました」(可夢偉)
「気づいたらクルマに乗っていて、気を失うように眠っていましたね。ありがとうございました」(平川)
なお、ル・マン・ウイナーとして歴史にその名を刻んだ平川だが、優勝を祝うたくさんのメッセージが届き、17日のスポーツランドSUGOのパドックでも関係者からも祝福の声をかけられたというが、現在も優勝した実感は湧いていないと明かした。
「実感が湧くって言葉をググって(検索して)、実感が湧く方法をちょっと研究してみようと思います」(平川)
「一年間頑張って調べてみよう!(笑)」(可夢偉)
■ル・マンを終えて挑むSF第5戦「今回は僕が1位がいいですね」と可夢偉
また、翌日から走行開始となるスーパーフォーミュラ第5戦SUGOについて、いつも以上に気合が入るレースとなるのでは? と記者から尋ねられた平川は「そうですね。でも、特にやることには変わりはないかなと思っています。これまでオートポリスまでやってきたことの延長線上で、引き続きやっていければ結果は出ると思っています。SUGOは個人的にも好きなサーキットで、2年ぶりなので非常に楽しみにしてます」と語った。
一方、可夢偉は「僕はいつも通りにはしません」と力強い言葉で意気込みを語る。
「最近、悔しいレースが続いているので、ここで流れを変えたいという意味を込めて。僕もこのSUGOは結構得意なサーキットなので、ここで流れを変えるように、しっかり戦うことができればいいなという意味でも、いつも以上に頑張っています」
「今回は僕が1位がいいですね。(隣に座る平川の顔を見て)頼みますよ。もし、僕らがワン(平川)・ツー(自分)だったら、譲ってな」
「はい。考えておきます(汗)」(平川)
凱旋報告会見は終始和やかな雰囲気のもと開催され、最後にはJMS日本モータースポーツ記者会の高橋二朗会長とJRPA日本レース写真家協会の小林稔会長より、可夢偉、平川の両名に花束が送られた。